side Y








ザー!!




メイクを落としたついでに、シャワーを浴びる。




ザー、、、キュ。




「さっぱりしたぁ!」




そろそろ返事が返ってきてるかな?




髪の毛の滴をバスタオルで取りながら、

リビングへ向かう。




「あ、きてるっ」




"もう帰り着きましたか??

 今日も一日お疲れ様です。

 飲み会、楽しめましたか?"




もう何年も一緒にいるのに、丁寧な文章。




その味気ない感じも、

なぁちゃんらしくて、嫌いじゃない。




でも、何だか無性に声が聞きたくなる。




PuPuPu…




『わっ、ゆうちゃん?!

 どしたの??何かあった??』




プルルっと鳴る前に、大好きな声。




「ただいまぁ、なぁちゃん」




『へ?うん、おかえり、ゆうちゃん』




ピロン♪




『え、ビデオ通話?


 あれ?ゆうちゃん、ウチにいるの??』




「うん、ごめん、駄目だった?」




動画で送られてくるなぁちゃんの笑顔。




背景は大学の室内みたい。




『ううんっ、全然いいよ!

 でも、私、今日は、』




「ふふ、ベッド独り占めさせてもらうね?」




『ックク、落っこちないようにね?

 一人で、寂しくない?』




「…、寂しいよ?」




『っ// なに、ゆうちゃん、酔ってる?』




「お酒飲んでないよ?

 でも、寂しいから、

 試験頑張って終わらせて、早く帰ってきてね?」




『あはっ、うん!任せて!』




「ちゃんとご飯食べて?

 少しは寝てね?」




『はぁい!


 あ、おんちゃんおんちゃん!ゆうちゃん!』




お「やっほぉー!ゆうちゃん!」




「おんちゃーん!お疲れ様ぁ!

 あと一踏ん張り、ファイトだよ!」




お「ありがとー!!

  なぁちゃんのお守りは任せといてね」




「ふふふ、お願いします。」




『じゃあ、ゆうちゃん、またラインするね!』




「うん、なぁちゃん、ファイト!」




『へへっありがと!じゃぁね!』




ピロン。




そう、静かに切れた通話。




「ふぅ、元気でよかった」




私がこの家にいると分かったとき、

ホッとしたような顔をしたなぁちゃん。




この大事な時期に

仕事と飲み会ばかりの私。




本当は明日明後日に備えてもらって、

朝お見送りしたかった。




なぁちゃんは、

仕事を優先して、と言ってくれる。




慌ただしくて申し訳ないから、

実家に帰って、と謝ってくれる。




それが、優しさだとしても、

鵜呑みにしなくて良かった。




「いつも通りが、

 願掛けみたいになっちゃったな」




パタパタパタ。




バサッ、ボフン。




「フー」




寝室に行って、言葉通り、

ベッドを独り占め。




大きく深呼吸すれば、

なぁちゃんのニオイに包まれる。




「広いベッドからは落ちないよーだ」




独り言を呟いたら、静かに目を閉じる。




なぁちゃんの声を頭に呼び起こすと、

ちょっとドキドキする鼓動。




(そういえば…)




最近、いや、ずっと、してないな。




それがなくても、

変わらない関係は、安定の証拠?




愛情表現は、"それ"以外でもいいわけで。




だけど…




(ぁー。久々だ、この感覚)




求めれば、応えてくれるなぁちゃんに、


いつも求めすぎてしまう私。




彼女のことを気遣えば、


なかなか手を伸ばすことが遠慮されて。




「マンネリ?倦怠期?…んー」




別に、そうじゃない。




「欲求不満、なのかな」




たぶん、それだ。




なぁちゃんの試験が終わったら…




「いや、待って、どう誘うんだっけ?」




してなさすぎて、キッカケが見つからない。




何だかよく分からない迷路に入ってることに、

今更ながら気がつく私。




ゴロゴロ、ゴロゴロ、




「ん゛ー」




"それ"が無くても成り立ってるのに。




"それ"を必要とする口実は?




(いやいや、口実ってのも違うな)




ゴロゴロ、ゴロゴロ




ベッドの上で転がりながら、

悶々として。




私は結局眠れない一人の夜を過ごすことになった。
























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