side Y







カタン。




パチン。




「ごちそうさまでした。」




夕飯にした野菜炒めを半分くらい食べて、

お箸を置く。




残りは明日食べようとラップをして冷蔵庫へ。




最近は料理を作っても食べきれない。




けれど、

毎朝おばあちゃんがおにぎりを持ってくるほど、

痩せたのは自覚していて。




食欲がなくても、

何かを口にするようにはしてる。




「ふぅ…、もう寝ようかなー」




痩せた影響か、

勉強を朝するように変えたからか、

まだ19時くらいなのにもう眠い。




でも夜は考え込んでしまうから

早々に寝てしまった方が健康的。




「ママにおやすみメールしよーっと」




洗い物もそこそこに、

携帯の予測変換で事足りるルーティンで

私はメールを送る。




これは誰にもまだ言ってない話で、

私は変わらず一人暮らしを継続していた。




ママが夏休みの少しの間だけ帰ってきたのは

私を心配してくれたから。




まぁ一時退院できるくらいは回復してるけど、

まだ全快には遠い。




勿論、寂しくないわけがない。




それでも

おじいちゃん達がいるとは言え、

一人の生活も慣れてきてしまった。




ザー。




「雨、結構降ってるなぁ。」




1時間ほど前から降り始めた雨は激しくなる一方で、

遠くでゴロゴロと雷も鳴ってる。




悪天候の夜も、以前のように不安は感じない。




あの公園、あの停電。




なぁくんのことをより知るきっかけは

雨の日が多いな、なんてふと思う。




ブブッ




「ん?ふふ、はいはい」




おやすみと戸締りを、という

いつも通りのママからの返事。




私はそれに微笑むと、

携帯に充電器を挿して枕元に置いた。




なぁくんが退院してから、

おはようとおやすみのメール相手も、

今はママだけ。




なぁくんには学校に行けば会えるし、


授業中だけ、

以前と変わらず温かい眼差しをくれる彼に、


今は多くを望んではいない。




ただ、学校に復帰してから、

笑顔しか見せなくなったなぁくん。




元気に振る舞う様子を見れば見るほど、

心配が募っている。




無愛想で素っ気ない彼も、


喜怒哀楽を犬みたいに表情する彼も、


いつか見た雨の中の彼の姿に通じてて。




なぁくんは自分の中の葛藤を、

決して誰にも見せようとしない人だ。




その笑顔が本物かどうかくらいは

私にだって分かるし、

きっと、茂木くんやおんちゃんも、気付いてる。




でも、それを伝えたら、

彼を支えている何かを折ってしまいそうで。




私達はそれぞれ自分たちの力の無さを

感じながら、何も言えないでいる。




ザー!




「…なぁくん、雨が降る前に帰れたかな?」




私はベッドに腰掛けて、壁に体を預けると、

目を閉じて雨の音に耳を傾けた。










ブブブ、ブブブッ!




「ん、、」




あのまま眠っていたらしい私は

窮屈な体勢と携帯のバイブレーションで

目を覚ました。




壁掛けの時計を見上げると、時刻は21時過ぎ。




ブブブ、ブブブッ!




(、、電話、おんちゃん?)




震え続ける電話に

私は寝惚けながらも手を伸ばす。




「…もしもし、どうし」




お「あ!ゆうちゃん! 

  茂木くん!ゆうちゃんに繋がった!」




「、どうしたの?」




おんちゃんは塾終わりのはず。




忙しいご両親に代わって、

たまに茂木くんが迎えに行ってるというのは

知ってるけど…




何故か慌ててる雰囲気に、

凄く嫌な予感がしてならない。




そして、


それはすぐに的中する。




お「あの、ゆうちゃん、今一人?」




「え、うん。家だけど」




お「そっか、そうだ、よね」




「なに?ホントどうしたの??」




お「その、 」




ガサガサ! 茂「もしもし?ゆうちゃん?」




「、茂木くん?」





茂「おー、茂木。

  んでさ、岡田から連絡来てない?」




「え、来てないと、思うけど、

 なにかあったの?!」




茂「んー、まだ帰ってないみたいなんだわ」




「!、なんで!?もう21時だよ?」




茂「峯岸さんから連絡きてさ。

  学校は18時ぐらいに出たらしいんだけど」




「うそ、なんで?外、雨だよ?!

 私、探しにいく!」




茂「待って待って!危ないから!

  バスケ部のやつらに今声掛けてるし、

  岡田から連絡きたら教えて」




「でも!」




茂「とりあえずおんちゃんとそっち行くわ」




お「ゆうちゃん?絶対待っててよ?」




「、うん、分かった、」




電話が終わり、すぐに携帯を確認しても

なぁくんからの通知はない。




誰にも告げず居なくなるなんて、

何かあったに違いないと思って。




サーと血の気が引いていく。




私がこうなることが分かってたから、

おんちゃんは言い淀んで、

茂木くんはこっちへ来ると言ったんだろう。




ただ話を聞いてしまったら

居ても立っても居られない。




バサッ!




ザッザッ!




ガチャッ!




次の瞬間には

私は傘を握って、家を飛び出していた。























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