side Y







"また、会えますか"



一度、理由も告げず背を向けた私に、


逃げ出した私に、


優しいなぁちゃんの言葉が刺さって。




なぁちゃんの


求める友人になれないと分かっているのに。




誰よりも貴方の"一番"に、


何よりも貴方の"特別"でいたい、



そう伝える、勇気もないのに。




"今、会いたい"


なんで、そんなこと言っちゃったんだろう。




思わず切ったスマホを握りしめて、天を仰ぐ。






ブブブ…




「! …あぁ、なんだ。」




再び鳴る電話にハッとして、すぐ落胆。




相手は△△君。




「んー、面倒くさいなぁ、」




もうお店に来ないと決まれば、出る必要なし。




だけど、遺恨を残すと、

こういうタイプは後でやらかしてくれる。




「、もしもし、」




△「あ、ゆうちゃん!

  指原さんの連絡先、教えてくれない?」




「ごめん、知らない」




知ってるけど、教えるわけない。




△「あ、まじか…

  皆、全然電話出てくれなくて。

  このままだと、もうお店行けないんだよな…」




高橋社長も指原さんもウチの上得意。



彼らに黙って、

ウチの店に来るなど到底無理だろう。



それに、社長の'紹介'が無ければ、

ウチの店に来れるような人ではない。



  

△「まぁ、いっか。

  ゆうちゃん、今度遊びに行、」




「ごめんね、ママからきつく言われてて。

 もう連絡できないんだー。」




△「それは仕事だから、でしょ?」




「うん。だって△△君は、店のお客様だもん。

 だから、連絡先とかも消すね?


 △△君なら、分かってくれるよね?」




△「、え、あぁ、うん。」




「うん、じゃあ、さよなら」




△「さよなら?、あ、はぃ」




プチッ。




プーップーッ。




「はぁ、終わった」




自尊心の高い彼だから、

これでもう縋ってはこないはず。




とりあえず、ブロックして、着拒に。




よくよく考えれば、

私にとって、彼は色んな意味で、

ターニングポイントを与える人だったな。




でも、もう関わることはないだろう。




「…帰ろ」




いくらまだ寒いといっても、

もうアイスは溶けてしまっているかも、

なんて思いながら、歩き出す。






ブブッ。




「ん?」




電話をしている間に着信があったとの通知。




ブブブッ




「わっ」




そして、また震え出すスマホ。




表示される、"岡田奈々"




「え、なんで、」




どうしよう。



変なこと言ったから、心配かけてしまったかな。




ブブッ。




(あ、切れた)




戸惑っているうちに、止まる。




でも、

  



ブブブッ、ブブブッ、




(また、掛かってきた)




「…ふぅ」




ピッ。




「…もしもし」




『もしもし!良かった!出てくれて!』




安堵したような声で話すなぁちゃん。




(心配してるよね、)




なぁちゃんは変わらない。




私の欲しいものを、全部持ってる。




「えっと、うん、ごめん」




『ゆうちゃん!』




「、はい」




『私も、今、今すぐ会いたい』




ほらね、私の欲しい言葉も、ちゃんとくれる。



やっぱり、なぁちゃんは優しい人。




「っ、、でも、」




『今、どこですか?』




「え、?」




『私、今、ゆうちゃんのお店の近くで。

 タクシー捕まえるから、どこに行けば良い??』




「まって、おんちゃんは??」




『おんちゃんは恋人さんといるから平気!』




「そう、なんだ、」




『あ、もしかして、迷惑、だったかな…?』




だんだんと小さくなるなぁちゃんの声。




「ううん!迷惑じゃないっ」




咄嗟に出るのは、本音で。




「えっと、今〇〇町のコンビニの近くで」




『分かった!すぐ行くから。』




「、うん」




『明るいところにいるんだよ?』




「うん。待ってる」




『、うん。待ってて』




「、」




『、、』




ガタガタ。バタン。




『すみま、、えっと、〇〇町の、、』




「、タクシー、乗ったの?」




『うん、乗った!

 ゆうちゃんは周りに変な人とかいない??

 大丈夫??』




「ふふ、大丈夫」




『あの、そうだ、

 お酒、結構飲んでたけど、平気?』




「んー、ごめん、結構酔ってる。」




『ふふ、だよね』




「ごめんね?」




『ううん。

 いつも、一人で、帰ってるの?』




「いつもね、酔っちゃったときは、

 お店の人に送ってもらってるの」




『そっか。なら安心した』




「ごめんね、心配かけて」




『ゆうちゃん…謝らないでよ』




「うん、、」




こちらへ向かっているなぁちゃんは

電話を決して切ろうとはしない。




私も、さっきとは違って、

切るつもりはない。




私の様子を伺っては、問いかけられる質問。




それに答えながら、

コンビニへの道を戻って。




私は彼女の到着を待つ。




ポツ。




ポツリ…。




「あ、」




『ん?』




「雨、」




『え、こっちはまだ…、あ、降り出した』




少しずつ、確実に降り始めた雨。




軒先に立って、その雫を眺める。




『ゆうちゃん、濡れてない?』




「うん」




『結構、降り出したね…』




「うん」




今、同じものを見てる、そう思うと感慨深い。




ブーン。




すると、

コンビニの駐車場に入ってくる一台の車。




ガチャ!




バタン。 




…ブーン。




『ゆうちゃんっ!』




電話と目の前から、同じ声。




思わず、顔が緩んで、元には戻せそうにない。




「なぁちゃん」




会って、どうするか、決めてはいない。



会って、どうなるのか、分からない。



ただ、



会えて、凄く、嬉しい。




パタパタ!




『、お待たせ』




ザーザーと降り始めた雨で、濡れるなぁちゃん。




私はハンカチで、それを拭いてあげる。




「傘、買わないとだね?」




『あ、買ってくるよ!』




そう言って、

コンビニの中へ入って、

2本の傘を手に戻ってくる。




たったそれだけの間も、

私はなぁちゃんから目が離せなくなっている。




『はい、どうぞ?』




「、ありがと」




『じゃあ、雨も酷いし、、送るよ』




「え?」




『え、あ、近くまで』




「、そうじゃなくて、」




『ん?』




「ウチ、来て?」




『っ、うん、』




私の言葉に嬉しそうに、クシャクシャと笑う。




酔った勢い。




多分、そうだけど、そうじゃなくて。




どちらにせよ、


今の私は、自分を、止めることができそうない。




それだけは、確か。







バサッ!




『ゆうちゃんのお家、近い?』




買ったばかりの傘を広げて。




振り返るなぁちゃんは、何をしても絵になる。




「うん、近いよ?行こ?」




ツルンッ、ヨロッ




ガシ。




『大丈夫?』




「あ///ごめんっ」




抱き、とめらた身体。




鼓動が、速い。




『雨だし、足元気を付けて?

 あ、それ持つよ』




ガサッ。




私の手荷物をサラッと持って、

ニカッと笑うなぁちゃんが

割り増しでキラキラして見える。




「、ありがと、、」




『傘、ささないの?』




「あ、うん」




バサッ




『っ、はい、』




パッと手を差し出す彼女。




間違いなく私の心を独り占めしてる人。




私はなぁちゃんの手を迷いなくとる。




テクテクと歩き出す私達。




『酔ってるのに、

 ヒールなんて危ないよ?』




「ん、履き替え忘れてた、」




『ていうか、その格好寒くない?』




着替えるのも面倒で、

ドレスにコートを羽織っただけの私。




「やっぱりバレた?苦笑

 帰るだけだったから、良いかなって。」




『そのドレス、可愛いね?』




「そ?こういうの、好きなの?」




『ゆうちゃんに似合ってて、好きだよ』




「、ありがと//」




なんでだろ?




可愛いとか好きとか、


それなりに良く聞くものなのに。




なんで、なぁちゃんから出てくると、


こんなにも嬉しいのだろう。




『最初、あまりにも綺麗で、眩しかった』




「ふふ、それは言い過ぎ 笑」




『ホントだよ??』




「なぁちゃんは褒め上手だね?」




テク、テク、テク。




私のペースで、ゆっくりした歩調で進む二人。




数年ぶりの今日、だと、

言わないと分からないくらい普通の会話。




でも、

繋いだ手は、あの頃よりもきっと熱い。




「着いた、ここ、私の家」




『ホントに、いいの?』




「うん、来て?」




祈りながら、

なぁちゃんの手を握る力を少し強めると、




『甘え上手になっちゃって、苦笑』




「…幻滅した?」




酔って、電話して、甘えて、誘って。




今の私は、なぁちゃんにどう映ってるかな?




『幻滅なんてしないよ?

 じゃあ、お邪魔しようかなっ』




「あ、散らかってるのは気にしないでね!」




『ふふ、わかった笑』




微笑むなぁちゃんを連れて、


私はようやく自宅に帰り着いた。



































イベントバナー