11月。たぶん外は寒いんだろう。ボクは暖房の効いた病室で寝てるだけだからその寒さは分からない。

去年の今ごろは高校受験を目指そうと改心した時期。あの頃を懐かしみながら病室の窓から白い空をながめてため息をついてばかりいた。


看護師が検温に来る。決して美味しくない病院メシを食べて、いつものようにヘッドホンをしてエレキギターを弾く。少しは勉強もしたが、ただ時間をつぶすために費やしているような毎日。

いつかサクマとバンドをやる。そのことを励みにいつ来るかわからない退院の日を思った。


あることに気づく。同じ病棟には片足や片腕が無い入院患者がいるのだが、彼らと自分の病気との関連性だ。

昼間のあいだは換気の意味もあり、通路に通じる出入口の引き戸は開放していた。扉の先の通路を行き交う人の姿に、片足がない患者を何人か見つけたのだ。そして徐々に他人事ではないような気がしてきたのもがこのころだった。


回診に来た小林先生に聞いた。

「先生・・・ひょっとしてボクの足はなくなるの?」

恐る恐る聞いた。

すると先生は、「大丈夫だよ」と言ってくれた。

「良かった」

期待した答えが返ってきた。

次にこう聞いた。


「じゃあいつ退院できるんですか?」

すると先生は、

「ハッキリとは言えないけど薬が効いているから」

「もう少しだけガマンしようね」

明確な答えではなかったが、「薬が効いている」という言葉がボクにはとても心地よく響いた。同時に少しだけ気持ちが晴れた。

なぜなら退院時期が分からない不安ももちろんだが、高校留年の不安もあったからだ。一刻も早くココを脱出して学校に行きたいし、留年だけは避けたい。

薬が効いているということだから、きっと次は退院の話が出るだろう。都合の良いように想像をふくらませた。



同じ病棟にシンちゃんという子がいた。とても元気な小学4年生の男の子だ。シンちゃんは治療のために滋賀県から来ていた。

シンちゃん。実は片足がない。ボウズ頭でスカーフを巻いているからボクには病気で大変そうな子に見えたが、明るい元気な姿のギャップに感心した。

ある日のこと。そんなシンちゃんが両手で松葉杖をついてボクの病室に入ってきた。シンちゃんは銀色のポンプを指さしてこういった。

「お兄ちゃんね、ボク、これと同じのつかったことがあるよ」

銀色のポンプとはボクの動脈から幹部に向けて薬を送り込む機械のことだが、シンちゃんがくったくのない笑顔でボクに言った瞬間、ボクはようやく事の重大さに気付いたのだった。


その日の午後、いつものように小林先生が回診に来た。

「先生、オレ、足切るんでしょ」

「シンちゃんが言ってたよ。これと同じもの使ってたって」

「先生、そういうことだよね?」

否定して欲しい。心のなかでそう願いながら祈るように質問をした。先生の表情は一瞬だけ曇ったように見えたが、結局いつもどおりの受け答えをして病室を出た。そしてしばらくして戻ってきた。

「今夜、武内先生から話があります。看護師が声を掛けますから処置室までお越しください」

先生は固い表情でボクら親子にそう伝えた。

激しく動揺した。

何を言われるんだろう。

不安で胸がいっぱいになった。


となりにいた母にも聞いた。

「武内先生はボクに何を言うんだろうか?」

「やっぱり切るのかなぁ」

不安になるボクに母は、話を聞いてみなければ分からないのだから、いまは心配してもしょうがない、と元気づけた。



母はこのとき39歳。

この時点でわが子の行く末は知っていたと思うが当時どんな思いだっただろうか。


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