side Y

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様でしたー!またねー!!」

 

 

 

"ありがとうございましたー"

 

 

 

ガチャン。

 

 

 

峯「はい、皆、お疲れ様ー!」

 

 

 

ボフッ

 

 

 

「はぁ、つかれた、」

 

 

 

桃「はい、お水、飲んでねー?」

 

 

 

「もう、飲めない、むりー」

 

 

 

桃「ザ、週末って感じだったねー、今日は」

 

 

 

「多かった、忙しかった、疲れた」

 

 

 

桃「はいはい、お疲れ様です。」

 

 

 

いつもの営業終わり。

 

 

 

"お疲れ様でしたー♪"

 

 

 

「お疲れー!」

 

 

 

帰っていく女の子達を見送りつつ、

ソファ席で休憩中の私。

 

 

 

最後に飲んだシャンパンのシュワシュワが

胃の中で騒いでいる。

 

 

 

「ぁー、駄目だ、」

 

 

 

桃「気分悪いのー?」

 

 

 

「ううん、でも、地球が回ってるー」

 

 

 

なぁちゃんと交際以降も、

私は変わらず、この仕事を続けている。

 

 

 

転職しようかな、と思わなかったわけではない。

 

 

 

だけど、考えてみれば、

この仕事も、このお店も、大好きで。

 

 

 

なぁちゃんは

好きなことをしなよと言ってくれてるし、

この仕事を気の済むまで続けることにした私。

 

 

 

出勤日のほとんどを、

夕方からお客様と食事をして同伴して、

帰宅は深夜。

 

 

 

互いの休みやその前日くらいしか、

ゆっくり過ごせない私達だけど、

 

何も無かった日々から比べると、雲泥の差。

 

 

 

少しずつお互いの世界が交わっていってる今を

二人で楽しんでいる、そんな日々。

 

 

 

「ぁー、着替えなきゃ、」

 

 

 

ふらふらとロッカールームへ行って、

何とか私服に着替える。

 

 

 

鞄を引きずるようにして歩きながら、

スマホで時間を確認して、



 

ヨロヨロ、グキッ、ドテッ、ガツン!

 



「イタッ!アタタ…」


 

 

桃「うぇ!?凄い音したけど!」




峯「大丈夫??ケガしてない??」

 

 

 

「、大丈夫、です」

 

 

 

足捻ったな、そして、何処かを打った…




桃「ホントに?」




「大丈夫、大丈夫」




峯「もー、気をつけてー?」




「えへへ、はぁい。

 じゃあ、帰りまーす」




峯「あら?送りは?」




桃「ぬふふっ、ママ、これですよこれ?」




小指を立てて、ニヤける桃。




峯「ホントに?!いやん!羨ましい!」




桃「というか、歩けないでしょ?

  下まで送ろうか?」




峯「そうね、また転びそう」




「いや、大丈夫、ったぁー」




足をついた瞬間に激痛。




桃「え、ホントに、大丈夫?」




峯「あ、もう腫れてきてるじゃん!

  これ、捻挫じゃないかもね」




「うぅ、さいあくだぁ、」




桃「病院行くべきだねー

  とりあえず、連絡しなよ?」




「うーん、」




私は仕方なく、スマホを手に取る。




絶対心配するから言いたくない。




でも、歩いて行けそうにもない。




それに、電話したくない理由がもう一つ。




pururu…




『もしもし!終わった??』




「…っ、うぅ」




声を聞くと気が緩んでしまうから。




『へ?どしたの?何かあった?!』




「なぁちゃ、ん、いたいよぅ、」


  


『なに?どうしたの??今どこ?ゆうちゃん??』




酔ってるのと、痛みで、涙が出て、

話にならない。




それを目を丸くして見てるママと桃。




峯「あらあら、苦笑


  ちょっと、代わって?」




そう言ってママが電話を代わってくれる。




峯「あ、もしもし?ママのみなみですー。

  今お店なんだけど、そう、

  ゆうちゃん、転んじゃって。

  うん、うん、あ、わかりましたー、はぁい。」




桃「なんですって?」




峯「車、停めて、すぐ来てくれるって」




桃「なら、良かったぁ」




「、、いたい、、かえりたい、やだぁ」

  



ブツブツと文句を言いながら、泣く私は、

完全に駄々っ子モード。




すると、数分もしないうちに。







バタバタ!!!




ガチャ!




『あの、すみません!』




桃「はいはーい!」




『私、さっき電話もらった、』




桃「あー!どうぞどうぞ、」




峯「あら、貴方だったのー!なるほどね!」




『? 先日はお騒がせしてすみません。

 あの、ゆうちゃんは?』




峯「奥のソファにいるんだけど。

  ごめんなさいね、来てもらって」




『いえ、こちらこそ、すみません』




案内されて、

店の中へ入ってくるなぁちゃん。




「なぁーちゃん、!」




『ありゃ、ゆうちゃん、転んだんだって??』




「うぅ、痛いの、」




『えぇ、ありゃ、痛いねー。

 あ、ここも、赤くなってるよ?』




どうやら、受け身を取れてなかったよう。




足が痛すぎて気付いていなかった、

その他の怪我も見つけるなぁちゃん。




『病院だね、これは』




「やだぁ、もう帰り、たい」




『ヨシヨシ、うん、病院行って帰ろうね?』




桃「車近くに停められました?」




『あ、この先の⚪︎×ビルの横の、』




桃「じゃあ、私、彩、ゆうさんの荷物持ちます」




『すみません、ありがとうございます』




ヒョイっと私を背負うなぁちゃん。




細い彼女が意外と力持ちだと知ったのは、

付き合い始めてからのこと。




峯「ゆうちゃんのこと、宜しくね?

  今度良かったらまた遊びに来てください?」




『はい、ありがとうございます!

 では失礼します』




店の前まで送ってくれたママと分かれ、

なぁちゃんの車へ。




「なぁー、重い?」




『ふふ、軽いよー?羽毛みたい』




「なぁー、痛い」




『うん、痛いねー、大事ないといいけど』




「なぁー、帰ろう?」




『うん、帰ろうねー?』




「なぁー、酔っちゃったー」




『うん、良く頑張ったね?お疲れ様』




桃「…なんか、やっぱり凄いですね?」




『へ?』




桃「えっと、なぁちゃん、さん?」




『あ、私、岡田奈々って言います。

 奈々、でも、なぁちゃん、でも」




桃「じゃあ、奈々さん!私は大西桃香です!

  桃って呼んでください!」




『あ、貴方が桃さんですね?

 よくゆうちゃんから聞いてます。

 お世話してもらってるって 笑』




桃「いやいや!

  でも、まぁそれなりに 笑


  にしても、

  こんなゆうちゃんも初めてみるし、

  それを手懐けてる奈々さんって凄いです。」




『あははっ、でも、凄くはないと思いますよ?

 あ、車、あれです』




なぁちゃんと桃が話しているのを

一応黙って聞いていたら、

駐車場に到着したみたい。




ピッ!




『よいっしょ、』




「ありがとー」




私を助手席に乗せて、

シートベルトまでしてくれるなぁちゃん。




桃「はい。これ荷物です。

  忘れ物はないと思います」




『ありがとうございます。』




桃「じゃ、私、戻りますんで、また!


  ゆうちゃん、お疲れ!」




『はい、また!』




「バイバーイ」




元気に去っていく桃を見送って、

なぁちゃんは運転席に回った。




バタン。




『よし、えっとー…今から行ける病院』




「かえろ?」




スマホで病院を探す彼女に、

首を傾げてお願いしてみる。




『かわいくお願いしても駄目だよー?

 病院行ってからね?』




「かえりたい、」




『すぐ着くから、寝ないでよー?』




「ねむいけど、いたい…」




素直にそう告げると、


なぁちゃんは心配そうに優しく微笑んで、

ヨシヨシと頭をポンポンとしてくれる。




それから、目的地が決まった様子で、

ハンドルを握り、エンジンをかけた。







"んー、骨は大丈夫そうですけど、

 靭帯かなり痛めてますねー、痛いでしょー"




「…痛いです」




『苦笑』




"固定しておきますから、安静にね。

 痛み止めは出来るだけ

 アルコールが抜けてから飲んでくださいね"







『お世話になりましたー』




私の足首はガッチリ固定され、

松葉杖が貸し出される。




だけど、

今それをついたらまた怪我をしかねないと、


家に帰り着くまでなぁちゃんは

ずっと私を背負ってくれた。




ガチャガチャ。




パタパタ、パタ。




『はぁい、おかえりー』




「ん、ただいま、ありがと、」




ソファに優しく下された私。




まだまだ酔ってはいるけど、

流石になぁちゃんに迷惑をかけたと反省中。




『お水、飲もうか?』




「、うん、」




『はい、どうぞ?』




「、、、ありがと」




『ん?なんで、泣いてるの??』




こんな風に迷惑をかけて、

申し訳ない気持ち。




それと、

嫌われてしまうのではないかという不安。




なぁちゃんと付き合いだして、

私の感情のタガは壊れてしまったみたい。




『どうしたのー??いたい??』




なぁちゃんの優しい声が響く。




(私、めんどくさい女だ)




私は上手く言葉にできなくて、

ただただ泣いてしまった。









 

 






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