Giles Milton という、私の好きな イギリスのノンフィクション作家の "Nathaniel's Nutmeg" という本を 読んでいます. 17世紀初頭のスパイス争奪戦の話です. その中で イギリス人船長 Hawkins とムガール皇帝 Jahangir の出会いを描いたくだりがおもしろい.
ムガール帝国って モンゴル系だろうと思ってたんですが、トルコ系の王朝なんだそうですね. ま、あの時代モンゴル系、トルコ系と 区別すること自体が 適切じゃないのかもしれませんが.
皇帝の名 "Jahangir" は 今のトルコ語だと "Cihangir"、ペルシャ語由来の名前で <世界の征服者>という意味だそうですね. Kanuni Sultan Süleyman の(つまりは Hürrem の)末子も Cihangir でした. もっとも この王子は<世界征服者>には ほど遠く、背中に持病をかかえていて 鬱気味で、若くして亡くなった人だったようですが.
そういえば、タージ・マハールを 作ったのは Jahangir の息子 Shah Jahan ですね.
閑話休題. 事情は省略しますが、Hawkins は ムガール帝国の首都アグラに やってきます. 皇帝 Jahangir は 謁見する者たちから 献上品、それも極上の品物を要求することで 知られていたらしいです. ところが Hawkins は、それまでの経緯から 献上品を ほとんど 持っていなかったんです. 皇帝が 激怒するんじゃないかと 心配していたが、この船長、たまたま トルコ語が しゃべれたそうで、そのおかげもあってか、皇帝と 意気投合したらしい.
ムガール帝国の公用語は、チャガタイ語、ペルシャ語、ウルドゥ語だそうなので、皇帝は 恐らく チャガタイ語で しゃべったんでしょうね. 当時のトルコは オスマン帝国の時代. Hawkıns の <トルコ語>は 当時の公用語だった オスマン語だったのか、あるいは 巷で使われていたオグズ・トルコ語だったのか. ウイグル語やウズベク語に近いとされるチャガタイ語と オスマン時代のトルコ語、いったい この二人の<トルコ語>は どのくらい通じたんでしょうか.
さて、元々 Hawkins は 貴族ではなく 一介の船長に 過ぎなかったんですが、皇帝から "İnglis Khan" の称号を 授けられ ムガール帝国の貴族として アグラで生活することになります. 毎晩 皇帝と過ごすなど、側近というよりは 親友のような関係だったようです.
皇帝は 嫁をもらえと言ったそうなんですが、Hawkins は ムスリムの女性と結婚することはできないという口実で これを断ったそうです. すると 皇帝は アルメニア人の女性(キリスト教徒)を 見つけてきて これならどうだと 迫ったようです. そこまでされたら 結婚しないわけには いかないですよね. こうして Hawkins は アグラで 生活を続けることになります. もっとも このアルメニア女性とは いい夫婦仲だったようです.
おかげで ムガール帝国が ちょっと 身近に感じられました.
