side N








『だはぁっーー!!もうだめだ…』




お「右に同じく…、もうヤダァー!!」




机の上に溶けたように広がる私と、


子供のように足をバタバタと振るおんちゃん。




大学の研究室。




ここは、

第二の我が家と化している私達の寝床でもある。




レポートや勉強の為に徹夜なんてことも多くて、

ゆうちゃんが実家に帰る日のほとんどを

私はここで過ごしていた。




『オーバーヒートだ、休憩しよう!休憩!』




お「いいね!久しぶりにカフェでお茶しよー♪」




本番を間近に控えた私達は

集中的に勉強しようと頑張ってたわけだが、

もう集中力を維持する気力もない。




構内のカフェがまだ営業中だからと

おんちゃんと気晴らしながら歩いていく。




お「何飲もうかなー。

  あ、新商品出たらしいよー」




『そうなの?

 でもコーヒー飲み過ぎだしなぁ』




お「なぁちゃんは

  ハマったらそればっかだから 苦笑」




『だって、

 絶対美味しいって分かってる方が良いじゃん』




たまには冒険もするけれど、

やっぱり安心安全が一番だと思う。




それに、

"新商品"というゆうちゃんの知らないものを

一人で試すのは嫌だなとも思っている。




お「そういえば、

  この前、二人で飲んでたらしいね?」




『ぁーうん。

 って、らしいねって、知らなかったの?』




二人、と言われて

ゆうちゃんと茂木さん以外には居ないだろう。




お「昨日、聞いた」




おや?


おんさま、ご立腹ですか?




『なになに、ヤキモチ?笑』




お「別にゆうちゃんとだったら平気だし…」




まぁ、そうだろう。




『でも?だけど?』




お「だけど、ね!」




『っ笑』




お「あの人、卒業決まってから飲み会ばっか!

  飲み会ってのは教えてくれるけど、

  朝まで、とかは事後報告だし!」




『今、実家だっけ?』




お「うん、

  ご飯とか掃除とかしに来てくれて帰っちゃう。

  気を遣ってくれてるのは分かってるし

  遊ぶの我慢してとかは思わないよ?


  でも、誰ととかは聞かないと言わないし、

  朝電話したらめっちゃ酔ってたりとか…」




『んー、心配なんだ?』




お「…心配」




そう言って、途端にシュンとするおんちゃん。




『そりゃ、ちゃんと話さないと?』




お「…でも、」




『ん?』




お「私達はさ、大学卒業しても、

  しばらく落ち着かないだろうし、

  安定もしないじゃん?」




『…ん。』




私にはおんちゃんが全てを言ってしまう前に

言いたいことが想像できる。




私とおんちゃんは卒業後、

この大学の附属病院に

研修医として勤めることになっている。




それもまぁ、試験に合格すれば、の話だが。




それは置いといて、

研修医として二年経て晴れて医者となれば、

給料は安定するかもだけど、そこじゃない。




激務である職業には変わりないし、

おんちゃんは救命救急志望。




気軽に飲みに行ったり、


遊びに行ったり、


そういう余裕を持てるのは、程遠いかもしれない。




お「もぎさんはフッ軽だし、

  アクティブだからさ…」




『まぁ、社会人にもなるしね、お互いに』




お「そう。

  きっと楽しい場所って沢山溢れてるでしょ?

  だから、」




"私じゃなくて、他の人の方が合ってる"




『おんちゃん』




彼女が核心を音にする前に、

私はポンと肩を叩いた。




『試験終わったらパーっと飲みに行こう!』




お「え? うん、行きたいけど?」




『いっぱい飲んで、ぶっちゃけてさっ

 学生の残りを目一杯楽しも?』




お「うん?」




『茂木さんもさ、

 ホントは一番おんちゃんと居たいと思うよ?

 とりあえず、

 今の不満はお酒と一緒にぶつけちゃお!」




お「ふふ、そうだねっ

  じゃあ、まずは、試験だ!」




『あぁっ、それは聞きたくなぁーい!』




未来の恋愛事情は、私も想像したくない。




医者になることを選んだ未来は

プライベートと仕事を

天秤に掛けなくてはいけない日が来るかもしれない。




勉強が9割の今から、

仕事と勉強が大半を占めるように変わったら、


今のように、

ゆうちゃんに支えられるだけの私では

きっと駄目だろう。




私の知らないゆうちゃんが

増えていけばいくほどに


私なんかが、

そう思う機会も増えていってる。




きっと

おんちゃんと私の悩みは似てて。




相手を解放してあげるべきか、とか


他の"良い人"が現れない魔法はないか、とか


そんなところ。




だけど、


それは間違いなく


一人で答え合わせできない問題。




『今は試験問題だけで良いよ…』




お「ん?何か言った??」




『んーんー!

 私やっぱり新作飲もうかな!』




お「おっいいねぇ!

  実は2種類あるのよ!飲み比べしよー」




『アハハッいいよ?』




私とおんちゃんは、

気分転換に落ち込んでも仕方ないと、


新作のドリンクを二つ買って

今度はくだらない世間話で心を休めることにした。




























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