side N








「着替えて、くるね?」




『うん』




パタパタ…、パタン。




ゆうちゃんが部屋を出て、静かに閉まる扉。




『はぁ、やば、緊張が…』




ここはゆうちゃんの自宅。




純粋に会いたいという思いからの行動が、


思ったよりも発展して、


少し戸惑ってる。




『、ふぅー、落ち着け、私』




話している様子から

迷惑とか無理してる、

そういう気持ちは感じられない。




ゆうちゃんの中ではもう、

私から去るべき理由が無くなったのだろうか。




もしかしたら、

昔のように、とはいかなくても、

また友人として繋がれるかもしれない。




だからこそ、

あの時みたいな、選択ミスだけは

何としても避けたい。




そう思えば思うほど、

私はどんどん緊張してしまう。






カチャッ。




『お、おかえりっ』




「ふふ、ただいま?」




部屋着になっただけなのに、

より親近感を覚えて、ドキドキする。




「お茶でいい?

 あ、レモンハイならあるけど?」




『あ、えと、ゆうちゃんは?』




「私はねー、もう飲めないから、お水」




『じゃあ、お茶で!』




テクテク、ストン。




「ん、じゃ、はい、どうぞ?」




『ありがと』




自然な流れで、

ソファに腰掛ける私の隣に座る彼女。




手渡されたペットボトルを

ギュッと握って、動悸をおさえる私。




「なぁちゃんは相変わらずお酒強いね?」




(かわいいっ)




職業病なのか、

家の中というのに、距離が近い。




こちらを向いて、首を傾げる仕草が

たまらなく可愛い。




「なぁちゃん?」




『えっ、あ、私はほら吐いちゃったから』




「あれ、ごめんね…

 びっくりしたけど、ホント助かった」




『いや、早く止めようかとは思ったんだけど…』




(それも迷惑かと思った、とは言えないな)




「ふふ、絶妙なタイミングだったよ?

 ありがと、ね?」




『ううん、そんな。

 でも、ゆうちゃん、お酒強くなったよね?』




「そうだねー、昔よりは?

 でも、普段はこんなに飲まないし、

 今もかなりフワフワしてるよ笑」




『顔はちょっと赤いくらい?、ぁっ、』




そっ、と頬に手を当ててしまった私は、

慌てて手を引っ込めようとするが、




「そう、かな?」




その手の上から、ゆうちゃんの手が重なる。




『、、少し、熱い』




「でしょ?酔ってるから笑」




もうドキドキが収まらなくて、

ゆうちゃんから目が離せない。




何だろう、今の、この雰囲気。




昔の私達は距離が近くて、

それに戻ったと思えば、そうなんだろうけど。




昔の私達には無かったというより、

知らなかった、甘い何か、がある気がする。




ゆうちゃんを失う、


それ以外の道を選びたい。




なのに、もっと触れたい、


その道はどれか、必死に探している。






「なぁちゃん、今、恋人は?」




思考を巡らす私に、問いかけられる質問。




『へ?、今は、いないよ』




「どれくらい、いない?」




『え、っと、半年くらい、かな?』




私がゆうちゃんに触れているのに、

ゆうちゃんに捕まえられたような気分。




高まる鼓動が伝わってしまいそうだ。




「そうなんだ、モテるんでしょ?」




『モテないよ?全然。

 それに、長続きしないから、』




「なんで?」




それは、ゆうちゃん、じゃないから。



そう言いたくなるけど、言えない。




『なんでだろ?大体、フラれる。

 振ったのは、最初の彼くらいだもん』




「、△△くん?」




『そう、それ。

 たとえ、数日でも付き合ったなんて、

 私の人生の汚点だよ 苦笑』




「ずっと仲良いのかって思ってたけど、」




『彼が言ってた?

 全くだよ、今は連絡先も知らないし』




「そっか、」




『でも、

 すぐ別れるなら、紹介するんじゃなかったな。

 今更ゆうちゃんにも迷惑かけてさ』




「なぁちゃんとまた会えたのは

 彼が居たからだけど、ね」




『そうだけど 苦笑

 まっ、そんな感じで、

 誰と付き合っても続かないし、

 私は恋愛には向いてないのかも?』




「そんなこと、ないでしょ。

 良い彼が、きっといるよ」




パッと手を緩めたゆうちゃんは

何故か、凄く悲しそうに微笑む。




『ゆうちゃん?』




「あ、アイス食べない?

 溶けかけだったけど、多分大丈夫なはず!」




ゆうちゃんは

すくっと立ち上がり、キッチンへ向かう。




何だか様子が変で。




私は追いかけるように、立ち上がりそちらへ。




「チョコミント! 

 好きだったでしょ?」




『う、うん。今も好きだよ?』




「そっか!良かった!食べる??」




『うん、貰おうかな?』




「あ、スプーンついてないじゃん。

 ちょっと待ってね?

 小さいスプーンはー…」




『ねぇ、ゆうちゃんは?』




「ん?私はゼリー食べる!」




『じゃなくて、今、恋人は?』




「私!?


 …恋人は、いないよ、ずっとね。」




『ゆうちゃんこそ、モテるでしょ??』




「んー、仕事的にはモテた方が良いかもね?」




『作らないの?彼氏』




「…作れないの、彼氏は」




『作れないって、何で?』




「、なんで、だろうね?」




急に、聞いてほしくない、という雰囲気で。


でも、


それを聞かないといけない気がする。




『ゆうちゃんの、』




「はい、スプーン。」




『、ありがと。ゆうちゃんは、』




「、座ろ?」




『あ、うん』




再びソファに腰掛ける私達。




だけど、

さっきより拳一つ分、離れてる。




大好きなチョコミントを食べても、

スッキリしない。




『ゆうちゃん、』




意を決して、また名前を呼べば、


私が問いかけを

諦めないと悟った様子のゆうちゃん。




「なぁに、なぁちゃん」




『ゆうちゃんの好きな人は、どんな人?』




「っ、、いるの、確定なんだ?苦笑」




ゆうちゃんは苦しそうに笑って

ゼリーをコトンとテーブルに置く。




『いるんでしょ?』




「、そうだね…いるよ、好きな人は」




自分がする質問で

自分を鈍器でガンガンと打っている気分。




『叶わない、人なの?』




「そう、かな?」




『既婚者、とか?』




「ううん、違うよ。」




『ん?あ、そうなんだ…じゃあ、』




「伝えるつもりがないから。」




『え、なんで?』




「相手もそんな気はないだろうし。

 だから、叶わないの、絶対。」




『なんで、言わないと分からないじゃん。

 

 ゆうちゃんは世界一可愛いし、

 めちゃくちゃ素敵な人だし、

 絶対幸せになれるよ!』




「…、ありがと。

 お世辞でも、嬉しいな…」




『お世辞じゃないよ?ホントに。

 ゆうちゃんなら、絶対、』




「まって、」




バッと私の顔の前に手のひらを向ける。




「ストップ。この話やめよっ、」




『ゆう、ちゃん?』




その指の隙間から、見えるのは…、涙?




「あ、ごめん、、あれ?なんで、だろ?」




ゴシゴシと目元を拭うゆうちゃん。



私は、また選択を誤った?




『なんで、泣いてる、の?』




ゆうちゃんの手を止めて、

恐る恐る、その目元に指を伸ばす私。




できるだけ、優しく、それを拭うけど、


今度は私を見ながら


ポロポロと溢れて止まらなくなった。




『ごめん。そんなに嫌な話だった?』




傷つけたと分かって、苦しい。


同時に、


それくらい想われている人が、羨ましい。




「、っ、、、」




じっと私を見つめながら、

ただただ泣いているゆうちゃん。




『ゆうちゃん、ごめんね。

 私、こういう無神経な所が駄目なんだよね…』




フルフル。




首を振って、苦しそうに俯くゆうちゃん。




そんなに、辛いなら、


絶対に、叶わない恋なら。




『私なら、絶対、離さないよ、ゆうちゃんを』




「え…」




あぁ、言ってしまった…


そう思うのに、


飛び出していく言葉を止めることはできない。




『ゆうちゃんが、寂しいとき、そばにいる。


 ゆうちゃんが、苦しいとき、そばにいたい。


 代わりでいいから、


 私じゃ、駄目かな?』




こう言ってしまえば、


もう友人には戻れないだろう。




それでも、


私は、、、ゆうちゃんが好きだから。



















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