物語の始まりは、いつも決まっている。





ダムダムッ



キュッ キュッ



軽快なボールと靴の音が響く体育館。



ダムッ シュッ 



ブー!



キャァー!!!



ブザービートと、黄色い歓声。



試合終了に沸き立っているこの瞬間、

いつだって、物語はここから始まる。






茂「っしゃ!」



勝利のガッツポーズをして、

喜びの中心に立つ、彼。



彼は茂木忍、バスケ部のエースである。



運動神経抜群で、愛嬌もあって、容姿もいい。



目立つ存在で、いつも注目の的。



茂「お疲れさーん!」



『お疲れ』



茂「おんちゃーん!今日の得点王はー??」



お「今日も、茂木くんだよ?」



茂「ありゃ、最近やる気無くない?オカダ君よ」



『そんなことないよ』



彼の自称ライバルである、俺はオカダナナ。



俺はチームメイトである彼に、
バスケで一度も勝てたことはない、モブキャラ。



「茂木くん!お疲れ様!」



茂「ゆうちゃん!お疲れぃ!
  今日も見にきてくれてありがとね!
  おかげで勝てたよー」



「ふふ、カッコ良かった!」



お「ハイハイ、イチャつくのは後にして下さーい」



「イチャついてないもーん」



茂「もーん!ガハハッ!」



茂木の彼女である、村山彩希と、

バスケ部のマネージャーである、向井地美音。



この二人はクラスメイトで仲が良く、

おんちゃんは茂木と幼馴染だから、

三人で良く過ごしている。



『掃除してくるわー』



お「あ、岡田くん!
  これ、運んでくれない?」



『ん?いいよ。部室に持ってけばいい?』



お「うん!ありがと!」



俺はおんちゃんから荷物を受け取ると、
時計を見る。



(試合終了から、33分、)



次の瞬間、

片付けをせずに遊んでいたチームメイトが
投げたボールが、
村山さん目掛けて、ビュンと飛んでくるボール。



"あぶない!"



「キャッ!」



パシッ。



俺はそれを綺麗に片手でキャッチ。



茂「おい!お前ら危ないだろ!!」



"わりぃ!ごめんなさーい!"



お「岡田くん、凄っ!」



「ありがと、」



『…これも、片付けてくるわ』



ダム、ダム、



俺はボールをついて、その場を後にした。



ポイッ、ガコン。



ボールをカゴに入れ、
部室までゆっくりと歩く。



『ハァ。また、か』



誰も居ないことを確認して呟いた言葉。



それは、

俺にしか分からない、憂鬱な口癖だった。





今は20、、年の冬。



俺たちは高校二年生で、17歳。



青春真っ只中、
何もかもが輝いて見えるような、
そんなとき。



でも、俺とっては悲しい日常の始まりとなる。



その理由は明確で、

俺には

この先の未来が分かっているから、である。




例えば、茂木忍。


彼は来年高校卒業後、バスケで大学に進学する。


プロを目指して奮闘するものの、

怪我にて戦線離脱し、バスケは辞めてしまう。


それでも、

無事大学を卒業し、一流大手企業に就職。


25歳のときに、

高校時代から交際していた彼女である

村山彩希の妊娠を機に、結婚。


30歳の若さでマイホームを購入するという、

同級生の中でも指折りの出世株となる。




次に、向井地美音。


バスケ部のマネージャーで得た経験と

持ち前の頭脳により、医学部に進学。


大学院へと進み、

スポーツ医学の道をまっしぐらに進む。


茂木達が結婚して間もなく、

教授の息子と、お見合いをして

そのままゴールイン。


29歳で准教授となり、

大好きな研究に没頭していく。




そして、村山彩希。


彼女も大学へ進学し、教員免許を取得し、

小学校教諭となる。


プレイボーイの茂木と

引っ付いたり離れたりを繰り返すものの、

子供が出来たことにより、結婚を決意。


家庭と仕事を両立させながら育児に励み、

茂木と子供と、

末永く幸せに過ごす…はずだった。


だけど、

31歳になる誕生日、

彼女は帰らぬ人となる。




気が重いが、それが現実。


決まりきった未来だった。



でも、それ以降の未来だけは分からない。



『…しんどいなぁ。』



俺が分かるのは、17歳から30歳の間まで。



31歳を迎える11月7日になる瞬間、

俺は17歳の今日に引き戻される。



そして、今日は、五度目の今日。



また13年を繰り返すのだ。



13年後、

彼女が消えてしまうのを知りながら…。


























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