side Y









お「岡田くんってお弁当なんだねー」




「へ!?…あ、そう、みたいだね?」




新学期初日。




思わぬことに、

私と彼は同じクラスになって。




くじ引きで決まった席は、

私が前で、彼が後ろ、という近距離。




そのせいか、

ソワソワと気まずそうにしてる彼の気配を、

私は午前中ずっと背中で感じていた。




そんな彼は、お昼休みに入った途端、

お弁当を手に

何処かへ行ってしまったようだ。




しかしながら、

そんな些細なとこまで見逃さない

視野の広いおんちゃん。




お「自炊してるとか、ちょっと意外だなぁ」




私と向かい合って座って、

パンを頬張りながら感心した様子で呟く彼女。




「そう、だね?」




私はというと、

"岡田くん" "お弁当"の話に、動揺が隠せなくて、

気のない返事しかできない。




それに、

放っておいたらカップ麺しか食べない人だよ?

なんてことは言えるわけがない。




お「ゆうちゃんもだけど、

  一人暮らしでちゃんと自炊して

  尊敬しちゃうなぁ」




「いざとなれば、

 何とかなるもんだって 笑」




お「いや、私には絶対、

  そんな可愛いお弁当は作れない」




「いやいやっ昨日の残り物だしっ、

 恥ずかしいから見ないでー」




おんちゃんの言葉に、

思わず自分のお弁当を手で隠す。




そこで、ふと、

彼が気を遣って出て行ってくれたのだと悟った。




だって、

お弁当の内容が全く同じ、だなんて

そんな偶然はあるわけもなく。




鋭いおんちゃんなら、

何か、に気づいてしまうかもしれない。




お「えぇーなんで隠すの笑

  にしても、ホント美味しそうだよね!

  私も食べたーい!」




「ふふ、じゃあ、玉子焼きあげる」




お「やったぁ!ありがとー!」




あーんと口を開ける彼女に

玉子焼きを食べさせてあげる。




お「ムフフっ、おいしー!」




「ありがとー」




お「ゆうちゃんの玉子焼き、

  私大好き!」




「あ、狙ってたな?笑」




お「バレた?」




可愛らしく

悪戯な笑みを浮かべるおんちゃんを見て、


彼のお弁当に

玉子焼きを入れるのは控えよう、なんて思う。




(明日から別々の内容にしなくちゃ)




そう密かに決意しつつも、

彼が昼休みを教室で過ごすことはない気もして。




それなら、

なぁくんが好きな物を入れてあげようかなと、

頭の中で献立に考えを巡らした。







キーンコーン、カーンコーン…




茂「おんちゃーん、行くでー?」




お「はいはい、今行くー!


  ゆうちゃん、また明日ねー!」




「うん、部活頑張って?」




放課後になった瞬間、

教室にヒョコッと顔を出す茂木くん。




荷物の多いおんちゃんを迎えに来るのが

幼馴染の彼の日課で、

私にはいつも通りのこと。




茂「おかだぁー!

  いつ練習手伝いにくるんだー??」




『! そのうち、な?苦笑』




だが、

今日から、なぁくんを誘うのも、

茂木くんの日課になりそう。




茂「ガハハ!待ってからぁ!」




底抜けに明るい茂木くんは、

決してめげるようなタイプじゃない。




どうしても一緒にバスケがしたい、

その熱意はきっと

卒業まで変わらないと思う。




『…、ハァ』




茂木くんとおんちゃんが部活に行ってしまった後、

小さく溜息をついた彼。




ガタン、パタパタ。




でも、それ以上の言葉はなく、

静かに鞄を持って教室を出て行った。




(んー)




声を掛けてくれないと分かっていても、

ちょっと寂しい。




同じクラスになったことは、

彼にとっては良いことじゃないはずだ。




凄く人嫌いな動物が、

やっと心を開きかけたような頃合いのこの出来事。




学校での彼を知ることができるチャンスも、

私には不安な気持ちの方が大きい。




もしかしたら…




帰ったら、

お弁当はもういらないと言われるかもしれない。




誰か、が気になって、

また村山さんと呼ばれるかもしれない。




せっかく近づいた距離。




元に戻るならまだしも、

マイナスになるんじゃないかとさえ思う。




なぁくんと同じ時間を過ごすようになって、

毎日が楽しくて、穏やかで。




一人っきりで生き抜く強さを持ってる彼は、

誰よりも一人の淋しさを知っていて、

どこまでも私に優しい人。




ママが居ない寂しさも、

ママが居なくなるかもしれない不安も、

彼の前では言葉にする必要すらなくて。




ただただ一緒に

受け止めてくれてる気がしている。




彼が心配で作り始めたご飯も、

今はただの口実で。




彼が去ってしまって困るのは、

間違いなく、私自身だ。




「…帰ろ」




すでに人もまばらな教室で、

私は小さく呟いて立ち上がった。






なぁくんに追いつかない程度に

ゆっくりと校舎を歩いていく。




心持ち重い足は不安の表れだろうか。




校門を出たところで携帯を取り出すと、

それには一件のメールが。




「…、ふふ」




それを見た瞬間に

それまでの憂鬱がフッと軽くなる。




"今日は疲れたから、お鍋にしませんか?

 ゆうちゃんは何鍋がいい??"




学校での生活はどうなるか分からない。




けれど、

二人だけの世界は変わらないみたいで

凄く安心した。




「何鍋にしよーかなー♪」




私は携帯片手に、

スーパーで悩んでる彼を想像して微笑む。




そして、

ウキウキと家路を急ぐことにした。






















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