side N









モグモグ!ゴックン!




『美味い!さいこーだぁ!』




語彙力がないのは否めない。




でも、

ゆうちゃんの料理はマジで美味しい。




頬袋にいっぱい詰め込んで

うまい!を連呼する俺を、

ニコニコしながら見ているゆうちゃん。




「ふふ、良かったぁ!」




『ステーキも、柔らかいしっ、

 ソースも!めっちゃ美味しいね!』




「今回はね、お肉を柔らかくするのに

 すりおろした玉葱に漬けてみたんだぁ。

 だからそれを利用して

 ジャポネソースにしたの」




『ほへぇ、、モグモグ』




(ステーキって

 ただ焼けばいいんじゃないんだなー)




きっと色々と工夫してくれてるんだろうけど、

残念ながら、

全てを理解するのは、ちょっと難しい。




俺に理解できるのは、

彼女の料理がとにかく美味しいってことと、




料理の腕を磨いて、振る舞ってくれる彼女に、

心も胃袋も、

ガッツリ掴まれている、ということくらいだ。




『ゆうちゃんなら、お店も出せるね?』




「あはは、ただの家庭料理だよ?」




『ゆうちゃんのご飯、

 ホントに美味しいと思うよ??

 お金払いたいくらいだし』




「それは、その、、///」




何故か急にゆうちゃんは

顔を赤くして、恥ずかしそうに少し俯く。




『ん??』




「なぁくんに美味しい、

 って言ってほしくて作ってるから」




そんな嬉しいことを呟きながら、

その上、更に、

チラッと上目遣いで俺を見る彼女。




それらすべてに心がキュンとして、

ドキドキと鼓動が高鳴って。




思わず、




『っ、かわいっ』




言葉が口から飛び出ていった。




「///  あり、がと?」




『ぁ///いや、こちらこそありがとうございます』







「ふふふ」




『へヘヘ』




何故か二人で感謝し合ってる感じが面白くて、


自然と互いの頬を緩めて笑い出す。




いつも和やかな二人の食事。




そして、

いつもより少し良い雰囲気の今日。




"いつまでもこんな風に過ごせたら"




"これから先も"




そんなことを彼女に話したい気持ちと、


この部屋に来る前の決意が、


喉の辺りまで込み上がっている。




だけども、

すぐに吹き荒れる臆病風。




意気込みはヘタレて、

言葉となって口から出てきそうになかった。




(ご飯を食べてから、)




なんて、

ついつい自分に言い訳をしてしまって。




そんな自分が情けないと思いながらも、

美味しいもの達と今の幸せを

俺は噛み締めて味わっている。






自分の気持ちを相手にぶつける。



自分の気持ちを知ってほしいと思う。



それが、

告白と言うのなら。




お膳立てするようなシチュエーションや

効果的なストーリーがあった方がいいのかな?




だけど、

そういうのは苦手だ。




かの友人のように、

勝利をプレゼントしたりとかできないし、

皆の前で堂々と

好きだなんて宣言もできそうにない。




ゆうちゃんが

俺を特別に扱ってくれてることも、


彼女に

嫌われてないことも、


頭では分かっても失う怖さが先立つ。




何も言わず、このままひっそりと、

"我がままな友人関係"を続けたいと願ったとしても

ゆうちゃんは受け入れてくれるかもしれない。




でも、本当は。




俺は、どうしたいのか。




それを考えたとき、

結局、行き着く果ての答えは決まってる。




(なのに、意気地がない。)






ジャー!!




『…ふぅ』




食事を終えて、

二人並んで後片付けの最中。




俺が食器を洗って、

ゆうちゃんが拭く、流れ作業の中。




「ん?どうしたの?」




知らぬ間についた溜息が、

食器棚に向かっていたゆうちゃんの元に

届いてしまったようだ。




『ん?あー…お腹いっぱいで。

 幸せだなぁって』




ゆうちゃんと一緒に居られて、の幸せを、

誤魔化して伝えるくらいしか打つ手はない。




「ふふっ。」




『なんで、笑うのさ?』




「私も。」




『え?』




「私も、幸せだなぁと思って」




『っ//』




同じ意味じゃないと思うのに、

ギュッと心を捕まえられた気持ちになる。




『それは、お腹いっぱい、で?』




(だよね?)




できるだけ冗談っぽく、

できるだけ舞い上がらないように尋ねると、




「それも、だし、

 なぁくんと今こうしてて?幸せだなぁって」






…あれ?




なんか予想外に、

良い方向に転んだ展開。




「ずっと、これからも、

 こんな感じで居られたら、もっと幸せかな」




『あ、あのっ、俺、俺もっ』




今だ、今しかない。




そう思って、

言葉を吐き出そうとした瞬間のこと。




ゴロゴロ!!ドン!!!




パッ!




「きゃっ!なに!?」




大きな揺れるような凄い音がして。



一斉に照明が落ち、一気に暗闇と化した部屋。




(停電、雷近くで落ちた?)




「まって、なに?!どうしたの、?!」




ゆうちゃんは動揺して慌てている。




ガシッ




急な暗点に目が慣れる前に、

俺はゆうちゃんの方に体を向け、引き寄せる。




『ゆうちゃん?大丈夫?

 慌てないで、怪我しちゃうよ』




「う、うん、」




怖いのか、

ギュッと抱きついてくる、ゆうちゃん。




電気が消えただけで、

外の大雨の音がやけに響く室内。




時折、稲光が走ってるのが、よく分かる。




『ゆうちゃん、懐中電灯とかある??』




「ん、多分、探せばある」




『んー、じゃあ、ウチ玄関のとこにあるから、

 取ってくるよ』




ギュッ!




「え、やだ、むり」




よほど不安なのか、

俺の胸に顔を埋めてフルフルと頭を振る彼女。




(…可愛い…)




初めて腕の中に閉じ込めた身体は

思ってたよりも数倍細い。




(…良い匂い…いや!変態か!)




ゆうちゃんと全く違う意味で動揺を隠せない俺。




(今じゃない、そう全然今じゃない)




俺はゆうちゃんを落ち着けるように、

ゆっくりと背中をポンポンと叩く。




『すぐ復旧すると思うから、

 もう少し、待ってようか?』




「うん、」




コクンと頷く彼女に、

見えない位置で苦笑いして。




バクバクしてる鼓動が

色々と物語ってないか、ハラハラして。




彼女をしっかりと抱きしめて、

暗闇の中、

ただじっと直立不動で時の経過を待った。




















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