side Y









あの時、"叶わなかった" 初恋。




"叶う" とは思わなかった、初恋。




"実ってしまった"その恋は、


私をこの上ない幸せをもたらして、


同時に、


彼女の居ない人生には戻れないことを悟らせる。






「ごめん、ね、迷惑かけて」




『迷惑なんて思ってないよ?』




私と付き合い出して、

なぁちゃんはほとんどお酒を飲まなくなった。




時間の許す限り、迎えに来てくれて。




どんなに朝が早くても、

私が家に帰り着くまで起きていて。




私の体が心配だと、

健康食品や健康グッズを入手して。




酔って帰ってきた私の介抱をする。




私のお願いは

何でも聞いてくれるなぁちゃん。




だけど、

なぁちゃんのお願いは

あまり聞いたことがない。




このままでは、嫌われてしまう。




アルコールが拍車をかけて、


痛みが涙腺を余計に緩ませている。






ポロリ、ポロリと、零れ落ちる涙の粒。




『泣かないで?』




囁きながら、

私の涙をタオルで優しく拭うなぁちゃん。




なぁちゃんが洗濯して畳んでくれたタオル。




この部屋の物を一つとっても、

なぁちゃんがどれにも関わっている。




「わたし、」




『ん?』




「…嫌われたくない、よ」




脈絡もない告白に、目を見開いて驚く彼女。




『不安に、させちゃった?』




「ちがっ」




フルフルと首を振っても、

上手く言葉を続けられない。




『私はゆうちゃんのこと

 嫌いになんてなれないよ?』




「でも、私、頼ってばっかだし、

 面倒くさいし、迷惑も、心配も沢山かけて」




『頼ってくれて嬉しい。


 どんなゆうちゃんも私は大好き。


 あ、でも、身体は大事にしてほしいかな?』




「ごめん…」




『ゆうちゃんのことが、

 好きだから心配だってするけど。


 何より、私自身がね、

 ゆうちゃんが居なくなった生きていけない』




「私も、なぁちゃんが居ないと無理。」




『じゃあ、問題ないね?』




「でも、ごめんね、ホントに…」




『ヨシヨシ、ふふ、泣かないで、可愛い顔して?』




「できない、」




『まっ泣いてる顔も可愛いけどねっ』




なぁちゃんはむにむにと私の頬を弄ぶ。




「むぅ」




『あ、お風呂どうする??

 明日休みだし、今日は我慢する?』




「シャワー浴びたい」




『じゃあ、もう少しお話しして休憩して、

 それからシャワーにしようか?』




「一緒に、入る?」




『!いいの?』




キランと目を光らせて、

ピョンと現れた尻尾をユサユサ。




それだけで、

どれくらい愛されてるか分かっちゃうくらい。




「やっぱ、うそー」




『え!?そんなぁ!』




私が嘘をついても

シュンと折れてしまうだけの優しい彼女。




「我慢しなくていい、なら良いよ?」




『痛いのに?』




「痛いのは、足だもん」




クスクスッ笑い出したなぁちゃん。




『お酒入ると欲望に従順だよね?笑』




「、嫌い?」




『ふふ、大好き!

 お風呂スイッチ入れてくるね!』




なぁちゃんは飛び跳ねるように

バスルームへ走っていく。






もし、あの時、


私達の"初恋"が叶っていたら、


今のようにはならなかっただろう。




お酒を覚えた私と、


いくつかの恋をしたなぁちゃん。




そんな二人だから、


今があるんじゃないかな、とふと思った。




ネガティブな私でも、きっとなぁちゃんも、


自信を持って言えることがある。




それは、



私達の初恋の人には、誰も敵わない。






『ゆうちゃーん!


 入浴剤何がいいー??』




「え、私、浸かれないけど?」




『じゃあ、


 どんな匂いの私がいい?』




「…ふふ、そうだね、じゃあ!」




あの頃より、


大人になった私達を


いっぱい楽しもうね、なぁちゃん。



















初恋は、叶わない 完








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