現代ビジネスというWebのサイトで、アスペルガーの子供を持つこれまたアスペルガーのお父さんが書く、興味深い記事があります。奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」 がその題名です。毎週更新されるのを楽しみにしています。息子さんとお父さんの思考回路は一族に通じるものがあります。



この記事の中で、読者の方のこんな質問に回答されていました。



質問:「息子さんが周囲に迷惑をかけるような言動を取ったときは、叱らないのでしょうか。叱ったら、本人の自己肯定感を低下させるから、叱らない方がいいのでしょうか。」


奥村さんは「周囲に迷惑をかける息子の言動があったとき、僕は必ず叱ることにしています。場合によっては、相当厳しく叱ります。息子が1人で勝手に「自分はこういう言動をとっていてもいいんだ」と思い込んでしまうと、成人後、大変なことになるからです。」

「叱ると同時に、「なぜお父さんは君を叱ったのか」「君はどのように周囲に迷惑をかけたのか」「どうすれば迷惑をかけずにすむのか」といった点を、論理的に、噛み砕いて説明するよう努めています。それをしないと、今後の状況が改善されないばかりか、叱られただけの息子はふてくされてしまい、内に籠もってしまう恐れがあります。」


と回答されています。(連載第39回より引用)全く持って、同意します。



子供が不適切な行為をした時に、それを正して「誤学習させない」こと、「正しいやり方、正しい行為を教える事」が絶対不可欠と感じています。ただ、その場で叱って言い聞かせることは少ないです。なので、場所を変えて指摘し、説明することが多いです。



定型一般の健常児のご両親は、「子どもが悪い事をしたらその場で叱る。そうでなければ子供はなぜ叱られているのかわからない」と言われるかもしれませんが、アスペルガーやその他発達障害のある子どもは、記憶力が良いことが多いです。その日にあったストーリーを全部覚えている事も多く、また「どの場面で、どういうことがあった」と親がまず思い出させてみると、ほぼ覚えています。だから「その場で叱らないと忘れてしまう」は当てはまりません。



「その場で叱る」が不適切である場合も多いです。発達障害の子供が不適切な言動をしている時は、その子の精神状態が不安や恐慌状態にあるか、興奮状態にあることが多いです。その心理的にマイナスな状態では、いくら言い聞かしても何も聞かないばかりか、追いつめるだけですし、精神的に辛いのにそこで叱られてまた親に追いつめられるような状態になるのですから、逆に「親は、俺を敵だと思って攻撃している」と曲解します。



穏やかな心の状況にあるときに、物語を読むように出来事を話して聞かせ、何が悪かったのか、定型一般の人はどう考えるのか、自分達はどう考えがちなのか、問題にならないようにするにはどうすればよかったのかを伝えます。この機会が増えるごとに、社会的に良い行いができる大人になる階段をどんどん登っていくわけです。



ここで一つ、世間一般と違う点を書いておきます。


「褒めて育てる」と最近良く耳にしますが、褒める、が逆効果になる事があります。頭脳明晰なタイプや、プライドの高いアスペルガーの子達がそれに当たります。褒める、というのは「褒める人が優れている」ということを多少でも認めている事がまず前提ですが、頭脳明晰なタイプ、プライドの高いタイプの子は他人が自分より優れていることを認めていません。それなのに、褒められたらどうなるか?「お前に褒められたくねえ!」と怒りが湧くんですね。


褒めていいタイプは、高機能自閉症のタイプの子です。とても素直で、出来たことを褒めてあげると、すばらしくどんどん伸びていきます。アスペルガー、プライドの高いタイプは、褒めるとどんどんひねていきます。


ではどうするか、というと「生まれ持った優越感」というか、自分は優秀だという思い込みが取れる時期がくるまで、あまり褒めません。そのかわりに、褒めずに、感謝します。何か、とても役に立ってくれた時や、いいことを教えてくれたとき、お手伝いをしてくれたときに、盛大に「ありがとう。助かったよ。」と感謝します。頭がいい子は、自分の優秀性を確認するために他人の評価をとても気にする部分があります。その際、感謝されると喜びが増すのです。


天狗になるのでは、という危惧があるかもしれませんが、テストの点数や頭の良さを褒めなければ、天狗にはなりません。テストの点数などは、彼らは自分の中に「良くできたと思えるライン」が決まってますから、自分で自分を褒めるラインまで到達しなければ満足しません。例えば、彼らの満足点が100点だとすると、他人がそこで「95点、良くできたね」と褒めたら、「バカにするな」という怒りになり、相手に憎しみが湧きます。なので、点数や頭脳のことについて褒める必要は全くないんです。



では、人格的なことを褒めるとどうでしょう?


「お手伝いしてくれてありがとう、とても助かった。あなたはとても優しいね。」という内容や、

「今日は仕事で疲れていたから、夕食を作っておいてくれて本当に嬉しい。ありがとう。感謝の気持ちでいっぱいだわ。幸せにしてくれてありがとう。」

と盛大に褒めるとどうでしょう?


彼らは、満面の笑みで、とても喜んでくれます。優秀だと褒められたから嬉しいのではなく、「自分がしたことを他人が感謝している」という事実に、何だか良いことをしたみたいだ、と自分自身が認められた、と感じて幸福感を味わうのです。発達障害を持つ子の自己肯定感というのは、自分そのものが認められて、他人から好意的な感情を向けられた時に高くなる、と感じています。



幼いころから、人格的なことを褒められて自己肯定感がしっかりとつくと、小学校高学年ぐらいには、「優れた他人がいるということを受け入れられる」ようになってきます。さらに中学、高校と成長して、家族や親友など、他人が自分に好意的である、ということを心から感じ取り、相手を敵とはみなさなくなり、「褒め言葉」を本当の意味で「自分を認めてくれている」と正しく解釈することができるようになってきます。ここまで到達するには、すごく年月がかかるんです。



世間一般の「褒めて育てる」「その場でいけないことは叱る」という育児法は、正しく「定型一般の、健常児を育てる方法」ということだと思います。我が一族のように、世間一般の人間と違う思考回路を持つ人間は、その定型とは異なる心の動きや定型とは異なる喜びを感じるものさしを知ったうえで、非定型(発達障害)の人向けの育児をすることが、結果的には子どもたちが自分に良い感情を持って、世間にも好意を持ち、人とのつながりは悪くない、と自信を持った安定感のある大人にそだつ 道なのだと思います。






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