side Y







ガタンゴトン。




朝まで飲む気だった茂木を宥めすかして

飛び乗った最終電車。




混み合う車内をスルスルと縫って

運良くドア側のスペースに収まった私は

進んでいく車窓を眺める。




(ちょっと、飲み過ぎちゃったなぁ)




窓に反射して映る自分の頬が赤い気がして

少し反省。




ブブッ




そんな私のスマホが震える。




相手は勿論、なぁちゃんで。




"電車間に合いました??" 




と、茂木との解散を連絡した私への返事。




「今、最終に乗ったよー、と」




ブブッ




"了解しました!

 気を付けて帰ってきて下さいね!"




(ふふっ、はぁい)




私は就職してからも未だに、

実家となぁちゃんの家を行き来している。




特に飲み会の日は

必ずなぁちゃんの部屋に帰るというのが

私達の無言のルールで。




例に漏れず、

私は電車で数十分の彼女の部屋に向かっていた。







社会人と学生の交際に変わって、

別れを選んだ友人や先輩達は多い。




大学を卒業して以降、

見えなくなったなぁちゃんの学生生活。




私も初めは

独占欲強めな自分自身に不安しかなくて…。




正直今も

問題なく交際を続けられていることが

少しだけ、不思議。




もちろん!

別れたいなんて思ったことは一度もない。




とは言え、

私がヤキモチを必要以上に妬かずに済んでるのは

なぁちゃんの努力の賜物。




学生の本分として

寝る間も惜しんで勉強して、


恋人として、

愛を捧いでくれるなぁちゃんに、


不満もなければ不安もなく、

現在に至る、そんな感じで。




それに、年次が上がる毎に

実習やら研修やらで

かなり忙しくなったなぁちゃん。




変な虫が付く暇もないほどの彼女に、

嫉妬を感じるよりも、

むしろ体の心配の方が先立っている。




(夕飯、ちゃんと食べてくれたかな?)




もう深夜だけど、

まだ勉強に勤しんでいるはず。




作り置きした夕食を食べてくれただろうか、

なんて考えていると、

電車が目的の駅に近付いていることに気付く。







ガタン、ゴトン…プシュー!




「…っと、到着♪」




私は軽快に電車を降りて、

タッタッタッと、スマホを操作しながら

階段を下っていく。




ブブッ、すぐに来る返事。




"ながらスマホは危ないですよ"




「え、ふふっ、もう」




ラインを読んで、

すぐさま顔を上げる私の視界には、


改札の前で

満面の笑みを浮かべてるなぁちゃんが。




この寒空に待っていてくれてたからか、

少し頬が赤い。




(風邪引いたらどうするのよ 苦笑)




そんなこと言っても、

聞かないコなんです、ウチのワンコ。




私はそんな心の会話をしつつも、

愛しい愛しい恋人の元へ駆け寄る。




『おかえりっ』




「ただいまっ」




『ありゃ、顔赤いね?酔ってる??』




「ちょっとだけ、飲み過ぎちゃった」




『ふふっそう、楽しかった?』




「うん!

 なぁちゃん、ご飯ちゃんと食べた??」




『食べたよ!美味しかった!ありがとう』




「ふふ、良いコ 笑

 なぁちゃんも、お迎え来てくれてありがとう」




『いいえー!

 じゃあ、帰ろ??』




差し出されるちょっと冷たくなった手を、

私は抱き締めるように捕まえる。




きっと帰ったら

また勉強に取り掛かるなぁちゃん。




勉強も、私のことも、

一生懸命に向き合ってくれる頑張り屋さん。




こうやって

私の為に作ってくれた時間に感謝しながらも、

もう少し早く帰ってくれば良かったと反省。




試験まであと少し。




出来る限りのサポートをしないといけないのに。




申し訳なくなって少し曇りそうになる表情を

パッと隠す。




「帰ったら、あったかいココア飲もうー?」




『うんっ!』




ニコニコと微笑む優しいなぁちゃんの手を

ぎゅっと握って、

ごめんね、の言葉を飲み込んだ。

























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