side N









「、もしもし、あの、」




『もしもし、ゆうちゃん?』




私は上ずる声を何とか抑えて応答する。




「、急に電話して、ごめん。」




『ううん、大丈夫。…どうしたの?』




ガチャッ!



ガヤガヤ!ワイワイ!



バタン!




近くのお店の出入りがあって、

良い感じに酔っ払った人達が横を通り抜ける。




「…まだ、外?」




『え、うん、今はおんちゃんの知り合いのところ』




「そうなんだ、そっか、

 ごめん、急に電話しちゃって!


 えっと、あの、今日、ありがと。

 それだけ言いたくてっ、じゃあ…」




『え、まって、ゆうちゃん』




すぐに通話を終えようとするゆうちゃんに

焦って止める私。




この電話が終わったら、


もう二度と掛かってこない、


そんな気がしてならない。




「あ、、うん、なに?」




『あの、その、、』




何を言えば良いのか、


自分がどうしたいのか、分からない。




『えっと、今日はいきなりごめん、ね?』




「…ううん、驚いちゃったけど、

 会えて良かった、楽しかったよ?」




『うん、私も…。

 あと、その、彼、のこともごめんね?』




「…なんで、なぁちゃんが謝るの?」




『それは、、』




「なぁちゃんの元彼だから?」




『っ、』




「ぁ、ごめん、仕事だから、大丈夫。

 でも、助けてくれてありがと。」




『ううん、』




「おんちゃん、待たせてるんでしょ?

 早く戻ってあげて?


 じゃあ、ね? なぁちゃん」




『ゆうちゃんっ』




「、うん?」




『また、また…会えますか?』




「っ、、、」




ホントは、会えただけで、良いわけなくて。



でも、これ以上、嫌われたくもない。





"またね"と、言われたら、


それは社交辞令。




"食事行こうね"、だったら、


友人くらいには戻れるかも。




"ごめん" 


そう謝られたら、もう…。




これは一か八かの賭けであり、


私の人生を大きく左右する問いかけ。




一瞬、黙ったゆうちゃんの声は…




「…ごめん、」




(あー、瞬殺で散った)




『あ、そう、だよね』 




「またじゃなくて、今、会いたい」




『へ?』




「ごめん!自分勝手だよね。

 今の忘れて!

 皆でご飯、楽しみにしてる!じゃあもう切るね!」




『まっ、、ゆうちゃ』




プーッ、プーッ、プーッ…




唐突に切れた電話。




呆然とする私。




いま、何が、おきた?




『あいたい、、いま、、、私に?』




ゆうちゃんが??




聞き間違いじゃない、よね?




バッ!



バタバタ!ガチャ!!




私は急いでおんちゃん達の待つ店内へ。




茂「おかえりー!」




お「おかえり!って、どうしたの??」




『ちょっと、ごめっ、帰るわ!』




お「え、何かあった??」




『え、分かんない』




茂「分かんないって、何事??」




『ゆうちゃんに、会いたいって言われて」




お「なんだ、良かったじゃん?!」




『いや、でも、忘れてって言われて、電話切れた』




お「掛け直したの?」




『え、あ、まだ』




お「何してんの、掛け直しなよ??」




『あ、そっか、』




茂「なぁちゃん、ちょっと落ち着け?」

 



お「ここは良いから、電話掛け直して、

  とにかく気をつけて行っておいで?」




『あ、でも、電話出てくれないかも、』




何だか急に不安しかない。




お「繋がるまで掛ける!」




『っはい!』




珍しく押せ押せなおんちゃんに、

私はびっくりしながら、姿勢を正す。




茂木さんも目を丸くしてる。




お「よし、じゃあ、いってらっしゃい!」




『うん、いってくる!また連絡する!』




お「分かったよ?気をつけてね」




何でおんちゃんがこんなに強気なのかは不明。




でも、

今はとにかく、ゆうちゃんだ。




私は上着を手に取り、外に飛び出した。











side Mion





バタン!



お「ふぅ、」



茂「ねぇ、大丈夫なの?」



お「なにが?」



茂「目的地不明で飛び出したよ?なぁちゃん」



お「もし、駄目だったら戻ってくるでしょ」



茂「へ、何か確信があってとかじゃないの?」



お「ないない!笑」



茂「そんな、無責任な、苦笑」



なぁちゃんから
ずっと聞いてた女神様の存在。



何で二人が疎遠になったのか、とか
詳しい事情は知らないし、
名前がゆうちゃんってのも今日知った程度。



だけど、私は一目で見て、
それがゆうちゃんだとすぐに分かった。



なぁちゃんが分かりやすいっていうのもあるけど、
二人はなんて言うか、
持ってる空気感が似ていて。



ゆうちゃんのことはよく知らないけれど、
二人が今一緒に居ないことの方が
私には不思議に思えてならなかった。



ただ、まぁ、確かに
ちょっと無責任に送り出してしまった、かな?



けど、
私には変な直感が働いていて。



なぁちゃんにとって、
今、を逃すべきじゃないって。



お「勢いとかタイミングって大事じゃない?」



茂「まぁ会いたいって本当に言われたんなら
  チャンスとは思うけど?
  でも、恋愛的な意味じゃなかったら
  なぁちゃん辛いじゃん。」



お「んー、そうだけど。でも」



茂「でも?」



お「まっ、なるようになる、と思う!笑」



茂「アハハッ!
  美音ちゃんがそう思うなら大丈夫か!
  もし泣いて帰ってきたら、
  朝まで飲みますか!」



なんだかんだと言っても、
私を信じてくれる茂木さん。



仮に私の読みと違う結果になったとしても、
一緒に乗り越えてくれる人。



私の中で、恋人が占める部分は、
茂木さんじゃないと駄目。



だから、きっと、なぁちゃんも。



なぁちゃんの心に
いつまでも空いてる穴が、埋まるといいな。



お「ふふ、帰ってこなくても、朝まででしょ??」



茂「バレバレかぁ笑」



お「ふふ、バレバレー」



茂「よぉし!まずは腹ごしらえだ!
  温めましょう♪」



なぁちゃんが戻ってくるまで
箸をつけていなかったご飯を
いそいそとレンジへ持っていく彼女。



そんな優しい自分の恋人を見つめながら、
私は薄めのお酒を傾けた。






















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