side Y









ガチャッ




「ふぅ、さっぱりしたっ」




なぁちゃんを待たせてるから、

いつもより早くお風呂を済ませた。




だけど、

いつもよりも入念に綺麗に、を心掛けてしまうのは

期待の表れなのかな。




パサ、




「…// ちょっと、背伸びしすぎた…かも」




鏡を前にして、

買ったばかりのそれを身につける自分に

顔が赤くなる。




先輩の峯岸さんに

それとなく、遠回しに相談した結果、

的確な確信的なアドバイスをもらった私。




彼女の友人が広告塔のブランドを

紹介してもらって、

その中でも無難なものを

選んだつもりなんだけど、、、




改めて身につけると

私には大人過ぎるような感じがして恥ずかしい。




「やっぱ、やめようかな…」




ご飯を食べたら、

なぁちゃんはきっと寝てしまうだろうし、


きっと

そういう雰囲気にはならないだろうし。




恋人に見せても良いものを買ったとは言え、

見せる勇気は全然出てこない。




それでも、




「ううんっ、気持ちが大事だよね」




少しでも魅力的であろうとする気持ちは

大切だと思い直す。




頑張ろう自分、と言い聞かせながら、

寝巻きにしている厚手のパーカーを羽織って、

ジジッと上までチャックを閉めた。








カチャッ




パタパタとリビングへ戻る私と呼応するように、

キッチンからスープを運ぶなぁちゃんの姿。




「お待たせ!ありがと」




『う、うんっスープ熱々だから気を付けてね!』




(ん?)




私をチラ見したなぁちゃんは、

何故かスープに向かって話しかけてる。




「うん?気を付けるね?」




『あ、先に、髪乾かす?

 そしたら、ちょうど良くなるかもっ』




(スープ、沸騰でもさせたのかな?苦笑)




「んー?じゃあ、乾かしてあげる!」




『ぇっと、』




「嫌?」




『ううんっ、全然っ、喜んで!』




「ふふ、どうしたの?笑」




『なんていうか、

 ご馳走にテンションが上がっちゃって』




ポリポリと恥ずかしそうに俯くなぁちゃん。




私をチラッと見てはパッと逸らして

ドライヤーを取りに行ってしまう。




挙動のおかしい理由は

それだけではないような感じだけど、

ひとまず髪を乾かし合うことに。




ガーーー!




「髪伸びたねー」




『うん、伸びちゃったー』




「髪、もう染めないの?」




病院研修が始まって以降の黒髪。




『んぅー、染めたいけどね』




なぁちゃんの染めたいは、かなり明るい色だろう。




「やっぱり明るくするのは難しいの?」




『卒業式だけ、とかなら、出来るかもだけど。

 ゆうちゃんは私染めてる方が良いと思う??』




「んー、金髪ならゴールデンレトリバー。

 黒髪なら黒柴って感じだよね」




『ふふ、なにそれ?』




「なんだろう?笑

 でも私は、何色でもなぁちゃんが好きだよ?」




『そ、そっか、ありがと///』




「よしっ、はい、終わりっ」




『じゃあ、ゆうちゃんの番ね!』




「よろしくお願いしまーす」




『承知しましたー!笑』




ガーーー!




『ゆうちゃんも随分伸びたね?

 しばらく伸ばす??』




「もう少し伸ばそうかな、とは思ってる」




『ゆうちゃん髪綺麗だから、羨ましいなぁ』




「一回思いっきりハイトーンにしてみたいけど」




『ぇ゛』




「ふふ、冗談。仕事もあるしね」




なぁちゃんが私の黒髪推しなのは

皆が知ってるくらい有名な話。




染めたら悪いとは言わないけど、

染めたら絶対寝込んじゃうと私は思ってる。




『ゆうちゃんなら何でも可愛いけどねっ』




「ハイハイ、ありがとう」




『本気!まじだよ??』




ちょっと慌てて、

私の顔を覗き込むなぁちゃんが可愛い。




(ホント、可愛い)




チュ




『へっ///』




「あ///」




思わず出た私の行動に、二人して驚いてしまう。




今まで何度もしてきたのに、

初めてのキスよりも、顔も体も熱くなって。




「ごめん、つい//」




『あは、へへっ、びっくりしちゃったっ』




「いや、だった?」




『嫌とかっ!嬉しいよ!?

 今日は二回も

 ゆうちゃんからのチューもらえて幸せっ』




(そういえば、朝も、だったな)




「そ、れなら良かったっ//」




無意識に出てくる自分が恥ずかしくなって、

私はチャックを少し下ろして溜まった熱を逃す。




『っ// 暑い?』




「、お風呂上がりだから、ね//」




『そ、うだねっ』




そんな会話をしつつも

ソファの下に座る私と、ソファに座るなぁちゃんは、

お互いに定位置を保ったまま。




恋人同士の二人にしては、少しおかしな空気。




良い雰囲気なはずなのに、

良い感じにはならないのが不思議なほど。




これはご無沙汰のせい?



それとも、

そうだから、こうなるのか?




ガーーー! 




急に会話もぎこちない感じになって、

ドライヤーの音が際立つ。




『…』




「…」




ガーーーー! カチッ。




『、はい、終わったよ?』




「ありがとっ。

 じゃあ、、、ご飯食べよっか??」




『っへい!』







…プッ




「っふふ、へい?」




『ックク、Hey?笑』




その瞬間、

ツボにハマったみたいに笑いが出てきて。




「へい、っふふ、あははっ、、っ笑」




『ふふっ、だって、へいって出たんだもん!』




「、、笑」




『ご飯っ食べよ!

 ていうか、スープ温め直すね?笑』




「じゃっ私、飲み物用意する!笑」




どんな重い空気でも、

二人で笑えば、なんてことはない。




なぁちゃんと過ごす時間が

やっぱり本当に大好きだ。




そうして、場の和んだ私達。




ようやく、

なぁちゃんのお疲れ様パーティーが始まった。






















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