昨日に引き続き、親族の子達の進路の経過についての記事です。


この記事でご紹介するのは・・・不登校が長く、定型一般の歩む道からはかなり外れて、おそらく苦しい日々も多々あったであろう子の一人である親族の子のお話しです。ここ最近に長い不登校を経て進学をした子達が何人かいるので、連続は無理と思いますが、ぼちぼち進路指導や進路決定の時期もきていることですし、参考になるようにアップしていけたらと思います。


この女の子は、親族の子達の中でもかなり気にかかっていた子で、過ごす時間もそれなりにあったため思い入れがハンパではない身内です。ですので、慎重に今までほとんど記事に登場させてこなかったのですが、今やっと、人生の開花時期を迎え、おそらく長く続くであろう安定の道にのれた様子なので書く気になりました。


この子が特別気になったのは、私と似た経歴があったからかもしれません。また、私は外では緘黙でしたが家では話すという「場面緘黙」でした。この子は、家でも発語そのものが少ないというかほとんど話したいという意思がない「完全な緘黙」の状態の子でした。ですので、外では他人からの心無い言葉や態度に傷ついたこともあるだろうし、家では言って発散できない分、苦しいことも内面に抱えただろうと思います。


小学校時代は私と同じような経過をたどっていました。話さない子というのは攻撃の対象になりやすく、また何を言っても先生に言いつけない・万が一その現場が見られてバレても何にも言わないから大丈夫、という「保障」があるため、うっぷん晴らしや八つ当たりの矛先にされることも多いのです。子供と言うのは低学年だろうと高学年だろうと、心にまだ悪の衝動があり、善を規律として暴走を止める力が弱い時期ですので、こうした反撃できない性質の発達障害の子は、学校サバイバルの中でも最も「受けるばかり」の辛い立場に立ちます。


そのため、様子をうかがいつつ、小学校低学年は支援級、支援級でも攻撃の対象にされるので中学年で普通級、普通級でも運悪く攻撃性の高いお子さんに出会い限界が来たため、家族から不登校を申し出て家庭学習へ移行しました。私はいつものごとく、不登校の子供の合宿担当になることが多かったので、この子と接する時間もそれなりに長年ありました。


勉強は苦手で、どの教科も成績は普通か、または少し下ぐらいです。精神的に安定してきたのは、不登校をして1年ほど経った頃でした。自分のペースで、誰からも責められることなく、受け入れてくれる親族の子達だけで、また時には空いた部屋で一人で趣味をして(ビーズやフェルトが好き)過ごしたのが良かったのだと思います。そしてそのまま中学へあがり、中学は小学校よりも過ごしやすかったのか、大人しい子がクラスに数人いたのも幸いしたのか、あまり休むことなく登校しはじめました。小学校特有の「発表する」ということが少なくなり、聞く授業や書くことが多くなったのが良かったのかもしれません。


この子の様子が少し興奮しているようだ、というか興味深そうにしてる、と感じた出来事が、その子の家庭でありました。親族の中には「着物」に関わる仕事をしている者が数人います。着付けの師範であったり、和裁であったりするのですが、ホテルやウェディング系、美容系の会社へ勤めている人が多いです。その中の一人が親族の子の家へ行ったときに、その子の目の前で、持っている人形に小さな着物をささっと作ってあげたそうです。


もともとビーズやフェルトなど、家庭科系の作業が好きなその子には、親戚のお姉さんの見せた技は魔法のようだったのかもしれません。あこがれもあったのでしょう。お姉さんがお世話になった和裁所(注:学校ではありません)の話を少しして様子をうかがうと「もっとお話しが聞きたい」とアピールしてきたそうです。


それはそれは、そのお姉さんは「しめた」と内心ほくそ笑んだに違いないのですが、努めて冷静に、自分のたどった経過を淡々と話したようです。好きな家庭科ばかりをする道がある。縫えなくても基礎から職人になるまで年数を選んで学ぶことができる、学力は要求されない、学校でもないけれど、仕事場での実地学習となるので弟子入りするようなもの、昔風だ、授業料はなく、最初の年は自分が使用する道具代などが少しかかる、初年度を過ぎる頃には、ほんの少しだけどお給料がもらえる、などです。


中でも、お姉さんの話で反応が強かったのが、「好きな事だからずっと集中して続けているだけで普通の子と違って根気がある、えらいと褒めてもらえて嬉しかった」というくだりです。それを聞いて、その子の気持ちは大きく傾いたのでしょう。


親が「一度出向いてみようか」と聞くと、お願いしますと応えたそうです。それからは進路を定めたからか情報収集などに勤しんだようで、性格も明るくなってきて笑顔が前よりずっとたくさん出てきましたし、意欲というか、持っているパワー、オーラのようなものが格段に変化したと思います。


試練は面談というか訪問の時に来ました。緘黙というのは、話そうとして話せるものではないのです。なんとか頑張れば、ちょっとだけ、という程度でしょうか。緊張すると余計に話せませんし、心で「~と言いたいのに!」と叫んでいるのに、実際はなぜか声にするという作業ができません。悔しさのあまり、声を出せず泣いてしまったようです。


それなりに、先方には親から話をしてしていました。お世話になれる可能性があるのなら、家で事前に縫物の練習をもっとしたりするつもりでいることも、本人が手紙にして渡しました。家で自分が作った作品を、和裁ではないですが箱一杯持参して、「縫う事はできる、それが好きだ」ということを話せない分、精一杯アピールしたようです。


たぶん、ですが、職人さんは気質が「仕事ができればいい」という人が多いんじゃないかと思います。要は、やる気が合って本気なのかどうか、ですよね。その後、ほどなくして和裁所でお世話になる事になりました。研修をはじめてからの経過はじりじりと、どうなっているかなぁと思いつつ、「頑張ってるみたいよ」という情報交換だけで邪魔したくないので待ち状態でした。和裁というのは人が思うよりも作業が多く、覚えることも多く、本人が「通いだと時間が足りないから寝泊まりしたい」と先方に転がり込んでまで熱中したようです。


今、彼女は段階的に資格を取って、お給料もいただいています。そして国家資格の最後の級も、たどり着けそうなのだそうです。そうすると立派に独立して一つの着物を一人だけで「商品」として仕立てることができるそうです。できればそのお世話になった和裁所でお勤めをしたいとのことで、先方とも話ができているといいます。


彼女から私がもらったメールでは(和裁で忙しい様子なのでほとんどこちらからはしません。たまに報告がきます)


・自分みたいな性格だから、たぶんできる。学校の同級生みたいに器用で何でもできる人はたぶん、つまらなくてしんどくて無理だと思う。ものすごく好きじゃないと続かない。面白くなる前に辞めていく人が多い。長時間没頭できない人には難しいと思う。


・一度作業を始めると休みを取りたくない、という自分の気質に合っている。でも過集中をしていると体調をくずすので、先生や先輩が何か食べるように、せめてパンでも、おにぎりでも食べなさいと口に突っ込んでくれる。好きな事に没頭しているだけで、褒めてもらえる。今まで会った誰よりもみんな優しい。


・作業はとにかく基本の積み重ねだから、応用ができない自分にはとても助かる。同じことを何度も何度も繰り返して、工夫して、できるだけ早いスピードで仕上げられるようにコツコツしてれば、いつの間にか資格が取れている。普通の学校で習う事よりやることが決まっていて、それをマスターしていくだけだから攻略するみたいな感じでずっとやりやすい。


・大きな場所じゃなく、小さい個人の和裁所だからよかった。教えてくれる先生がはっきりわかりやすく言ってくれるので、学校のようなわかりにくさがない。相性もあると思う。人数が少ないのと良い先生、年齢が高い学生さんの通いの方が多くて、年齢の低い私は居やすい。学校ではたぶんやっていけなかったと思う。自分は学校には向いていなかった。


・私はこれで自分の自信が取り戻せた。自分が仕立てた着物を着てくれる人がいるというだけで綺麗に作ろうと思える。仕事の良さを十分に感じた。ずっとやっていきたい。


・・・というような感じです。バカな私は号泣しそうになりました。何か技術を学ぶ、というと「専門学校」と考える人が多いようですが、工芸や文化的な物に関しては、本当に職人になるつもりならこうして弟子入りした方がいいのかもしれません。この子の場合、専門学校で人と付き合うことは、それだけでエネルギーがいりますから無理であったと本人が言っています。きっと中退しただろうと。和裁所は入所してすぐに学んだ少しの基本技術を「仕事」を研修としてこなし、時間をかけて順次ステップアップしていく感じですから、全く似て非なる世界のようです。


「自分が望んだ、自分を支えられるたった一つの事」を、この子が得られたことが嬉しいです。仕事で満足感を得ることが一番いい自分の状態だと思うほど仕事バカな私と同じで、この子も同じ気質なので、おそらく「人がやりたがらない仕事」を嬉々としてやっていく、定型社会の中の抜け道みたいな所で自分らしく、バリバリと没頭してやっていくんじゃないかと思います。


将来の稼ぎをどうするか、経歴は、普通の道は、と気にしていると何も得られないことも多いのが私達発達障害の難儀なところで、むしろ「できること、したいこと、没頭できること」を生業にできるような出会いを見つけて、見つけたら脇目も振らずその道に没頭していくと、それなりに道が繋がり稼ぎもついてきて社会的信用もついてくる傾向があるように思います。それが職人系の人間に合う道なのかもしれません。しみじみ思います。


不登校で四面楚歌、集団社会では息苦しくて自分をつかめなかった子が、苦しいトンネルをもう抜けたようだ・・・という記事を書いてみました。




人気ブログランキングへ

にほんブログ村