side Y








ワー!ワー!




キュッ!キュッ!




ダムダムッ




茂「上がれ上がれー!」




オフェンスになって、

茂木くんが元気に声を上げる。




ボールは跳ねたり、飛んだり、

忙しく動きながらゴールを目指す。




が、しかし。




キュ、




パシッ!




それは途中でカットされ、

相手方の手に渡ってしまった。




茂「だぁー!何してんだよー」




悔しがる茂木くん。




お「ナイスカット!」




喜ぶおんちゃん。




そして、

カットしたのは、




『どんどん回すから動いていこう!』




片手でドリブルしながら、

仲間に指示を出す、なぁくんだ。




今日は球技大会のクラスマッチで。




まさに今、

優勝候補の茂木くんのいるクラスとの決勝が

行われている。




お「ゆうちゃん!これは勝てるかも!」




「うんっだね!凄い!」




他のサッカーやバレーは男女共に初戦敗退の

ウチのクラスが決勝まで上がるなんて、

皆思ってなかっただろう。




ワイワイ、ガヤガヤ!




接戦で面白いゲームとなっているからか、

観客の生徒がどんどん増えていって、

体育館はすでに人でいっぱいだ。




ただ…




"おいおい、スポーツクラスが負けてんじゃん"




"茂木の優勝に賭けてたのになぁ"




"彼女も取られてバスケでも負けるとか悲惨じゃね?"




'ねぇねぇ!あの人めっちゃカッコよくない??'




'岡田くんでしょ?でも彼女いるよ'




'え、村山さんって、茂木くんの、'



キャー!キャー!ヒソヒソ。



違うことで盛り上がっている外野の声も

聞こえてくる。




お「気にしなくていいよ」




「、ありがと」




自分勝手な噂話や陰口には耐性があるとは言え、

おんちゃんのように守ってくれる人がいるのは

有り難いこと。




私はこの声がなぁくんに聞こえなければいいな、

なんて思いながら、

コートの中の彼に意識を戻す。




ダムダム!




キュッ、キュッ!




パシッ!シュッ!




『ナイス!』




なぁくんが

シュートを決めた仲間に笑顔を向けて、

グッと拳を合わせる。




(楽しそう)




走って汗を流して、ボールを追いかけて。




ニコニコと楽しげにバスケをする彼の様子に

私もついつい笑顔になる。




お「やっぱ上手だよね、岡田くん」




「そうなんだ?」




お「敵味方しっかり見てるし、冷静だよ。

  自分で決めるより、

  仲間に上手くシュートさせてる。」




確かになぁくんは

ディフェンスとアシストに専念しているみたい。




お「数回練習しただけの即席チームで

  これだけゲームメイクできるとか

  才能のかたまりだよ」




「ふふ、そっか」




なぁくんが褒められているのに、

何だか私まで嬉しくなる。




お「その一方でウチのエースときたら。」




おんちゃんはハァと大きく溜息をついて、

マネージャーの顔を見せる。




ダムダム、




茂「おかだ、勝負しろよっ」




バッと大きく手を開いて、

ボールをキープするなぁくんの前に立つ茂木くん。




『…ニヤ。

 勝負の真っ最中だろ?』




ダムダム!パッ!




茂「なっ」




なぁくんはそのまま

ノールックでパスを回してしまう。




茂木くんの求める勝負ではないのは明らかで。




『短気は損気だぞー?』




茂「ムキー!」




地団駄を踏んでる茂木くんの横を

爽やかな笑顔で走り抜けていく。




茂「おい!俺にパス全部回せよ!

  絶対決めっから!」




お「もう。すぐ頭に血が昇る」




「苦笑」




茂「とにかく岡田を動かせるな!

  二人ついてでも止めろ!」




『チームワークはコッチが優勢だ。

 荒いパスはどんどんカットしてこう。

 シュートも積極的に打って!』




同じ司令塔をしていても、

性格の違いなのか、雰囲気は正反対。




それでも

互いに勝ちたいと思っていることに

変わりはない。




ダムダム、キュッ、




それから、

手に汗握る良い試合は続いて。




試合時間も残りわずか。




だが。




『ハァハァ…』




体力的には茂木くんのクラスの方が上のよう。




お「ぁー…ヤバいね」




「うん、キツそう。」




点差は4点で、逆転されている。




茂「ガハハ!運動不足だな!」




『、うるせぃっ、ハァハァ』




ボールを手に肩で息するなぁくん。




時間的にここで決めないと厳しい。




だけど、

チームメイトもガッチリマークされているし

皆、辛そうだ。




(頑張れっ)




私は祈るように固唾を飲んで見守る。




ダムダム!




タッ、タタッ、




茂「っ!やばっ!」




ふっと、姿勢を低くしたなぁくんが、

華麗にドリブルで茂木くんのマークをかわした。




そのままの勢いで

左右の手でボールを操り、ゴール下へ。




茂「リバウンド!」




その声でなぁくんの前に壁が出来る。




でも、




タタッ、タンッ!




飛び跳ねたなぁくん。




空中でクルリと反転して、

ガードをすり抜けると、パッとボールを放った。




パシュッ!




お「強っ…」




「カッコいい…」




呆気に取られるくらい速くて、

学校の球技大会だとは思えない華麗な技。




その瞬間、ドッと会場が湧き上がる!




ワー!!!




"岡田、凄くない!?"




"プロの試合みてぇ!"




『ハァハァ、っ、まだ時間はある!勝てるぞ!!』




自分のコートに戻りながら、

仲間を鼓舞する彼。




このディフェンスを守れれば、

まだチャンスはある。




そう思わせる希望のような彼の姿に、

胸が熱くなってるのは私だけではないだろう。




"4組頑張れ!いけるぞ!!"




'茂木くん!負けないでー!!'




体育館の温度は最高潮。




キュキュッ、キュッ!




ガコン!!




パシッ、




『ナイスリバン!』




茂「クソッ!戻れ戻れ!!」




茂木くんのシュートがゴールに弾かれて、

そのボールを取ったのはウチのクラス。




でも、残り、5秒しかない。




ボールは必然のようになぁくんの所へ。




ドリブルしながら

ハーフラインまで上がる。




4秒、




ダムダム…




3、




茂「悪いけど、この勝負はもらったぞ!」




『ハァ、ハァハァッ…

 だから真っ先中だっての!』




2




「なぁくん!!」




ニコッ




なぁくんの口元がクイッと上がる。




ダムダム、ピタッ。




1




トンッ!




茂「っ!マジかよ」




0…




ハーフラインよりも手前から放たれたボール。




大きな弧を描くそれは

闇雲に無鉄砲に投げられたものじゃない。




その確信があるのは多分、

なぁくんと私だけ。




…パサッ




「、入った」




お「うそ、」




ピッピッーーーー!!!




ワァ!!!!




『、勝った、、っしゃ!!!!』




ドラマチックなブザービート。




茂「、、ガハハ!!

  忘れてたわ、フリースロー得意だったな」




茂木くんは盛大に笑って

お手上げと言わんばかりに大の字に転がる。




チームメイトと抱き合った後、

なぁくんは茂木くんの所へ。




『楽しかった!』




パッと手を差し出すと、




茂「やっぱり岡田はすげぇ!

  俺もめちゃくちゃ楽しかった!」




ガシッとそれを掴んで身体を起こす茂木くん。




『また、、やろうな、バスケ』




茂「! おう!次は負けん。」




そう言って茂木くんは嬉しそうに

自分のクラスメイトと肩を組んで去っていった。






"球技大会、男子バスケ優勝は3-4"




ワー!!パチパチ!!!




試合終了のアナウンスと共に、

ダァー!!とクラスの皆が

コートに集まっていく。




お「ゆうちゃん!ウチらも行こう!」




タオルで汗を拭いながら

皆と笑顔で喜びを分かち合うなぁくん。




輪の中心にいる彼の元に、

駆け寄るのは少し躊躇われてしまう。




けれど、




『ゆうちゃん!!』




すぐにそこから抜け出して、

私の所へ一目散に走ってきてくれる。




「なぁくんっおめでと!凄かった!」




『頑張った!褒めて!』




付き合ってからは、

登下校も一緒にしてくれるなぁくんだけど、


クシャクシャな笑顔を

学校で見せてくれるのは珍しい。




(この笑顔に弱いんだよね、私)




だからか、

思わず彼の腕の中に飛び込んでしまう私と、

私を抱き寄せようとする彼。




ギュッ!




キャー!




お「わぉ//」



また違う意味で盛り上がる体育館。



『あ、ごめん、汗だくなのに///』



「私も、つい、嬉しくて///」



お「眼福、青春だね笑」



「『///』」



"アハハッ!!"



恥ずかしくて真っ赤な顔の私達を見て
クラスメイトが楽しそうに笑う。



照れくさいのか、汗を気にしているのか、
パッと体を離すなぁくん。



キュッ。



でも、その代わりに、手を握ってきて。



コソッ



『ご褒美は帰ってからもらうね?』



小声で囁いてニカッと笑った彼に
ドキッと胸が高鳴って、
余計に顔が赤くなったのは言うまでもなかった。



















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