side Y







二学期の始まり。




退院したなぁくんが、学校へ復帰する日。




おんちゃんと茂木くんに誘われて、

少し早めに登校した私は

二人と一緒に校門でなぁくんを待つ。




茂「まだか?んー俺見てこようかな」




お「ここまで車で来るんでしょ?」




茂「んにゃ、あいつのことだから

  近くまで送ってもらって一人で来る」




お「そうかなー?」




茂「こんなことなら

  家まで迎えに行けばよかった」




お「もう少し待って来なかったら

  携帯に連絡いれよ?」




ソワソワと落ち着かない茂木くんを

宥めるおんちゃん。




そんな二人の横で、

緊張からくる僅かな震えを必死に抑えてる私。




「ふぅ、」




お「…、ゆうちゃん、平気?」




この数ヶ月で随分と増えた深呼吸に反応して、

おんちゃんが心配そうな表情で私を覗く。




「うん、大丈夫だよ?」




最近得意になった作り笑顔を向けると、

おんちゃんは眉毛を下げたまま、

寂しそうに微笑んで私の手をギュッと握る。




優しい優しい、1番の親友。




あの日以来、

何かを言葉にすると感情が溢れてしまいそうで、

何もかもに蓋をすることにした私。




なぁくんと私の関係が変わったこととか、

何一つ伝えられてないけれど、

多分おんちゃんは分かってて。




ギリギリのラインで正気を保つ私を

必死に支えてくれてる。




お「一緒にいるからね?」




「、ありがと」




今日逃げずに学校へ来れたのは

おんちゃんのおかげ。




私はおんちゃんの手を握り返して、

甘えるようにトンと肩を寄せた。







それから数分後。




茂「来たっ!!」




待ってましたと声を上げた茂木くんに誘われて

顔を上げると、

こちらへやって来るなぁくんが視界に入る。




「っ、、、」




まだ少し遠いけれど、

彼の周りの生徒が

なぁくんを珍しそうに見ているのが分かる。




それを無視するように、

前へ前へと進むなぁくん。




そんな彼の姿にグッと込み上げるもの。




あの日を堺に、

お見舞いに行ってもうまく話せなくなった。




友達ってどんなものか分からなくて、

"ずっと"友達でいるってことが

私には凄く難しいことなんだって思った。




今だって

駆けつけたい気持ちを抑えるのに必死で。




彼への罪悪感を遥かに上回ってしまうくらい、

なぁくんに焦がれる気持ちが

私の中で膨らみ続けている。




好きなのに。




苦しくて、ここから逃げ出したい。




ギュッ




おんちゃんが大丈夫だと告げるように

私の手をニギニギとしっかり握る。




その横では、




茂「おっかだーーー!おはよー!!!」




明るさ満点の茂木くんの元気な挨拶。




お「声大きいって!苦笑」




その声で大勢の視線が、なぁくんの方へ。




注目を浴びながら近づいてくるなぁくんに

茂木くんはボリュームを下げずに声を掛ける。




茂「おっせーよ!めっちゃ待ったじゃん!」




『アハハ、悪い』




なぁくんは苦笑いをしながらも

珍しく大きめの声でそれに答える。




それから、

スーッと茂木くんが大きく息を吸う音がして…




茂「夏休みに猫庇って交通事故だって?!

  お前はどんだけヒーローなんだよ笑」




お「ん?茂木くん?」




「え、?」




なんて。




夏休み中の交通事故で車椅子になったんだと、

不思議な話をする茂木くん。




それは、

わざと野次馬に聞かせているみたいに。




(あぁ。そういうことか)




私が今朝呼ばれたのも、


彼が車で乗り付けなかったのも、


二人の声のボリュームも、


目立つような髪色も笑顔も、


この嘘も。




全部、私のため。




それが容易に理解できて、

全てがなぁくんらしいと思った。




でもその優しさは、

全然優しいとは思えなかった。




この人は、

私を守るためなら、何でも喜んでするのだろうか?




次の嘘は、

事故に合う前に別れたんだとかいうのかな?




何も関係ないんだと突き付けられているようで

私の感情がザワザワと騒ぐ。




私が居なくても生きていこうとする彼に、

私だけが置いてかれていく。




胸が苦しい。




だけど。




『ゆうちゃん。おはよう。』




ニコッと爽やかな笑顔のなぁくん。




「、おはよ!なぁくん。」




私は友達としてニッコリと微笑んだ。

















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