夜8時頃、看護師の中村さんに手伝ってもらいながらベッドから車いすへと移り、母とともに武内先生の待つ部屋へと向かった。

扉を開けた先には武内先生が座って待っていた。武内先生は整形外科病棟のトップ。先生の前にはボクのレントゲン写真がずらりと並んでいた。

武内先生が口を開いた。

「これから大事な話をしなくてはならないけど落ち着いて聞いてほしい」

とても重い空気だった。
この状況では良い話ではないことは確定だ。でも足を失うとか、そんな話にだけはならないで欲しいと祈る思いで先生の言葉を待った。

すると信じられない言葉が。

「病名は骨肉腫といって骨のガンなんだ」

先生は続けた。

「ガンはからだの他の部分、特に肺に転移することが多く、最悪の場合は死ぬかもしれない病気なんだ」

ボクがガン?まさか。耳を疑うとはまさにこのことだ。

しかし足を失う心配をよそにガンの宣告を受けることになるとは予想もしていなかった。


「幸い転移は見られないからひとまず安心なんだが、このまま放っておけばいずれ肺に転移してしまう」

それはつまりどういうことか。ある程度は予想がしていたが確かめたい思いが先立ち、自分から切り出した。

「足を切断しなければならない、ということですか?」

先生はうなずく。

「これからも生きるためにそうすべきだと思うんだ。直野君はまだ若いし将来もある。つらいとは思うがそうするべきだと思うんだ」

あれからずっと予感はしていた。薄々分かっていた。でも心のどこかで認めたくない自分も居て揺れる日々だった。しかしその予感は見事に的中してしまった。

1984年冬。16歳3ヶ月。

人生で最も重い決断を迫られることになった。