side Y








初恋は、叶わない。




高校から大学の間、一緒に過ごした友達。




友達で始まり、


親友に昇格して、


友達として終わった。




ゆうちゃんのことが、大好き。


ゆうちゃんは、特別。

ゆうちゃんだけが、一番。



それを

友情として捉えていたし、

友情であってほしかった。



なのに。


"ゆうちゃんだけには紹介しておきたいんです"


その言葉と現実が、肯定してくれた"友情"は、


"やっぱり、ね"


私の中で正解の鐘を鳴らすだけ鳴らすと

私にとっては

"友情"ではなかったことを悟らせる。



余りにも遅くに気付いた初恋だった…。








〜♪



クラシックな音楽が流れる店内。



「失礼しまーす!はじめまして?
 "ゆう"です」



アルバイトで始めた夜の世界。



大学を卒業したものの、
結局、水商売だけで生計を立てるようになった。



'ゆうさん、3番、お願いします'



「はーい」



"ゆうちゃん!来たよー!"



「先生だぁー!待ってたんですよ??」



不向きだと思っていた接客業も、
意外とこなせることを知って、早二年。



この店はそれなりに敷居の高い店で、
新規は基本的に誰かの紹介。



お給料も高いし、現状に満足で、
今のところ辞める気もない。



"来週、寿司でも食べに行こうか?"



「嬉しい!!」



ママの教え通り、
まめに連絡して、少し甘えて特別なフリをする。



'ゆうさん、5番、お願いします'



"相変わらずゆうちゃんは忙しいなぁ…"



「先生、ちゃんと待っててくださいよ?」



ソッと手を添えて、首を傾げてお願い。



"待ってる待ってる!
 戻ってきたら、シャンパンでも飲もう!"



「はぁい」



そっと立ち上がって、また微笑むと次の席へ。



その前に、



「ももー、先生がいつもの下ろしてくれるから」



桃「かしこまりました!
  早めに戻れるようにします!」



黒服を纏めてる桃に言っておけば、
上手く回してくれる。



「宜しくー!ところで、5番って高橋社長?」



桃「ですです!
  お連れ様がゆうさん指名されて。」



高橋社長はママのお客様だけど、
その連れってどの人だろう。



なんて考えてると、



峯「ゆうちゃん!」



「あ、すみません、すぐ行きます」



峯「うんうん、お願いね!
  でも、先生、来てるよね?
  5番は指名だけど、それなりで良いから」



「分かりました。いってきまーす」



みぃママはここのオーナーママで、
この一等地でもう十年以上店を構えてるやり手。



お酒が沢山飲めない私でも、
売上を持ててるのはこの店だからだと思う。



(高橋社長はいつも優しいから好きだけど)



顔が広い分、色んな人を連れてきてくれるから、
自分を指名してくれたという人が思い浮かばない。



まぁ、とりあえず。



「失礼します。お待たせしてごめんなさい」



高「おっ!相変わらずの美人さん!」



「高橋社長も、変わらずイケメンで!」



高「上手になったなぁ!笑
  あ、そこそこ、そいつがゆうちゃん指名だよ」



「わぁ!ありがとうございます!
 お隣、お邪魔していいですか??」



?「あ、はいっ、どうぞどうぞ」



「んー、と、このお店初めてですよね?」



高「そうなのよ!
  でも、入った瞬間に
  あの子可愛いって言うもんだから」



「そうなんですか??ありがとうございます!」



?「いえ、その、」



「?私の顔に何かついてます??」



横に座る私の顔をじっと見つめてくるその人。



?「ぁ、いえ…」



峯「ただいまー!
  あら、なになに、
  来てそうそう良い雰囲気じゃない」
  


高「俺らには無い雰囲気で羨ましいわぁ!」



峯「なに、私には飽きたって?」



高「そ、そ、そんなわけないでしょ??!」



峯「動揺しすぎ、笑!」



「クスクス」



みぃママのテーブルはいつもこんな感じで、
凄く笑いが多くて楽しい。



?「あの、」



「あ、お名前、なんて呼べばいいですか??」



?「△△です」



(△△…、ん?)



「△△さん?君?どっちが良いです?」



△「じゃ、君、で。」



「ふふ、じゃあ、△△君、私はゆうです。
 宜しくお願いします。」



峯「可愛いでしょー、ウチのゆうちゃん。」
  
  

△「はいっ!
  ん、…ゆう、ちゃん?、ゆうちゃん。
  あっ!!」



「え?」



高「おう!どした!大きい声出して」



△「ぁ、ははっ、いえ!すみません」



私の顔をまじまじと見た後、
彼は敢えて小声で話しかけてくる。



△「君って、奈々の友達でしょ?」



「…、、え!?」



峯「まぁゆうちゃんまで、なになに?笑」



△「共通の知り合いが居たんですよ、ね?」



「みたい、です 苦笑」



高「ほー!世間は狭いなぁ!」



△「ですよね!
  何処かで見たことあると思ってて。」



(あー…思い出した、思い出してしまった)



この人は…



"ゆうちゃんだけには紹介しておきたいんです"



そう言った彼女の、隣にいた人。



コソッ



△「びっくりだね!
  こんなところで会えると思わなかったよ!」



私の初恋を確定させて、同時に終了させた人。



「あはは、ですね?」



△「奈々と連絡取ってないって聞いたけど、
  喧嘩でもしてんの??」



(まだ、付き合ってるのか…)



「ん?全然、喧嘩なんて。
 生活時間が違うんで、合わなくなっただけです」



△「そっかぁ!
  "ゆうちゃん"と会ったって言ったら
  驚くだろうなぁ」



「ですかね? 飲み物、水割りで宜しいですか?」



△「あ、うん。

  ねぇねぇ、黙っててほしい??」



「え?」



△「奈々には内緒にしておくからさ、
  こんな奇跡的な再会したんだし、
  良かったら、この後飲み直そうよ!」



「アフターってことですか??」



△「というより、プライベートで?
  前々から可愛いって思ってたんだよねー」



(黙っててほしいのは、そちらですか)



「ふふふ」



△「仕事、何時に終わる??」



「黙ってなくていいですよ?
 別に隠してないので。
 あと、送りがあるので、
 アフターはしてないんです。ごめんね?」



△「ぇ、あ、そうなんだ」



「うん?
 気に入ってくれたなら
 ここに来てくれると嬉しいです。」



△「ここに通えば、仲良くなれるかな?」



「ふふ、通ってくれるの??」



△「あっでも、ここで金使うより、
  直接だったら色々連れて行ってあげられるし」



「優しいんだね?だけど、
 △△君、モテそうだから皆にそう言ってそう」



△「いやいや、ゆうちゃんだけだよ??
  こう見えても俺奥手なんだから」



(奥手、ねぇ)



その後も、コソコソと、
どうにかしてプライベートで会おうと言う彼。



私は否定もせず、肯定もせずに、
会話を交わしていく。



出来るだけ、
高橋社長達との話に持っていくものの、
すぐに振り出しに戻されて。



少し面倒だなぁ、なんて思いつつ、
笑顔だけは絶やさない。



桃「ゆうさん、3番お願いします」



(はぁ、遅いよ)



だが、
ようやく呼ばれて、
心の中で溜息をついてしまう。



「ごめんね、席外すね?」



△「え、もう行くの?」



私が笑みを崩さず立ち上がると
ニコッと微笑む、みぃママと目が合う。



このテーブルには、
もう戻らなくて良さそうだ。



普通なら必ず連絡先を交換したりする私が、
それをしないという理由を
ママは分かってくれてる。



「高橋社長、ご馳走様でした。
 失礼します」



高「おー!ありがとありがと!」



テーブルを挟んだだけの距離で、
私達の話が
高橋社長に聞こえないわけはない。



彼は苦笑いして、私を見送ってくれる。



私は会釈すると、
首を長くしてる先生の元へ。



(今日は最悪の日だ)



二度と会いたくない人のうちの一人に
会ってしまって。



その事実がずしっと、のしかかって、
気持ちが重い。



桃「ゆうさん、彼知り合いだったんですか?」



「うん。
 私、あの席戻らないからね?」



桃「、承知しました」



桃に八つ当たりするようで申し訳ないけど、
言葉にできない苛立ちが燻ってる。



カツカツ。



「せんせー、ただいま?」



"おかえり!ボトルいつもので良いの??"



「うんっ!今日は沢山飲みたい気分なの」



"わぁお、珍しいなぁ!
 よぉし!ジャンジャン飲んじゃって!"



「ふふ、ありがとー!」



"桃たーん!いつものお願いしまーす!"



「お願いしまーす!」



桃「ハイハーイ!!」



こういう時にお酒に逃げるのは良くない。



でも、アルコールがないと、
営業が終わるまで、
笑顔を貼り付けていられない。



ポンッ!



「いただきます♪」



そうしたことを後悔するのは、明日のことである。





















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