side Y









ザワザワ。




プルルー。




ザワザワ。




カタカタ、カタカタ。




「…はい、はいっ、ありがとうございます!

 では、改めて、

 来週水曜、14時にお伺いします。

 

 はい、ありがとうございます。

 今後とも宜しくお願い致します。

 …失礼します。」




…ガチャ。 パタパタ!!




「峯岸さん!企画通りました!」




峯「おっ!!やったじゃん!」




「やりましたー!!」




峯「ヨシヨシ!偉いぞー!!」




一から企画、営業した案件が通って、

喜びが隠しきれない私を

峯岸さんがポンポンと頭を撫でて褒めてくれる。




"村山さん!おめでとう!"




"くぅーエース誕生だなぁ!"




周りの同僚もパチパチと手を叩いて

喜んでくれる。




峯「よし、じゃあ、契約書の最終確認しようか!」




「はいっ!お願いします!」




有給休暇以降、私は絶好調。




今の件もそうだが、

他の業務も順調に進んでいるし、

社内コンペに出した企画も良いところまで行ってる。




なぁちゃんとの関係が

悪いとは思ってなかったけど、

停滞していたものがスッキリ流れたようで。




プライベートも、仕事も、

とても良い状態にある。




峯「…うん。いいね。オッケー!

  これで彩希も独り立ちだね?」




ミーティングルームで二人、

書類をトントンと纏めながら

和かに微笑む峯岸さん。




「ありがとうございます。

 でも、、もっと頑張ります!」




峯「彩希は十分頑張ってると思うよ?

  二年目で契約取るなんて、ホントエースだから」




「いえ、この企画も

 峯岸さんにアドバイスいただいたおかげなので。」




峯「謙虚だねー笑

  にしても、顔つきが変わった感じ。

  プライベートも順調そうだね?」




「っ// そうですか、ね?///」




峯「ふふ、やっぱりバランスって大事だから。

  仕事も良いけど、

  プライベートもしっかり取るんだよ?」




「はい。ふふ」




この先輩が教育係になってくれて良かったと

心から思う。




そして、

良い部下をもったと思ってもらいたい。




プライベートのモチベーションの鍵が

なぁちゃんだとしたら、


仕事のそれは、峯岸さんと言える。




峯「ぁ。」




「え、何かありますか!?」




峯「来月、有給申請してたよね?」




「あ、はい。時期的に厳しいですか?」




峯「ううん、そうじゃなくて、

  確定でいいよ?

  それに、有給は権利だから笑」




「ありがとうございます!ふふふ」




峯「なぁちゃん、のことになると

  彩希はホントいい表情するよねー」




「あ、ははっ、すみません、つい//」




峯「卒業式だっけ?」




「はい、行けるか分からないとは言ってるんで。

 サプライズにしておきます。」




峯「ふふ、ラブラブで何より何より。

  そういえば、試験結果ってもう出たの?」




「いえ、3月中だそうです。

 一応自己採点は大丈夫みたいですけど」




峯「へー!ギリギリなんだね。

  私までドキドキするわ」




「ふふ、ですね」




業務中関係なく、

なぁちゃんの話を出来るのは峯岸さんだけ。




彼女にも、素敵な"恋人"がいる。




二人の時だけは敢えて話題にしてくれて。




そういう気遣いも、

私にとっては有り難いこと。

  



峯「そのうち、四人でご飯行きたいね」




なぁちゃんにも峯岸さんの話はしているし、

会ってみたいと言ってたから喜ぶだろう。




「はい、是非」




峯「都合の良い日聞いてみて?

  接待入る前に押さえとく!」




「私達が合わせますよ?」




峯「そう?じゃあ、予定みて候補連絡するね?


  よし、戻りますかね?」




「はい」




なぁちゃんは

3月までは比較的ゆっくり出来ると言ってたし、


楽しみが一つ増えたなと思って

私は笑顔を含みながらデスクに戻った。






それからの業務も滞りなく終わらせた私。




企画成立という達成感もあって、

今日は絶対定時退社するんだと決めていた。




「ん、よし、帰ろう」




定時を告げるチャイムの音共に、

PCをシャットダウン。




スクッと立ち上がって、同僚に挨拶する。




「お先に失礼します!」




"お疲れ様ー!"




峯「はぁい、お疲れー!」




"私も、帰りまーす"




峯「あれ?今日提出のやつ終わったの?」




"…はい、一時間残業しまーす"




私に便乗して帰ろうとしてた同期が、

泣く泣く机に座り直してる。




「苦笑

 じゃあ…お疲れ様です」




私は改めて挨拶すると、

部を出て、エレベーターで一階へ向かった。




その間に、

社用のスマホを留守番設定して、サイレントに。




と、同時に、私用のスマホを取り出す。




「通知、3件。」




お昼休みから今までの間に

来ていた連絡に目を通しながら、社屋を出る。




そのうちの一件はなぁちゃんからのもの。




"慰労会、20時で終わるって!

 ゆうちゃんは残業ですか?"




試験明けから、

何かと飲み会が多いみたいだけど、


以前と変わらず

おんちゃんが行く時だけ参加してる彼女。




ただ、今日は

医学部の教授主催の慰労会で、

ホテルで行われるちょっと豪勢なもの。




なぁちゃんもおんちゃんも、

予定通りいけば、大学病院勤務。 




私に気を遣って、

20時で帰ろうとする彼女の気持ちは嬉しいけれど。




お医者さんはガッツリ縦社会の世界みたいだし、

OBも沢山来る慰労会を

すんなり抜けるのは厳しいはず。




タッタッタ、




"今日は定時で上がれたよ!

 買い物と用事を済ませてから茂木と合流予定。


 ゆっくりご飯食べながら待ってるから

 二次会とかあれば行っておいでー??"


 


これは決まっている今日の予定。




例年、慰労会で卒業生は

ヘロヘロになるまで飲まされると聞いてるから、

私と茂木は迎えに行くよと二人と約束している。




ブブッ




"絶対、そっちの方が楽しいもん、二次会はいかない"




会の開始は確か16時。




今ちょうど半ばくらいだろうけど、

なぁちゃんはすでに酔っているようだ。




「あらまぁ…苦笑」




タッタッタ




"じゃあ、終わったら電話してね?"




ブブッ




"うん!!!"




相変わらず早い返事に笑みを溢して

一旦やり取りを終える。




「ということは、用事早く済ませないと」




茂木との約束は19時半。




なぁちゃんのあの感じからすると、

20時には連絡がありそう。




私は歩くスピードを上げて、

予定していたやることリストを

急いで片付けることにした。
























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