side N









〜♪




ガヤガヤ!ワイワイ!




チームメイトに、同級生も加われば、

結構な人数。




学校近くのカラオケボックスの大部屋に

ひしめき合う若者。




"茂木くん、これ、歌ってよー!"




茂「いいぞい!任せなはれ!」




彼女もいるのに、チヤホヤされて、

鼻の下を伸ばす彼。




そんな彼を横目に、

そっと部屋を出て行く、村山さん。




それに彼が気付くのは、

時間終了間際のこととなる。




ただそれを伝えたところで、

事態は変わらないことも知ってるため、

俺は何も言わない。




お「ねぇ、岡田君は歌わないの?」




『歌わないよ』




お「なんだ、残念」




俺の隣でポテトをモグモグ食べながら、

問いかけてくるおんちゃん。




ちなみに、

ここで一曲だけとせがまれて歌えば、


これキッカケに高校卒業まで、

おんちゃんは俺の彼女になる。




彼女のことは良い子だと思っているけど、

三度目の時点で、歌うことはやめた。




それは、

おんちゃんの本当の気持ちは、

茂木にあると

知っているからに他ならない。




そして、

彼女が茂木のことを諦めるのは

まだまだ先のこと。




『ちょっと、外の空気吸ってくる』




お「うん、いってらっしゃい」




ガチャ…




『はぁ、、』




扉を出ただけで、

中の熱気が凄いことがよく分かる。




テクテク。




そのまま、店外へ出て、人目のない所まで。




キョロキョロ…。




カチッカチッ、シュポッ




今日は学生服じゃないしと

先ほどコンビニで買った煙草。




『…ふー、コホッ、はぁ』




若くて健康な身体が、

初めて知る有害物質に驚く。




(すぐに慣れるんだけど、ねー)




『フー…』




「コラッ!」




ビクッと反応してしまうのは未成年だから?




それとも、


村山彩希、彼女に声をかけられたからか?




「駄目、でしょ?」




『あー…、はいはい、ごめんなさい』




皆まで言わずに、すぐさま煙草を消す。




「意外だね、そういうことするんだ?」




『若気の至り、なんじゃない?苦笑』




「なんで他人事みたいな言い方するの?」




『それより、そっちは良いの?あれ。』




「あ、話逸らしてる?笑」




『別に。バラしてもいいよ?』




「…言わないけど、皆に迷惑かけるよ?

 それに、

 私の方は、あれが、通常だもん」




『俺、明日部活辞めるんだ。

 だから、大丈夫でしょ。


 というか、

 嫌なら、嫌って言った方がいいんじゃない?』




「え!?明日?!ホントに??」




『あー苦笑 それは黙っててね、皆には』




「なんで、辞めるの??

 あと半年もないじゃん。


 岡田君、上手なのに」




『それは茂木がいるから、そう見えるんじゃない?

 俺は中の下、くらいだよ』




「そんなことないよ!

 茂木くんも、岡田君がいるからウチは強いって」




『あはは、お世辞でも嬉しいよ。


 だけど、辞める。それは決定だから。』




流石にここで煙草を吸えば、

彼女に迷惑が間違いなくかかる。




なので、とりあえず、

そばにあった階段に腰掛けて、

外を眺めることにした。




「バスケ、好きでしょ?」




『うん、まぁね』




俺の横に、ちょこんと座ってくる彼女。




「好きなのに、辞めるんだ?」




『好きだから、辞めるんだよ』




楽しいうちに終わりたい。



嫌いになる前にやめておきたい。




「そっか、」




『村山さんは、もうダンスしないの?』




「え?私は、うん、もうしない、かな」




『まだ、好きでしょ?ダンス』




「ふふ、そうだねー」




ニコッと微笑んで遠くを見つめる彼女の

横顔をそっと見る。




五度目で、初めての二人っきり。




モブキャラの俺と、

主人公側の世界が交わるのはこの期間だけ。




可愛い子だとは思っていたが、

俺にとってはずっと茂木の、村山さんだ。




「バスケ辞めて、なにするの?」




『んー、まだ考え中』




「進学するんでしょ?」




『んー、どうだろ』




「早めの受験モード、とかではないんだ?」




『してみたいことは、もうないし』




「もうない、って 苦笑

 岡田くん、何か雰囲気変わったね?」




『変わらないよ、何も』




「そうかなぁ?

 でも、意外と話しやすい、かも。」




少し投げやりな俺の話し方でも

ちゃんと会話が成り立つのは

彼女の優しさのおかげだと思うが。




『これで?笑』




「うん、これで 笑

 私、嫌われてると思ってたし」




『嫌ってなんかないよ?

 村山さんは茂木の彼女だし。

 まぁ、それ以上もそれ以下も思ってない』




「ふふ、興味ないって?」




『そんなことは言ってっ』




「あはは!

 そんな慌てなくても」




『と、とにかく、嫌ってはないよ。

 それだけ』




「うん。ありがと」




波長が合うのか、話していて妙に落ち着く。




確かに意外だ。




村山さんとは茂木を通してでしか

関わらないできたから、

彼女のことを良く知ってるというわけではない。




俺はもう遥か昔の17歳、今日以前のことを、

絞り出すように思い起こす。




村山さんが、

茂木と付き合いだしたのは高一の夏休み。




おんちゃんに誘われて試合を見に来てた彼女に、

茂木が一目惚れした、という流れ。




ダンス部だったけど、

夏の大会が終わると何故か三年と一緒に

辞めてしまったらしい。




派手で社交的な茂木と比べると

かなり大人しくて地味な雰囲気ではある。




でも、それが、良いんだと茂木が言っていた。




(うーん、それくらいしかないな、情報)




「部活やめるって、

 茂木くんも知らないんでしょ?」




『あ、うん。』




「きっと怒るだろうね」




『ん、怒るね』




「オカダと一緒にプロ選手になるって

 よく言ってるもん」




『なれないから、プロには』




(俺も、茂木も)




「夢がないねー苦笑」




『、村山さんの、夢は?』




「んー、私は、子供と関わる仕事に就きたい。」




『そう。きっと叶うよ』




「あとは、好きな人と結婚して、

 もし、子供ができたら、

 庭付きの大きな家を建てる!」




『ハハッ、村山さんが建てるの?』




「うん、そう 笑

 で、大きな犬と、猫も飼って、

 皆で笑顔で暮らしたい!」




『そっか、』




「子供が大きくなるまでは、一生懸命に働く」




『うん、現実的だね笑』




「そう 笑

 で、老後は田舎で旦那さんとゆっくり過ごして、

 たまに来る孫とかに可愛いって言ってもらえる

 おばあちゃんになりたい!」

 



『っ、』




何でだろう。




凄く胸が苦しい。




30年と364日で生涯を終える彼女。




彼女が語る未来に、

素敵だね、そう言ってあげられない。




「あ、平凡な夢だと思ったんでしょ?」




『ううん、良い夢、だと思うよ』




「ふふ、こういう話する相手が

 岡田くんだとは思わなかったけど、

 聞いてくれてありがと」




『皆で笑顔って幸せで良いと思う。

 叶うといいね』




「うん?そう、だね!」




胸がキュッとなりながら、

時計を見ると、

そろそろ彼が彼女を探しに来る時間だ。




『じゃあ、俺、戻るわ!』




「うん」




『村山さんも、そろそろ茂木が心配するよ?』




「どうだろ?

 最近お気に入りの後輩ちゃんが来てるから、

 私が居ないのも知らないと思うよ」




そう言う彼女の横顔は、

高校生というよりも大人びていて、悲しげだ。




『あ、あのさ、』




「ん?」




『もし、困ったことがあったら、言ってよ。』




「?」




『無かったら、無いでいいんだけど、

 でも、もし、あったら、力の限り協力する』




「、?ありがと?」




『えっと、これは、口止め料ね!

 弱みを見られたから、さ?』




「ふふ、じゃあ、覚えとく」




不思議そうな顔をして微笑む彼女に背を向けて、

俺は茂木が来なさそうな道を辿り店内へ戻った。




テクテク。




友達の彼女に、


友達の奥さんになる人に、


何故あんなことを言ったのか。




自分でもよく分からない。




ただ、五回目のこの人生。




運命を変えることはできないとしても、


彼女が旅立つその日まで、


幸せを感じていて欲しい。




純粋に、そう思ってしまった。







ザー。




キュ。




トイレで手を洗う。




ついでに顔も。




ぼちぼちと部屋に戻れば、

皆、ラストソングを合唱中。




そこに、茂木の姿はない。




(で、そろそろ…)




ガチャ!




"ねぇねぇ!外で茂木君と彼女、ケンカしてる"




'まじ? でも、いつものことじゃん'




お「私、ちょっと行ってくる」




彼らの痴話喧嘩なんてよくあること。




今日だって、いつもと同じ、なのだ。




喧嘩もするけど、仲は良い。


それが、茂木と村山さんの関係。




後に、


永遠を誓い合う、運命で繋がれた二人。




きっと、今回も、


俺は結局、傍観者に過ぎないのだろう。

























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