わたしは、メガネのガタ付きを調整してもらいに行った。それはネジのゆるみやフレームのゆがみを整えるだけだと思う。店員さんは店の奥でそれをしてくれるから、どんな技巧でメガネがよみがえるのか、見たことはない。少し待つ。
店内には魅惑的なフレームがいっぱい。わたしはフレーム無しのメガネにはいくら出せばいいか訊いた。最低で62,000円からなんだって! (おかしくね?)
買いもしないのに、店じゅうを見ていった。何十本もかけてみた。わたしが買わないことはお店も知っている。
地味で暗い売り場を見つけた。ひどく陰気なのだ。そこは男性用コーナーだそうだ。わたしはためらいながらひとつを手に取り、かけたんだよ。
つると呼ばれる、横の棒を触ったよ。そこがベタベタなんである……。レンズに近い箇所を掴んでも、だよ。落ち込んでしまうよ。メンズ用はたいていシンプルで、わたしはそういうデザインが好きなので、別のを手に取ると、それもベトベトする。
男の人は皮脂が多く、汗の量もわたし達(女性)と違うらしいが、彼らは店の売り場の商品にもそれを付着させて歩くのかね。皮脂を付けて回る行為が、動物のマーキングを連想させた。メンズメガネなんか触んなきゃよかった。気持ちわる、気持ちわる。わたしはスカートのすそで指先を拭った(汚ね)。
わたしはそのテーブルを離れた。レディース売り場ヘ。どれをかけても指はギトギトなどしない。
小一時間そうして店内を練り歩き、再び男性用コーナーに来た。装飾が凝っていない分やや安いので、買うとしたら悪くはなかった。手近にあるのをかけてみる。つるがまたヌルヌルするよー。全部そうなの? ひどくね?
男性用フレームは顔の横幅を広く作ってある。だから顔の動きに合わせてグラグラ動く。これじゃ日常に使えめい。わたしは下を向いた。メガネは耳を外れて落下した! わたしは素早く受け止め、「危ね、危っね!」と騒いだ。そしてテーブルに置いた。またスカートで指を拭いた。触るんじゃなかった。汚ネ、汚ネ。