side N







緊急搬送された俺は、

どうやら丸三日間も、眠っていたらしい。




その間ゆうちゃんは、

大人たちの説得を完全に無視して

ずっとそばにいてくれたそうだ。




だから、

俺はここに戻って来れたのだろうか?

なんて思った。




そして、

何よりもホッとしたのは、

ゆうちゃんに軽い打撲はあったものの、

幸いにも大きな怪我はなかったこと。




こんなことを言ったら怒るだろうけど、

たとえあのまま死んじゃってても、

彼女が無事でさえあれば、

俺の人生に意味があったな、なんて。




しかしながら、

俺が目を覚ましてからも、

不安な様子のゆうちゃん。




時間の許す限り、俺の側から離れないし、

家に帰ってからも、

眠るまでメールが途切れることはない。




もう大丈夫だよ、と言っても、

今回の出来事で負った心の傷は深いよう。




今は祖父母の家に帰ってるらしいけれど、

きっと心細いに違いない。




あんなことがあった学校も、

もう復帰しているというから、余計に心配になる。




だけど、


早く安心させてあげたい。


一人にさせたくない。


そう強く思うのに、

現実はなかなか上手くはいかないもの…。




意識を取り戻した俺を待っていたのは、

沢山の検査と、沢山の大人との面会である。




医者はしばらく絶対安静だと言い、

俺をベッドの上に拘束する。




教師やら、警察やら、弁護士やら、

大人達は長々と同じ話ばかりしてくる。




今回の騒動が刑事事件として扱われ、

予想するよりも大きな話になればなるほど、

ゆうちゃんが心配になるし、


限られた面会時間を減らされて、

ゆうちゃんとの時間が少なくなるし、


自由に動き回れないことも、

何もかもが、ストレスにしか感じない。




さらに、

悪いことは積み木のように積み上がっていく。






目を覚ましてから数日。




病院の個室で一人、

ベッドの上でボーッと外を眺めている俺。




個室しか空いてなかったそうで、

お見舞いに来た茂木はラッキーじゃんと言ったが、

ラッキーなのかはわからない。




コンコン。




(はぁ、今度は誰だろう…)




個室だから、

ノックをされれば目的は俺だと分かる。




今はまだ午前中で、ゆうちゃんは学校。




朝の検診は済んでいるから、

病院の人じゃないだろう。




『…はい、どうぞー』




ガララ!




"岡田くん!"




遠慮がちなノックとは裏腹に勢いよく

ドアを開けて俺の名前を呼ぶその人。




『あ、峯岸先生』




峯「ごめんね!すぐ来れなくて!」




この人は俺の後見人で、弁護士さん。




ばぁちゃん以外身寄りがない未成年の俺。




祖母に世話になったという彼女が、

後見人になってくれて今の生活がある。




『いえ、お忙しいのにすみません。

 代理の方が色々動いてくれましたから』




峯「ほんとっ、ごめん。

  大変なときに出張とか、役に立てなくて。

  で、体は?大丈夫なの!?」




『大丈夫、ですかね?多分』




峯「…、そう。

  とにかく!顔が見れて安心した!」




『すみません、迷惑かけて。』




峯「迷惑なんて全然っ

  そうだ!これお菓子と暇つぶしの漫画」




『ありがとうございます♪』




峯「いいえー笑

  で、一応話は聞いてきたけど、

  学校の件とか、彼女のこととか。

  対応は私に任せる、でいいの?」




『はい。難しいことは分からないので。

 ただ、ゆ、村山さんを守ってほしいです』




峯「うん。分かった!

  訴訟関係は得意分野だから、任せて。」




『あ、あの、費用は、出世払いでいいですか、?』




峯「アハハッ!心配しないで!

  それも、最小限で済むようにするよ」




快活に笑う峯岸先生は、

堅苦しい立場を超えて俺と向き合ってくれる

数少ない良い大人の一人。




今までの人生では、

彼女の力を借りるような大きな出来事はなかった。




けれど、

何回目であっても俺が31才になる前日まで、

気を掛けて連絡をマメにくれる人で。




ひとりぼっちだと思ってきた人生が、

本当の独りっきりではなかったのだな、と

今改めて感じる。




峯「あ、でも、出世したら、ご飯奢ってね?」




『あはは、はい。頑張ります』




峯「よーし。

  じゃあ、お医者さんと話してくるかな」




俺の顔を見て、ホッとした様子で、

グイーッと伸びる彼女。




『その話、』




峯「…、一緒に聞く?」




『良いんですか?』




俺はまだ未成年だから、

あれだけ受けた検査の結果も何も、

まだ告げられていない。




自分のことは自分で理解したいのに、

年齢という壁が立ちはだかって。




峯岸先生が来るまで、

ただ、安静にしていなさい、とだけ。




峯「勿論。岡田くんのことだもん。

  ただ、自分でも分かってるとは思うけど…

  どんな話か分からないよ?」




『大丈夫です。』




少し苦しそうな表情をする彼女は、

すでに大方のことは聞いているのかもしれない。




それでも、

俺の意思を尊重してくれる。




峯「じゃあ、先生に時間作ってもらおう。」




それから、

峯岸先生が看護師さんの元に

お医者さんの都合を聞きに部屋を出ていく。




彼女が戻ってくるまで、

俺は再び窓の外に目をやった。




もうすぐ雨の季節が来ることを忘れそうなほどの

快晴な空。




雨の季節になれば、

ゆうちゃんの誕生日だ。




続く限り何度だってお祝いしたいと思うその日。




一番近くで、

おめでとうと言うことができる今回。




今、生きていることを幸せに思って、


これから生きていくが故、


越えなければならない壁を想像する。




18才になる彼女は

心から笑ってくれるだろうか?



19才は?20才は?



…31才のゆうちゃんは、笑っているだろうか?




どのストーリーが

ゆうちゃんを幸せにできるだろう?




『ゆうちゃん、、、』




…コンコン。















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