side N

 

 

 

 

 

 

 

バタバタ!!!

 

 

 

ガララ!!!

 

 

 

茂「岡田!退部ってどういうことだ!」

 

 

 

放課後、

 

分かってた時間、思ってたタイミングで、

 

トレーニング着を着崩して怒鳴り込んでくる茂木。

 

 

 

『そのままの意味だけど』

 

 

 

茂「理由は!なんだよ!

  一緒にプロ目指す約束だろ!」

 

 

 

相変わらず熱い男。

 

 

 

『夢が、変わったんだ。

 だから、部活やめて、勉強に専念したい』

 

 

 

これまでの教訓を生かした言い訳。

 

 

 

茂「え、マジで言ってんの?」

 

 

 

『ごめんな』

 

 

 

茂「でも、夏の大会まで何とか、…」

 

 

 

『俺の場合、塾とか行けないし、

 めっちゃ勉強しないと大学厳しいから、さ。』

 

 

 

茂「、、だけどっ」

 

 

 

『ごめん』

 

 

 

先のことを知ってしまった俺に、

バスケを続けるという選択肢はない。

 

 

 

神妙な面持ちで、謝る俺に、

茂木は断念するしかないと思った様子で。

 

 

 

茂「部活の、件は、分かった。

  だけど!バスケはまたしようぜ?

  ほら、勉強の息抜きでもいいし」

 

 

 

『、おう、そうだな』

 

 

 

茂「じゃ、、戻るわ、」

 

 

 

萎れた葉っぱみたいに項垂れて、

入ってきた時とは別人のように出ていく茂木。

 

 

 

俺は申し訳ないと思いながらも、

掛ける言葉もなく、黙々と帰り支度をした。

 

 

 

 

 

ちなみに俺は祖母に育てられ、

高ニの夏、

その祖母が他界してからは一人暮らしである。

 

 

 

遺してくれたお金もあるし、

いざとなれば、あの裏技を使って

金銭面はどうにかできる。

 

 

 

なので、17歳に戻った数日は

漫画にゲーム、流行りの歌に懐かしさを感じて、

それなりに楽しく過ごした。

 

 

 

次に、

部活生以外は服務規定も厳しくない学校なので、

髪を切って、染めてみる。

 

 

 

軽くパーマを当てて、ブリーチで色を抜いて。

 

 

 

少なくとも30歳までは禿げないだろうと

頭皮へのダメージは気にしない。

 

 

 

せっかくならと、ピアスも開けてみた。

 

 

 

別に不良と呼ばれたいわけじゃない。

 

 

 

ただ、したいことをする方が良い、と

何度も繰り返している人生で得た教訓なだけ。

 

 

 

テクテク。

 

 

 

ガララ。

 

 

 

"え、お、岡田くん!?"

 

 

 

"うわ、やばっ//"

 

 

 

茂「おはよーさん!っておい!

  どした!!?」

 

 

 

『朝から声デカいよ 苦笑』

 

 

 

茂「いや、なんつーか、

  やっぱなんかあったのか?」

 

 

 

『変?』

 

 

 

茂「ん?いや!似合ってる、けど」

 

 

 

『そ?サンキュー。

 気分転換だから、またすぐ戻すよ』




茂「そっか。

  でも、もし、何かあるなら言ってくれよ?」




『ん?あぁ、ありがと』

 

 

 

モブキャラのイメチェンに周囲は驚いて、

茂木は俺の変わりように心配すらしてる。

 

 

 

それは茂木だけじゃないようで、

先生達にも呼び出された。

 

 

 

身の上もあるし、

部活を辞めたこともあって、凄く心配だと。

 

 

 

だが、

成績は桁違いに上がっているから、

変なものでも食べたのか、なんて。

 

 

 

(全く、面倒だな)

 

 

 

もし、六度目があったら、

高校時代は大人しくておこうと反省。

 

 

 

"悩みがあるなら、いつでも相談乗るからな!"

 

 

 

精神年齢的には

同い年または、年下とも言える彼らに、

相談できることはない。

 

 

 

『はい。ありがとうございます。

 失礼します。』

 

 

 

ガララ。

 

 

 

 

 

 

『はぁ。』

 

 

 

トボトボと、放課後の廊下を歩く俺。

 

 

 

『夕飯、何にするかなぁ…』

 

 

 

この時代の不便なところは、

まだUberなんかないってこと。

 

 

 

(買い物も作るのも、面倒だなぁ)

 

 

 

キュッ、キュッ、

 

 

"ふぁいとー"

 

 

ダムダムッ! キュッ!

 

 

お「皆ーペース落ちてるよ!」

 

 

 

体育館の横、聞こえてくる青春の音。

 

 

 

反対のグラウンドからも、

部活動の練習してる音がする。

 

 

 

何かに一生懸命になれるって羨ましい。

 

 

 

頑張ろうとか踏ん張ろうとか、

あの感覚は、

未来への期待があるから生まれるんだ。

 

 

 

もし、31歳になれるのだとしたら、

そういう気持ちを取り戻せるのだろうか。

 

 

 

『、帰ろ。』

 

 

 

六度目があるのか、31歳になれるのか、

 

それはその時しか分からない。

 

 

 

それが確定していないのが、

俺にとっての、唯一の救いでもある。

 




 

青春を謳歌してる学友の間を通り過ぎて、

校門を出る。




先生に捕まっていたせいか、

帰宅部の生徒の影も、すでにまばらな帰り道。




『腹減ったぁ』

 

 


若い時って何もしなくても、すぐ空腹になる。




(そういや、カップ麺もう無いな)




俺は食糧の在庫状況を振り返って、

仕方なくスーパーに立ち寄ることにする。

 

 


(カップ麺はマストとして、

 久しぶりに弁当でも買って帰るか。)




…ん?




軽い鞄を肩にかけ、ゆったりと進む俺の前方に、

ふと、知ってる後ろ姿が。




(…村山さん、だ)



 

"いいじゃん、暇でしょ??"

 

 

 

(おや?んー…?)

 

 

 

村山さんを取り囲んでる他校の男子、

遠目から見ても迷惑そうにしてる彼女。

 

 

 

(そういえば…)

 

 

 

と、このイベントのことを思い出す俺。

 

 

 

確か、この時、彼女は、

無理矢理引っ張られたか何かで、

怪我をする、はずだ。

 

 

 

そして、

そんなやり取りを見かけた同級生が茂木の元へ。

 

 

 

それを聞きつけた茂木が激昂して、

部活を放り出し駆け付けて、喧嘩沙汰。

 

 

 

暴走した茂木は相手をボコボコにしちゃって、

停学の上、部活動停止になる。

 

 

 

その後、何とか皆で学校に掛け合って

大会には出してもらうという話、だったはず。

 

 

 

(…これは阻止すべき事案だな)

 

 

 

俺はそちらへ向かう足を速めた。

 

 



 

「ホント、やめてよ!」

 

 

 

"皆でカラオケ行こうってだけじゃん!"

 

 

 

「行かない!」

 

 

 

"カラオケ嫌?じゃ、ボーリング?"

 

 

 

「行かないってば!」

 

 

 

"俺らの女友達も呼ぶしさー"

 

 

 

「もう離して!そこ、退いてよ!」

 

 

 

掴まれた手をブンと振り払う村山さん、

その拍子に

彼女の手が後ろにいた男の顔に当たる。

 

 

 

"った!なにすんだよ!"

 



バッ!


 


苛ついた様子で腕を上げるその男。



 

…ガシ。

 

 

 

『お前らが何してんだよ』

 

 

 

"んだよっ!離せよ!"

 

 

 

振り上げられた拳を、俺は掴んで離しはしない。

 

 

 

「岡田くんっ」

 

 

 

俺を捉えた村山さんの瞳が、涙で滲んでいる。

 

 

 

『…、××高校の、

 さとう、すずき、たかはし、たなか、だっけ?』

 

 

 

"なんでっ俺らの名前"

 

 

 

(苗字ランキング、上位だったから

 一回聞けばいやでも覚えてるわ)

 

 

 

『1対4で、ナンパとかカッコ悪いな?』

 

 

 

ギリリと掴んでいる手を握り上げる。

 

 

 

"イタタッ!うるせ!とにかく離せよ!!"

 

 

 

ワーワーうるさいので、

パッと離して、

村山さんを自分の元へ引き寄せる。

 

 

 

「岡田君、」

 

 

 

『ん。大丈夫?』

 


 

'うわっ、ヒーロー気取りかよ 笑'




リーダー格であろう男が、

ニヤニヤと俺を挑発してくる。


 


『だから?』




'なに、俺ら相手に一人でいけると思ってんの?笑'




『思ってるよ?』

 

 

 

モブキャラでも、

バスケはそこそこでも、喧嘩だけは得意。

 

 

 

むしろ、そっちの世界の方が向いてると

自分でも思うくらい自信がある。

 



ただまぁ、村山さんも居るので、

出来れば喧嘩は避けたいところ。




(とりあえず、場所変えるべきかなー)




なんて、考えていると、

そのうちの一人が思い出したように声を発する。



 

"おい佐藤、待てって!"




(リーダーは、サトウ、ね)




'なんだよ!'




 "〇〇高の岡田って、〇〇中の岡田、くんじゃね?"

 

 

 

"えっ、あ、あの!?"

 



(どの、だよ…苦笑)

 


 

『じゃあ、場所変えようか?

 ここじゃ目立つし。』




"いやっ!待ってくれ!俺らが悪かった!"




『ん?もういいの?

 というか、

 この子、(茂木の)大事な子だから、

 一生近づかないでほしいんだけど』

 

 

 

"も、もちろん!近づきません!!"

 

 

 

’あの、彼女、ごめんな!

 じゃあ、サヨナラ!!!’

 

 


手のひらを返したように、低姿勢になって、


村山さんにペコペコと謝り、


バタバタと走って逃げていく、


佐藤君、鈴木君、高橋君、田中君。

 



(あれ、拍子抜け…苦笑)




「、、、?」


 


村山さんも、不思議そうにしてる。




とりあえず、

大事にならなくて良かった、のか?




『えっと、村山さん?怪我してないよね?』

 

 

 

「う、うん、」

 

 

 

『じゃあ、良かった』

 

 

 

これで、茂木が荒れ狂うことはないし、一安心だ。

 

 

 

「あのっありがと、助けてくれて、」

 

 

 

『いいよ、当たり前のことだし?』

 

 

 

(友達の彼女なんだし)

 

 


「岡田くんって、有名なの?」




『無名ですよ、一応 苦笑』




まぁ早めの反抗期で

ばぁちゃんを泣かせた時期はあるけども。




「?

 でも、ホントありがとう。

 最近、ずっと声掛けられて困ってたから。」




『え、そうなの?

 茂木に相談すれば良かったのに』




「あれ?知らないんだ?」




『ん?何を?』




「私達、別れたから」




『へっ?いつ?!』




「えっとー、皆でカラオケ行った次の日?」




『ホントに?』




「嘘ついても仕方ないじゃん 笑

 結構皆知ってると思うよ?」




この時期に二人が別れてたなんて初耳だ。




でも、

別れたり、付き合ったりが多い二人だったから、

過去の俺が知らなかっただけか?




『そうなんだ…、、、……!』




(まさかっ、もしかして)




このイベントって、

二人がよりを戻すキッカケだったのでは!?




「?どうしたの?」




『いや、何でもない』




(いやいや、まさか、だよね)




多少のストーリー変更があっても、

二人は運命の間柄のはず。




俺は焦った気持ちを押し隠して、

都合のいい解釈を

並べられるだけ並べ、冷静を保つ。




内心わたわたしてる俺を他所に、

村山さんは先ほどの出来事から落ち着いた模様で。




「岡田くんって、家、こっちなの?」




なんて、問いかけてくる。




『あ、うん、ついでにスーパー寄ろうと思って』




「〇〇スーパー?」




『そう、そこ』




「そうなの?私も行くつもりだったんだっ

 一緒に行っていい?」




『へ?あ、うん、』




よく分からない状況に陥ったと気付いたものの、

どうすることもできない。




「行こう?」




『ぉ、おう、』




混乱した頭のまま、

何故か、

村山さんとスーパーへ向かうことになって。

 

 

 

ひとまず、

二、三人分ぐらいの間隔を

空けて歩くしかできないまま。




茂木の元、恋人と、

下校を共にすることになってしまった。


 

 

 

 




 

 





 

 

 

 

 

 

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