前の記事で書いた<自他の境界線がない発達障害の特徴>の内容の延長です。


今回の「境界線がなく他人の領域に踏み込みやすい」「自分と親や他人の考えや気持ちを混同する」特徴からくる困難についてはとても反響が大きく、たくさんのメッセージをいただきました。それだけこうした子供の特徴に困っている、または自分が当事者で他人との精神的距離感を取れず四苦八苦している方が多いのだなと感じます。


自分と他人の精神世界を区別できない傾向を見せる発達障害の子がとても好きな<ターゲットにする大人>というのは、確かにいます。発達障害のこの特性だけは、とても人間関係を疲弊させます。こちら側が何を言っても、注意しても諭しても、時には投げ飛ばしてもこりずに関わってくるし、しつこくまとわりついてきた上に「ああして」「こうして」と指示してきたりとかなり一方的です。ターゲットになった人は子供であれ大人であれ、ほとんど自分の意思を伝達できず、むしろこちらの意見は一切通じていないような、遮断されたような変な気持ちがして疲れるのではないでしょうか。



「しつこくされるターゲットとなりやすい人」は、いわゆるとても優しい、子供の言い分をよく聞こうと努力してくれて、しかもあらゆることをぎりぎりまで我慢して許してくれるタイプ、叱るよりも受け入れることが多いタイプが多いです。つまり、子供の精神世界に全面的につながってくれる人です。思いのままにクレーンができる人間、子供が精神的に支配できる人間です。一言で言えば、親切で優しく遠慮がち、あまり強く嫌とは言えないような、相手の気持ちを大切にする人タイプです。


この部分でお悩みの方から、たくさん同じようなメッセージが入っていましたので、こちらでお返事とさせていただきたいと思います。ご了承ください。




発達障害の特徴の一つ、「自分と他人の境界線がわからない精神世界に没頭しがち」な子の興味が、このターゲットの人にだけ集中すると大変です。ターゲットの方のプライベートな領域が、その発達障害の子(人)にひどく侵害されるからです。これが原因で様々な困難を連れてくることがあります。子供時代は親子関係の難しさ、兄弟姉妹の難しさ、特定のお友達とトラブルが勃発、長じてはお付き合いする彼氏・彼女との不安定な関係、そして結婚後も夫婦や家族間で問題発生など・・・どれも「人間関係」に関わるものです。そして、人間関係は一人では作れない2人以上のものであるからこそ、問題をひもとくのも広い範囲で見て行かなくてはいけなくなります。



説明が難しいので、実例を出します。都心に住まう一族の家族のケースです。

父親が私の従兄弟です。理知的で落ち着いた、社会人を淡々とこなすアスペルガーです。母親は定型一般として育った、成人してから発達障害の診断を受けたお嫁さんです。子供は二人。この家族は、自閉症スペクトラムと診断されている女の子とお母さんの関係が難しく、常に四苦八苦されていました。仲の良い家族ですが、母娘は距離を保たなければお母さんの二次障害、うつ病が悪化することがあるので、途中で別居を取り入れました。男の子は大人しく、病院では診断がボーダーとされています。受動型の親族に似ているので、ある意味過剰適応してしまいボーダーと言われているのかもしれません。実際に集団社会でかなりのストレスを感じるからと、自分から言い出して不登校・家庭学習をしています。

男の子の方は父親と似た所が多いからか、男同士だからか、父親から伝授される知恵や工夫を取り入れて自分のやりやすい方法を見つけていく考えていくやり方が受け入れやすかったようで、あまり不安定な部分が見られません。精神的に少しずつ自立している感じを会うたびに受けます。自分に対しての意識も、前向きで自信もある程度つけているようです。


対して女の子ですが、小さい頃から我が強いのもあり、気性が激しいです。父親といる時は落ち着いていることが多く、彼の論理的な説明をスポンジのように吸収する勢いで好奇心旺盛、頭の回転も良く、いつも何らかの意欲的なオリジナルの遊びを展開しています。話がどんどん飛ぶので、慣れていない親族はついていけないぐらい、話題があっちへ飛び、こっちへ飛びます。


この彼女がどうしてもターゲットにしてしまうのが、母親です。近くにいる、目に入るやいなや、喜んで飛びついていきます。お母さんがアイロンをかけていようと、料理をしていようと関係なく、止めても暴走します。お母さんが「痛いからやめて」「今は家事があるから無理」等々の説明をしたところで聞いていませんし聞こうともしていません。あきらかに「母の精神世界と切れ目のない関係」であり、女の子には母親との意識の境目が見えません。女の子にとってお母さんは自分の自由にできやすい対象で、またそれが楽しくて仕方がないのがわかります。そのため、母親に限界が来て娘をはねつけ、拒否した時には、女の子が猛獣と化して狂ったように泣き叫びます。時には近所中に響き渡る大音響で「お母さんなんてだいきらい!!」と叫びながら転げまわり、手足をばたつかせ、ドアや壁を殴って暴れまわり、怒りのあまりに母親を引っかいたり、小さい頃には噛んだりもしていました。


父親が居る時にはこうした言動は控えめになりますが、それでも「母親を目にして興奮し楽しくなってくる」と周囲が見えなくなり、母親に馬乗りで笑いながら遊びを強要したり、「こう言って!」「こうおもちゃを動かして!」を連発するありさまです。他人が止めた所でとまらない興奮状態です。



この言っても聞かない、獣状態の子供をどうしたら・・・ということですが、母親と女の子の両方に、その対策をするパワーがまずいります。エネルギーが両方になければ、解決が難しいので先に個々の精神的な回復、心身が健康であるかが鍵じゃないかと感じます。


お嫁さんであるお母さんとは親族も何度か話し相談にのりましたが、この家族のケースでは、まずご本人のうつ病の治療が最優先でした。精神的にも体力的にも元気な状態じゃないと、女の子との長期戦の、こつこつとした息の長い対応は難しいです。そして、本当にこれは悪循環なのですが、母親が精神的に弱っていると女の子のパワーの方が勝り、精神的な侵入=支配力が増すのでお母さんはよけいに疲弊します。ですので物理的に距離を取る必要性がありました。


そしてここがまた、難儀な事なのですが、定型一般の社会の価値観や考え方で育ってこられたお嫁さんは、とても「思いやりと優しさ」のある人です。子供の気持ちをできるだけ受け止めよう、子供の言い分をきちんと聞こう、それが愛情だと考え努力なさいます。何度か記事に書いていますが、この定型一般の世界でいう所の「愛情」は、私達発達障害の人間にはわかりにくく、そのため「何をしても許される」と誤解して依存したり支配したりするやっかいな部分を増長してしまうことがあります。障害ある子にとってターゲットである母親の「優しさや包容力」の理由は曖昧すぎて理解できず、子供は単純なので「子供の言動を受け入れる=すべての言動はOKだ」という風に解釈してしまい、結果として火に油をそそいでいるような状態になります。

発達障害の子にはブログの最初あたりに書いた「善悪のルール」というわかりやすい白黒の判断で仕切って育てる方が、むしろすんなりいきます。だから父親と居る時には「普通」だったのだと思います。ですがこの頃は、お母さんがそういった方法を取るには母娘の関係がこじれすぎていたので、とりあえず緊急の方法を選びました。


この家族の場合、不登校の男の子を連れてお母さんは従兄弟の実家、つまり田舎に一時帰省し療養しました。女の子は「好奇心旺盛で積極的に遊ぶ」子でしたので園好き社交家でしたから、夜間も預かりがあって夕食も食べさせてくれる保育所に移動し、言えには寝に帰るだけという生活をお父さんと二人暮らしでしました。母親が目の前に居なければ、獣にならない落ち着いた生活を送れるという、他人からすると不思議なものですが、「母親という刺激がない」と「獣化する反応をしなくてすむ」のです。ここが発達障害の人間の、刺激に対する衝動、興味があるものへのこだわり・執着、百か0で興味ある者以外には執着せずあっさりしている、という特徴と深く関わりもあるのです。


女の子にとって、父親は執着するほどの興味はないごく普通の対象であり、またアスペルガーということもあり父も「百ゼロタイプ」で言動が白黒はっきりしているので、似たような認知の仕方をする女の子にとってはわかりやすい相手です。女の子は父親といると冷静に物事を見ることができるため、母親の療養中に父親と「自分研究」をすすめました。保育所での人間関係についても、その日のうちに父親が聞き取りをしてリビューをしました。二人でテーブルに座り、相手がどう言ったか、女の子はどう把握しているかを聞いて絵に描き、トラブルを分析、解説をするのです。これは私達の一族がよくやる視覚的なリビューです。これにより「自分と他人のやりとり」を知識としていい例、悪い例と記憶に蓄積するようになり、そこから自分と他人の線引きをなんとなく認識しはじめることも多いです。(この記事の最後に従兄弟が参考にした本を聞いていますので、のせておきます)



母親との今の関係はどうか、ということですが、うつ病が発達障害と関係がある場合、自分の過去をたどったり知っていく作業が必要なので、すぐには良くならず、回復まで時間がかかります。まだ完全には回復にいたっていないので、精神状態に合わせて彼女は田舎に滞在したり、都心に戻ったりしています。年末に家族がそろった時の様子では、女の子が精神的にも身体的にもめざましい成長期にあり、母親を労わる姿勢を見せていました。誰よりも砕けて親しげな様子は母親に向けますが、以前のように「そばにいるだけで興奮する」という状況ではなかったです。お母さんが「気持ちを受け入れる」という受け身のスタンスを変えて「母はこういう考えです」と遠慮なく意見を発信し、主導権を発揮し、ちゃんと説明してからですがNoと言う、Yesばかりではない言動をするようになったのも効果的だったのかもしれません。



これらのことから、ターゲットにされたお母さんと女の子に必要だったことは以下です。


・物理的な距離をとること(ターゲットとする人物が目に入れば入るほど興奮しやすくなる。母親という視覚的な刺激に反応しやすくなる)


・女の子が冷静に話を聞くことができる人間(父親)から「人間関係」についての説明、実際のトラブルについての解釈と対応など、女の子が他人の世界と自分の世界の違いを知識として身に着ける情報が提供された


この二つです。従兄弟の家族の例だけでなく、わが子でも、親族のある一人の叔父さんには無礼なほど厚かましく傍若無人になる、というような例も見ています。対応はほぼ同じで、ターゲットとされた人と物理的距離を取る(必ず座る席は対面にせず、少し離した横並びの席にして見えない場所にする、別の部屋で過ごすなど)、ターゲットの人物がいない場所で、おちついた時に本人の豹変の仕方、それを見た様子を伝え、なぜそうなるかを一緒に考えてみたり、対人関係の絵本やマナーブック、ソーシャルスキル的な絵本を見せて「これが今言いたいこと」と伝えるような機会は持っていました。子供が冷静に話を聞ける、話ができる人を選んでその人が伝えていく、というのが大事かと思います。親でもいいですし、兄弟でもいいですし、我が一族の場合だと祖父母など年長者や住職さん、遠方の親族などにも頼むことがあります。



とにかく、ターゲットが目に入ると興奮状態になるのが常ですので、それを習慣にしてしまわないこと(習慣になると自動的にマイルールに昇格し、変わらず同じことをしようとする性質が働くので癖になります)、習慣になりつつあるのであれば、その当事者と人ターゲット人物との物理的距離を作って(保育所や遊ぶ施設、児童館等なんでも利用する)精神世界の分離を試みるのはよいかと思います。


物理的に距離をあけて共に過ごす時間を減らすと愛情が薄れるのでは、と恐れる方がいるかもしれませんが、私の家族や親族のケースではそれはないです。好きで子供も狂ったように獣化しているわけではないので、後々成長して冷静になった時に、ターゲットにしてしまった相手と良い関係を持てるので、全く問題ないケースがほとんどです。「嫌われているわけではない」ことを、もちろん他の家族がきちんと説明して、「お互いのために安心して、乱暴しないで、気持よく生活できるようにするため、家庭は誰にとっても安心できて安全な場所であるべきだから。」という大原則をはっきりと伝えていたならば、子供心に理解できるのです。ただし、この説明が一切されずただ引き離すだけでいれば、恨みに思う事もあるかもしれません。


子供や親のタイプ、おかれた環境によって状況も異なりますし、できることも変わってくると思いますが、基本はやはり、物理的距離感とともに、そうすることの理由が伝わるように解説、説明していくという2つの作業かなと思います。どちらが欠けても、子供は不満を持つと思いますから、距離を取るときには「お互いが自分と向き合う必要性」を感じられるように、丁寧な解説をしていくことが大事だなと思う次第です。





最後に、以下は文中の従兄弟が女の子との療育的試みの中で参考にした本です。

自他の理解を会話から理解しようと絵でみてわかるように作画する手助けとして使用したようです。我が家ではざら半紙に適当に絵を描いて子供に解説したり、色んな事を説明していたので、マンガ的なビジュアルに訴える教え方は発達障害の子に向くのだと思います。







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