side N








ドキドキ。




バクバク。




ゆうちゃんが、

俺の恋人になった。




その事実だけでも

駆け回りたいくらいの喜びがある。




今までのように、

一緒に居たいと思う気持ちは、


これからずっと、

彼女の"一番"近くにいたいという想いに変身し、


誰にも譲れない欲望へと形を変えて。




ゆうちゃんのことをもっと知りたくて、


ゆうちゃんに触れたいと思う気持ちも、


溢れてやまない愛しさとなって募っていく。




「ふふっ、心臓の音、凄いよ?」




『そりゃぁ、ね?』




ドキドキとバクバクが、

包み隠さず彼女に伝わっていくし、


彼女のドキドキも、

ちゃんと伝わってくる。




『ゆうちゃんのこと、大好きだから』




「/// 私も、」




俺の胸に顔を埋めて

耳を真っ赤にしているゆうちゃん。




今までと違って

口から滑らかに出ていく彼女への想い。




照れや恥ずかしさなんてのは後回しにして、

今はとにかく愛を語りたい気分だ。




「ねぇ、なぁくん」




『ん?』




「夢、じゃないよね?」




『夢だと、困るなぁ』




「夢だったらどうする?」




『んー、じゃあ、目が覚めたら、

 また告白するよ』




「ふふ、じゃあ心配いらないね?」




『うん、心配しないで?』




「ねぇ、なぁくん?」




『なに?ゆうちゃん』




「今、私、凄く幸せ」




『俺も、幸せだよ』




この腕の中にいる愛しい彼女のために、

俺は一生を捧げる。




高校生の彼女にとっては、

大袈裟な話かもしれないけれど、

大真面目にそう思っている。




これが、五度目の人生の道標。




そんなことは、まだ彼女には言えない。




『ゆうちゃん、

 ずっと、そばにいて、

 ずっと、大切にする』




今伝えられる限りの気持ちを込めて、

俺は囁いた。







キーンコーン、カーンコーン。







学校の部室棟と体育館の間。




人目につかないその場所で、

目の前には友人の茂木がいる。




茂「なんだよ、話って??」




『俺さ、村山さんと付き合うことになった。

 茂木にはちゃんと言っときたくて。』




茂「…!?」




目をまん丸にして、

俺の言葉に信じられないという顔をしている。




ゆうちゃんが恋人となった今、

皆に大っぴらに宣言するつもりはないけれど、

隠すつもりもない。




だが、

茂木には自分の口で話すべきだと

彼を呼び出した俺。




茂「…いつから、だよ、』




『付き合いだしたのは、先週の金曜だよ』




茂「じゃなくて!

  お前ら、そんな感じじゃなかったじゃん?

  なに、その急展開」




『それは、』




茂「…おんちゃんも知ってんの?それ」




『いや、まだ、知らないと思う』




茂「隠れてコソコソ仲良くしてたわけか?」




『っ、それは』




茂「そりゃそうか、

  俺の気持ち、知ってるもんな」




『…悪い』




茂「っ、」




どうにも言葉にならない様子の彼は、

ガシガシと頭を掻き乱す。




それは動揺というより、苛立ち。




茂「ハァ、すげぇ裏切られた気分だわ」




『っ、』




茂「悪いけど、今は祝福なんてできない。」




『分かってる』




茂「彩希のことも、諦めてない。」




『、』




茂「でも、

  話してくれたことは感謝する。

  人伝に聞くよりはマシだ。」




正々堂々の真っ直ぐな茂木が光だとすれば、

俺は真っ黒な闇だ。




こんなことがあっても、

彼は必要以上に俺を責めたりはしない。




その優しさに感謝するのは俺の方で。




だからこそ、

今度は真正面から彼と向き合うしかない。




『黙ってたことは謝る。

 だけど、彩希ちゃんは譲れない』




ハッキリそう言うと、

再び驚いた顔を浮かべた茂木。




茂「ガハハ!!」




でも、すぐに声を上げて豪快に笑う。




茂「じゃあ、

  今日から俺とお前は、友達で恋敵だな!」




やっぱり主人公な彼に、苦笑いが溢れるが、

ホッとしたのも正直なところ。




『おう。』




茂「これでスッキリしただろ?」




『え?』




茂「どうせ、ホントはこの件で、

  俺にやましさを感じてたんだろ?

  これからは普通にしてくれよ?」




『わかった 苦笑』




茂「あ、あと、ムカつくから、

  俺の目の前でイチャつくなよ!」




『それは、少しだけ気を付ける』




茂「少しかよ!笑

  あ、やべ!部活戻んないと!」




『あ、そうだな。

 茂木、その、ありがとな?』




茂「おう。じゃあな!」




わざと明るく振る舞ってくれてる友人に、

心から感謝しながら、

走っていく茂木を見送った。







『ふぅ。帰るか。』




ゆうちゃんのことと、茂木のことは、

今回の人生の大きなイベントである。




一仕事終わった気持ちで、

校門へとボチボチと歩いて向かう。




テクテク…、…!




すると、

校門の脇に立つゆうちゃんの姿が。




『ゆうちゃん!』




思わず大きな声で呼び掛けると、

心配そうな表情の彼女が振り返る。




タッタッタッ!




『待っててくれたんだ?』




「うん、話できた?」




『できたよ』




ゆうちゃんのことは諦めてないと言われたことは

黙っておこう。




「良かった、、

 じゃあ、私、少し経ってたから帰るね?」




『何か、用事ある?』




「ううん?」




『じゃあ、これからは一緒に帰ろ?』




「! いいの??」




『うん。嫌じゃない?』




「嫌じゃないよ!」




俺の提案に、

凄く嬉しそうに微笑むゆうちゃん。




これからは

俺のせいで変な我慢をさせないようにしたい。




『よし、帰りますか?』




「うんっ」




『今日の野菜の特売日じゃん!

 スーパー寄る?』




「ふふっ、寄るー!」




ピョンピョンと跳ねるように

楽しげなゆうちゃんが凄く可愛い。




つい手を伸ばしたくなるけど、

流石に手を繋いで帰るのは目立つから

やめておこう。




それでも、

手が届く距離で歩き出す俺達。




二人とも、

満面の笑みを浮かべてスーパーへ足を向けた。















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