side Y







タッタッタッ!




「ひゃー、しんどー」




カンカンカン!




委員会のせいで

いつもより遅い下校になっちゃったから

学校から駆け足で帰ってきた私。




そのままの勢いで、

アパートの階段を登る。




そんな私の目に一番に入ってくるのは、

玄関の前に置いてある保冷バック。




このバックと中の保冷剤は、

帰宅の時間がズレてもいいようにと、

いつも誰よりも帰宅の早い彼が

用意してくれたもの。




「よいっしょ、」




ガチャッ!




「ただいまー!、にしても、重いな?」




玄関の中に入って

思いの外、重たいその中身を確認してみる。




そこには、

買い物リストに書いたものと、

彼が選んで購入したものが綺麗に詰められている。




お菓子に、ジュースに、菓子パン、

それから、分厚いステーキ肉。




私がご飯を作るからと、

二人分の食費を出してくれているなぁくん。




買い出しをお願いすればこうやって、

私の好きなものをちょこちょこと買ってくる。




「ふふ、今日はパーティでもするのかな?」




それにしても、

ステーキが食べたい!と

ハッキリ主張してくる彼が、凄く可愛い。




食事には無頓着だった彼は

何を作っても喜んでくれる。




けれど、

その中で彼の好物を見つけるたびに、

嬉しさが増していくよう。




自然と緩む頬をそのままに私は、

まずはお風呂と、バスルームに向かいつつ、

ステーキ以外の献立をすぐに考え始めた。







特に決めたわけじゃないけど、

私と彼の食事の時間は

少し遅めの20時ごろで。




早くご飯が出来たら、メールか電話すれば良い。




でも、大体それくらいの時間になるのは、

食事の準備と併せて

お風呂や洗濯、簡単な掃除もするからだ。




初めはお腹空かせてたら悪いな、

なんて思って急いでいたけれど、


なぁくんも同じような行動をしていると分かって、

今はあまり焦ることはない。




お風呂さえ終わってれば、

彼が早く来ても問題ないし、

一緒にご飯を作るのも楽しい。




お互いに

気兼ねなく眠くなるまで一緒にいられるように、

そういう、暗黙の了解ができている。




パタパタッ!




ザッ、ザッ、




ザクザク!




トントントンッ




ピッ。




トントン、ザクザク…。




パタパタッ!




ガスコンロとレンジを駆使して、

彼との食事を作り上げていく私。




ステーキの付け合わせは、

マッシュポテトと

キャベツの千切りにオニオンスライス。




スープは敢えてお味噌汁にして、

小鉢にもやしのナムルとキムチを添えて。




明日はお休みだしと、

ご飯はガーリックライスにしてみた。




「ふぅー、よし!あとはお肉焼くだけだね?」




お肉を柔らかくする下処理も

すでに済んでいる。




そこまでの準備を終えて、

時計を見ると19時。




ウキウキしてたら

いつもより早くなってしまったみたい。




「なぁくん、帰ってきたかなぁ」




お風呂から上がって確認した携帯には、


"走ってくるね"


とメールが来ていて。




メールするか、電話しようか、少し悩む。




二人でいるようになって数ヶ月、

どうやら彼は食生活以外は意外と健康的で。




ジョギングしたり、筋トレしたり、

身体を動かすのは嫌いじゃないらしい。




でも、彼が運動を欲するときは

何かを発散したいときだと最近理解した私。




「んー、んー…」




普段ならヒョコッ顔だけは見せてから

走りに行くのに、な。




なんとなくの勘だけど、

私の中で何かがざわつく気配がある。




「なんか、変、」




カチャッ。




私はガスの火を止め、

お皿にラップをかけて。




そして、

寝巻き代わりのジャージの上着を手に取り、

サンダンを引っ掛ける。




バタン、ガチャ。




テクテク。




ピンポーン。







メールでも電話でもなく、

彼の家のチャイムを押してみる。




でも予想通り、応答なし。




ならば、と

カンカン、カンカンと階段を降りる。




すると、




祖父「彩希、出掛けるのか??」




ちょうど外出から帰宅した様子の

おじいちゃん達に出会う。




「おかえり!

 コンビニまで、ちょっと散歩!」




祖母「ただいま。

   雨が降りそうよ?」




祖父「夜だし、危ないぞ?

   じいちゃんが一緒に行こう」




「すぐ帰ってくるから、大丈夫!

 帰り着いたら電話するね?」




心配してくれるおじいちゃん達を

安心させるように私は微笑む。




祖母「携帯待ってるの?」




「うん、持ってるー!」




祖父「何かある前に電話しなさい!」




「はぁーい」




日が長くなってきた季節だけど、

外はもう夜で。




確かに夜道は物騒だし、

不必要におじいちゃん達に心配も掛けたくない。




なので、私は急ぐように駆け出した。






タッタッタッ、、、




いくらおじいちゃん達が近くにいるとは言っても

一人暮らしだし、



以前男の子に絡まれて、

自分が特別でなくても

怖い思いをすることを学習した私。




できるだけ、

暗くなる前に家に帰るようにしていて。




特に、昼間は賑やかな公園の周辺は

夜になると人目もないから近づかない。




だけど、今日に限っては、

その公園に用事がある。




タッタッタ、、、テクテク。




すぐに目的地に着いた私。




周囲に気を配りながらも

足並みを緩め、ゆっくりと進んでいく。




…ダム、ダム




すぐに聞こえてきたボールの音。




(やっぱり。)




照明に照らされたハーフコートの真ん中で。




ボールを軽快につく、なぁくんを見つける。




ダムダム、



タッタッ、シュッ。




レイアップを華麗に決める彼。




ゴール下に落ちるボールを拾って、

そのままドリブル。




それから、

スリーポイントラインまで下がると、

振り向きざまにシュートを放つ。




綺麗な放物線はゴールへ向かって、

リングに当たることなくネットを揺らした。




(…カッコいいなぁ)




なぁくんはバスケに夢中で、

まだ私に気付いていない。




私はすぐそばのベンチに座って、

少し彼を眺めることにする。




ダムダムッ、ザッ、ザッ、




なぁくんのバスケをまじまじと見るのは、

あの日以来。




動きは無駄がなくて、

綺麗な動作で華麗にシュートを決める。




茂木くんのパフォーマンスが

力で押し切るエネルギッシュな感じだとすれば、


なぁくんのそれは、

技術的でスマートな感じ。




どちらにしても、

二人とも恵まれた才能があるんだと思う。




ただ大きく違うのは、

ここでバスケをする彼はいつも苦しそうで、

一つも楽しそうじゃないってこと。




ダムダムッ、




センターラインに立って、

ゴールだけを見つめるなぁくん。




ボールを一度だけついて、ピタッと構える。




『…ふぅ』




息を吐いて、トンッと飛び上がれば、

大きく弧を書いてボールが投げられる。




シュッとまたネットを揺らす。




ポタッ




と同時に、

ポタッと雨粒が私の手に落ちてきた。


















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