side Y








桃「はい、お水!」




「ありがとーーー」




ぐわんぐわんと回る世界。




何とか体を起こして、もらった水を口に。




桃「気分は??何かいる?」




「お腹、すいた」




桃「…笑」




峯「ゆうちゃん、お疲れ様!」




「ままぁ!もう駄目、酔いましたっ!」




バタバタと足を動かして、駄々っ子ポーズ。




桃「そんなに動いたら気分悪くなるよ?」




峯「ゆうちゃんって、ホント気合いの子だね」




桃「ですね。スイッチのオンオフが」




私の前に座って、

感心したように笑う二人。




「あ。桃!あれはどうなったの?」




桃「△△さんは出禁になりましたー」




「へ?なんで??」




峯「出禁って語弊があるわよー?」




桃「高橋社長のお怒りを買いましてね、彼。

  飲み方を学ぶまでここには来るな、と

  ピシャリ。」




峯「高みなはホントど真面目ど変態だから。

  

  でも、ごめんね?

  もっと早く気付けば良かったんだけど。

  あのボトル飲んだ子、大丈夫だったかしら」




「多分、大丈夫だと思います。

 全部吐いたって言ってました…」




桃「そういえば、あの小柄な女の子、」




「んー、おんちゃん?」




桃「ですかね?

  高橋社長の親戚だそうです。」




(あーそれで、)




あの耳打ちと、

社長のご立腹が繋がって、納得する私。




峯「ところで、桃、早く締めてくれない?」




桃「あっ!そうだった!すぐやります!」




バタバタとフロントへ戻る桃。




ママは計算待ちで、

私は動けないから休憩。




"お先に失礼しまーす"




峯「はぁい、お疲れ様ー」




「お疲れ様でーす」




店が用意した送りの車が到着したと連絡が来れば

次々と帰っていく女の子達。




"ままぁー、今日は飲んで帰らないんですか?"




峯「秘密!

  貴方達も綺麗に飲んで帰りなさいよ!」




"はぁーい"




中には今から飲みに行くコもいる。




0時半には、ほとんど皆帰ってしまって、

更に静かさを増す店内。




峯「ゆうちゃんは、桃と帰るの?」




「んーですかねー、一人じゃー危ないので」




峯「うん、危ないわ、笑」




「ねぇ、ままー」




峯「んー?」




「好きな人って、どうやったらできますか?」




峯「恋愛したいの?」




「うーん、そうでもない、です」




峯「一つ言えるとしたら、

  好きな人って、作るものではないよね?」




「むぅー、難しい」




アルコールが回り回って、

ふわふわと空中浮遊してる思考回路。




峯「自然とその人のことを考えたり、

  ふとしたとき思い出したり、

  そういうのの積み重ねで気がつくんじゃない?」




んー。




それが、"好き"ということなら、私はまだ…。




「もし、それが叶わないものだった、ら、

 諦めるしかないんですかねー」




峯「難しいねー。

  でも、誰かを想える気持ちって大切よ?

  まっ!私の場合、

  当たって砕けて砕け散るまで諦めないけど」




「ふふ、意外 笑」




峯「あら、何事も挑戦よ?

  特に恋愛なんて、

  相手も自分も気持ちは変わるんだから、

  チャンスは狙っていかなきゃ。」




「チャンス、かぁー」




コテン。とソファ席に倒れ込む私。




そんな私をママはニコニコと見てる。




峯「ゆうちゃんがこういう話、珍しいね?」




「ですねー、酔ってるからかもしれません」




峯「ふふふ、…そう。

  ゆうちゃんだから言うけど、

  時には、勢いも大事よ?」




「…ん?酔った勢いとかですか?」




峯「それも、含めて、ね笑」




「んー」




パタパタ!




桃「おっわりましたー!!」




峯「はい、お疲れ」




桃「あれ、寝てる!?」




「おきてる」




峯「よしじゃあ、私は行きますかね!」




桃「送らなくて大丈夫ですか??」




峯「高みな達と合流だから 笑」




桃「あぁ、なるほど。

  お気を付けて!」




峯「ありがと。

  桃も、ゆうちゃんも、お疲れ様」




ムクッ




「お疲れ様ですっ」




桃「お疲れ様でした!」




ママはポンポンと私の頭を撫でて微笑むと

颯爽と出て行った。




、ガチャン。




桃「私達も、帰りますかい?」




桃は自分の上着を着ながら、

私の鞄と上着を持ってきてくれる。




「んー、そだねー」




桃「何か食べて帰る?買って帰る?」




「んー、どうしようかなー」




ブブッ




テーブルに置いたハンカチの上で、

震えるスマホ。




手を伸ばして、通知を確認する。




何件かの連絡の中で、

一番最新のものが表示されて。




それは…




"ゆうちゃんに会えて、本当に嬉しかった。

 でも、あまり無理をしないでね?

 願わくば、いつか、また、会えたら幸せです。


 じゃあ、おやすみなさい"




「願わくば、いつか、また、か」




彼女らしい、言い回し。




それがかえって、"最後"を強調していて

胸が締め付けられた。




桃「ん??」




「ううんっ、今日は真っ直ぐ帰ろ!

 眠くなっちゃった」




桃「おっけぃ!

  車まで歩ける?」




「大丈夫ー帰ろー」




モヤモヤしてる心を誤魔化して、

感の良い桃に心配をかけないように、

私は切れたスイッチを入れ直して帰り支度をした。







ブーン…、カチッカチッカチッ、




桃「到着!お疲れ様!」




「ありがとー!」




桃「しっかり水分取ってね!

  明日、休みだっけ?」




「うん!明日はジム行ってサウナ行って

 デトックスデー」




桃「枯れないように笑」




「ふふ、了解。桃も気をつけて帰ってね?」




桃「ほいほーい!んじゃおやすみ!」




ニカッと笑って、走り去る車。




「はぁー、酔ってるなぁー」




ボソボソと呟きながら、マンションへ。




スマホを手に取り、

なぁちゃんからのメッセージ以外に

ぽちぽちと返信をして。




酔いに任せた足取りで

エレベーターで自宅前まで。




ゴソゴソ、ジャラッ、




「あぁ…そうだ、家何もないじゃん!

 やっぱコンビニ寄ってもらえば良かった。」




鞄から鍵を取り出して思い出す冷蔵庫の中身。




家に入れば、

人としてのスイッチまで切れてしまう予想が容易い。




桃にはああ言ったけど、

絶対二日酔いだろうし…




「コンビニ、行こう」




休みの日は運動すると決めている私だけど、

明日は引き篭もる自分が見えている。




来た道を戻り、

フラフラと近くのコンビニへ行くことにした。






ウィーン。




深夜のコンビニは暇そうで、

いらっしゃいませ、とも言われない。




(お弁当、あんまり良いの無いなぁ)




気分の乗らない品揃えに

むぅと口を尖らせる私。




とりあえずゼリーとか、おにぎりとか

適当に目に入ったものをカゴの中へ投げる。




「甘いもの、アイス…」




(あ、期間限定、チョコミント)




こういう時、必ず思い出す彼女の好物。




さほど、好きでもないのに、

それを手に取ってしまうのは、酔っているから。




テクテク、トン。




"温めますかー?"




「いいえー大丈夫です」




"袋ー、必要ですか?"




「お願いしまーす」




ピッ、ピッ、…




"1997円でーす"




「はぁい」




カラン、カラン、




私は3円のお釣りを募金箱へ入れて、

ちょっと重い袋を受け取る。




"ありがとうございましたー"




ウィーン。




ガサガサ。




「んー、、」




ビニール袋を揺らして、帰り道。




ブブッと震えたスマホに目をやれば、

返信に対しての返信が。




相手はおんちゃん。




来店のお礼はすでに終わって、

今は近いうちに本当にご飯に行こうという

流れになっている会話。




それにはもちろんなぁちゃんも含まれている。




今更、深く説明することも出来ない状況に

頭が痛い。




私は良くても、

なぁちゃんが嫌な思いをしてるんじゃないだろうか。




それに、

次が、もう一度あって、

もし、音信不通になった理由を聞かれたら。




私は上手く嘘をつくことができるだろうか。




テクテク…、




ふと思い出すママとの会話。




「今なら、今だけは、勢いだけはあるかも」




いつだって私の頭の片隅にいるなぁちゃん。




また偶然会って、確信した自分の気持ち。




会いたくなるから、去ったのに、


求めてしまうから、消したのに、


スマホの先に、再び繋がった彼女の存在がある。




なぁちゃんからのメッセージを表示して、

私は立ち止まる。




嘘をつくなら、


彼女から距離を正しく取るなら、


今しかないのかもしれない、そう思った。






















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