side Y








タッ!タッタッタッ!




「はぁっ、はぁっ!」




傘をさしてる意味なんかない。




ザーザーと降る雨の中を、

がむしゃらに走るうちに、すでにずぶ濡れ。




でも、そんなことはどうだっていい。




濡れてどんどん重くなる靴を、

とにかく前へ動かしていく。




ブーン!キキィー。




そんな私の横を通り過ぎる一台のタクシーが

後ろの方で急ブレーキを踏んだ。




ガチャ!




お「ゆうちゃん!?」




ドアが開くやいなや、

聞き慣れた声が届いて、

私は足を緩めて振り返る。




「おんちゃん、」




お「どこいくの!?」




バタン!




茂「岡田から連絡あったのか??」




おんちゃんの後から、

お金を払って出てくる茂木くん。




「連絡、ないけど、、確かめたいことがあるの!」




それだけ言うと、また走り出す私。




お「ゆうちゃん!待って!」




茂「とりあえず、俺らも行こう!」




追いかけてくる二人に気付きながらも、

私は更にペースを上げて目的地を目指した。







ザッ!




そうして、たどり着いた、あの公園。




こんな遅い時間に来たのは初めてで、

少ない照明で辺りはかなり薄暗い。




「はぁ、はぁ、、」




夜の一人歩きは危ないと、

この公園の近くは絶対通らないでと、

二人でした約束。




それをふと思い出して、

すごく懐かしく感じながら、




ザー!!




激しさを増すばかりの雨の中、

一直線に、

バスケコートを目指して突き進んでいく。




タッタッタッ!




誰とも連絡のつかないというなぁくんが、

十中八九、ここに居ると私は思っている。




同時に、

数%の確率であっても、

ここに、居ないで欲しいと願ってもいた。




葛藤がある時、苦しい時、

自分と語り合うように、

自分を戒めるように、バスケをしてた彼。




そのバスケもできない今、

それでも、

ここに居るとしたら…。




彼の心が限界を迎えてしまうんじゃないか、

そんな不安しかなくて。




彼を見つけ出したい気持ちと

相反する不安が

私の中で交差して、胸が苦しい。




だけど。




タッタッ、、、




「ハァハァッ、、っ!」




目に入ってくるのは、

センターラインに止まって動かない車椅子。




こちらに背を向けて、

真っ直ぐにゴールを見ている人影。




ザッ!




「なぁくん!」




『!』




私の声にピクリと反応したなぁくんの背中。




それを見たとき、私は悟った。




私が確かめたかったのは、

彼がここに居るかどうかではないと。




誰に何を言われても、

なぁくんへの罪悪感があっても、

なぁくんに嫌われても、

自分の気持ちは変えられないって理解した。




タッタッ、




「なぁくん。」




名前を呼びながら近づいていくと、

大きく息を吸う彼の肩。




『…、危ない、から、帰りなよ』




そして、

背を向けたまま、

雨音で聞こえるか聞こえないかの声。




そこから伝えられるのは、小さな拒絶。




でも、

私はそれを聞こえないふり。




俯く彼の前に立って、言葉を掛ける。




「なぁくん、帰ろう?」




『…、』




フルフルと小さく否定する頭。




「また風邪引いちゃうよ?」




見るからにぐっしょりと濡れている彼の上に

傘を差し出す私。




『っ、』




バッ!




「!」




払われた傘がコート上に落ちる。




『ごめん、』




「なぁくん、?」




『ごめん。大丈夫だから、帰って。

 お願いだから、』




完全な拒絶の言葉を苦しそうに言うなぁくんに、

私は言葉が見つからない。




その時。




ザッ!ザッ! ガシッ!




茂「お前!なんなんだよ!!!」




走ってきて、

なぁくんの肩を掴んだ茂木くん。




お「ちょ、茂木くん!?」




その後をおんちゃんが慌てて追いかけてくる。




『あぁ、、』




茂「あぁ、じゃねーよ!皆心配してんだぞ!!」




『もう少ししたら帰るよ。

 一人で帰れるから』




茂「っ!!行くぞ!」




頭に血が昇った様子の茂木くんが

ガシッ!と車椅子に手を掛ける。




でも




『やめろよ!!!』




初めて聞くなぁくんの怒鳴り声。




茂「うるせ!!」




だが、茂木くんは強引に車椅子を引き摺る。




ズサッ




その勢いで、

なぁくんの体が転げ落ちてしまう。




『っく、』




「なぁくん!」




ガシ。




「、ちょ、茂木くん?!」




なぁくんに駆け寄ろうとする私を阻むように

茂木くんが痛いくらいギュッと私の腕を掴む。




お「茂木くん!なにしてんの!」




それを見たおんちゃんが

彼の腕を解いて私を救出してくれる。




茂木くんが怒っていると思ってた私とおんちゃん。




でも、口調のわりに、

彼の顔はすごく冷静ですごく悲しそうで。




とにかく手を貸すなと目が語っている。




そのまま、

茂木くんは仁王立ちで立つと、

地面に横たわるなぁくんを見下ろす。




茂「…。おい、起きろよ、帰るぞ」




『んだよ!放っておいてくれよ!!!』




上半身を何とか起こすなぁくんが、

地面に向かって叫ぶ。




茂「いいから、起きろ。」




『…もう、いいから。諦めて帰ってくれ、』




茂「俺は良くないし、諦めない。」




『しつこいよ、迷惑だ』




茂「迷惑だろうが、嫌だろうが、

  俺には関係ないね」




『んだよ、それ』




茂「こっちはな、干渉したくてしてんだ。

  お前こそ、

  勝手に諦めるとか、許されると思うな」




『、は?』




茂「苦しくても、悔しくても、辛くても、

  俺たちは本当のところなんて

  分かってやれない。


  それでも、

  俺はお前と友達は一生やめないし、

  干渉するし、迷惑だってかける。


  だから、岡田も、

  心配でも迷惑でもなんでも良いから、

  俺たちと関わるのを諦めんな」




『…』




茂「だから、起きろ。

  

  これから先、

  何度だって言ってやる。


  お前は一人じゃない。俺達がいる。

  

  俺達のために、諦めるな!」

  



そこまで一気に捲し立てる茂木くん。




優しい言葉ではなく、寄り添うでもない。




でも、凍えた心を温める熱さがある。




そして、それは、

なぁくんにもちゃんと届く。




『、、くれ、』




茂「ん?」




『手、貸してくれ、』




ようやく顔を上げたなぁくんの言葉に、

茂木くんはニカッと笑う。




茂「おう!任せとけ!!」




茂木くんにヒョイっと担がれて、

車椅子に戻るなぁくん。




憑き物が落ちたような顔つきに変わったなぁくんは

眉毛を下げてこちらを向く。




『皆、心配かけて悪かった、、』




お「たまには青春でいいんじゃない?笑」




「ふふ、だね。なぁくん、帰ろ?」




『うん、帰ろう』




茂「うしっ!んじゃ帰るべ!」




お「なんか、お腹空いてきたー!」




「うち、寄ってく?

 何か作るし、シャワー浴びて帰りなよ」




『でも、俺、』




茂「岡田ンチもあんだし、

  俺と一緒に上がれば良いじゃん。」




お「え、二人同じとこなの?!」




茂「そーなのよ!

  俺もこの前岡田に教えてもらったんだ。

  マジ隠し事多いよな。」




『苦笑、悪かったって言ってんだろ』




「苦笑、なぁくん、久しぶりに帰ろ?」




『うん。そうしようかな』




茂「よっしゃー!なんか楽しくなってきた!」




皆、ずぶ濡れで、ぐしゃぐしゃ。




でも、

皆それぞれ心からの笑顔を浮かべていて。




私も、久しぶりに

心がストンと落ち着いた感じがいた。





















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