side N







峯「もう!ほんっとに心配したんだから!!」




『はい…ごめんなさい』




ゆうちゃんと、茂木とおんちゃんに、

保護された俺。




茂木に車椅子を押してもらいながら、

一番心配を掛けた峯岸先生に電話をしている。




電話口の、先生の安堵した声と、

その後ろで見つかったぞと賑わう声に、

自分のしでかしたことの大きさを実感して。




見えなくとも、平身低頭、謝るしかない。




そんな俺の後ろでは車椅子を押しながら、

器用に電話をする茂木と、


茂木に傘を傾けながら、

同じく電話相手に笑顔を向けるおんちゃん。




茂「おーそうなんだよ。

  急な雨で、うん、そうそう。

  はいはーい!ありがとなぁー!」




お「もしもし!、うん、あっ聞いた??

  うん、ありがとね!

  じゃ、また明日塾で!はぁい」




二人は急な雨と携帯の電池切れ、を理由にして、

俺の捜索を頼んでいたバスケ部の面々に

感謝の連絡をしてくれてる。




(ホント、迷惑かけちゃったな…)




きっと俺が思っている以上の人が

俺を心配して動いてくれていた。




衝動的な自分の行動をしてしまったと反省して、

申し訳ない気持ちでいっぱいだ。




峯「はぁーっ、でも、無事で何より!

  で、今はアパートに向かってるの?」




『そうです、雨で皆濡れてるから着替えようって』




峯「そう。

  じゃあ、今日はそっちに泊まる?」




『え』




俺の部屋は

未だにライフラインは繋がったままだから、

泊まること自体は問題ない。




だが、たとえ着替えて寝るだけだとしても、

この体で、一人で、

その挑戦をするのは少し不安だ。




峯「勿論今から迎えに行ってもいいよ?」




(どうしよう、)




挑戦して、また絶望するのは、怖い。




でも…。




トン。




『?』




「どうしたの?」




俺の隣を歩いていたゆうちゃんが

悩んでいる俺の肩を、そっと叩いて首を傾げる。




『先生が、こっちに泊まってみるかって』




「泊まるの?」




『んー、』




「一人が、不安?」




『、不安…』




茂「んなら、俺が泊まってやるよ!」




お「えー私も泊まりたい!」




茂「女子禁制でーす、ムフフ」




お「うわ、きも、笑」




茂「んだとー!ガハハ!」




「だってよ?笑 それに、、」




『ん?』




「私も、いるから、ね?」




茂木達がワチャワチャと後ろで盛り上がる中、

小さく呟いたゆうちゃん。




その表情が久しぶりに穏やかに見えて、

何だか凄くホッとした。




(…よし)




『もしもし、先生?』




峯「はいよー、どうする?」




『今日は、こっちに泊まります』




峯「ふふ、了解。

  ゆっくり楽しんでおいで?


  あ、帰ったらたんまりお説教だからね!」




『はい 苦笑』




峯「じゃあ、皆宜しく言ってね!おやすみ!」

 



『おやすみなさい』




先生との電話を終え、

自分の家に、本当に"帰る"ことになった俺。




公園で、

茂木らしい叱咤激励が無ければ、

きっと、こんな挑戦はしなかったと思う。




今回みたいに、沢山の人を巻き込んで

心配を掛けるような真似はもうしたくないし、


今後も、人の手を借りないで済むようになろうと

足掻くことだろう。




それでも、

この三人に頼る自分は

少し許せそうな気がしている。




それは小さな一歩で、大きな変化だった。






雨の勢いが、だいぶ優しくなった頃、

アパートの前に到着した俺たち。




茂「うっし、捕まってろよ?」




濡れた階段を、

俺を背負って慎重に上がっていく茂木。




濡れて重くなった車椅子は

ゆうちゃんとおんちゃんが持ってくれた。




ガチャ。




久々に玄関を開けると、

懐かしい自分家の匂いに嬉しくなる。




入院中に使ってた車椅子を置いていたから、

それにゆうちゃんがタオルを引いてくれて

そこに腰掛ける。




茂「んじゃぁ、とりあえず、

  風呂とか終わったら連絡してよ」




お「うん、オッケー!

  夜遅いんだから静かにするんだよ?」




茂「へいへいっ」




「ご飯、簡単なものだけど、

 急いで作るから待っててね?」




『うん。ごめんね?ゆっくりでいいよ?』




全員、雨でぐっしょり濡れているから、

男女分かれて、

ひとまずお風呂に入ろうという話になっている。




それから、ゆうちゃんが、

夕飯を食べてない俺たちの為に

ご飯を作ってくれるらしい。




お「じゃ、またあとでー」




俺の家の玄関から、

ゆうちゃんの家に帰っていく二人。




「あ。」




ドアが閉まる寸前、

パッとゆうちゃんが振り返る。




『ん?どうしたの??』




「なぁくん」




『ん??』




「おかえり。」




満面の笑みを浮かべたゆうちゃんが、

あまりにも綺麗で。




おかえり、その四文字が、

とてつもなくグッと俺の心を震わせた。




あぁ、ずっと待っててくれたんだ




熱くなるものが溢れないようにしながらも、

俺はゆうちゃんを真っ直ぐに見て。




『ただいま、ゆうちゃん』




愛しい気持ちを込めて、言葉を返した。





















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