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カランカラン♪




"っしゃーせっー!!"




威勢のいい掛け声で出迎えられた居酒屋。




「あの、茂木で予約してると思うんですが」




"茂木様ですね!奥はどうぞー!"




ガヤガヤガヤ。




金曜日ということもあって、

満席近い店内は活気で溢れている。




奥まで進めば、リザーブの立て札と

パクパクと枝豆を摘んでいる茂木の姿があった。




茂「よっ!お疲れさん!」




「ごめんねー!遅くなっちゃって」




茂「いいよいいよ!

  でも、先にいただいてます♪」




ビールジャッキを掲げておどける茂木の前に、

私は向かい合って座る。




"お飲み物、いかがされますかー?"




「ぁー、カルピス酎ハイで!」




"承知しましたー!"




元気の良い店員さんを見送って、

おしぼりで手を拭く私を満面の笑みで見つめる茂木。




「なに?笑」




茂「なんか、社会人って感じだねー」 




「なにそれ、何も変わらないよ?笑」




茂「いやいや、雰囲気変わったよ?

  やっぱスーツも着慣れた感じだし」




「そりゃ、毎日着てるもん」




茂「ガハハッ!仕事、どう?もう慣れた??」




「んー、まぁ、二年目だしねー。

 大分落ち着いてきたかな??


 ところで、

 あなたは今年こそ卒業できるわけ??」




茂「おうよ!!問題なし!

  卒論も終わったし、

  ついでにね、

  第一志望で内定も、もらいましたぁ!」




「わっ!やったじゃーん!!!

 これで一安心だね!」




茂「そーなのよー!!

  ゆうちゃんには直接言いたくて、

  今日はお呼びしました!」




「アハッなるほどね!

 急に改まって呼び出すから何かと思ってたよ。


 でも、うん、ホント、良かった!

 おめでとっ!」




茂「ありがとー!!

  今日はお祝いだから朝まで付き合ってよねん」




「朝では嫌ー!」




茂「なんでよう!」




「ふふっ、まっ、とりあえず飲みますか!」




"お待たせしましたぁー!"




タイミングよくやってきた

カルピス酎ハイとお通し。




私がそれを持つと、

茂木もあと少しで無くなりそうなジャッキを持つ。




「じゃあ、ようやく卒業に、」




茂「ケラケラッ」




「「乾杯!!!」」




カチンッと気持ちいい音が鳴った。








大学を卒業して、

もうすぐ二年が経とうとしている。




私は大手広告代理店に就職して、

イベント企画の仕事に携わっていた。




そして、茂木は、というと、

卒業に必要な履修が出来ていなくて

まさかの2留。




それでも、まぁ、無事卒業も決まり、

ずっと志望していたところへの就職もできるのなら

結果として良かったというもの。




「結局おんちゃん達と一緒に卒業なんて

 ちょっと羨ましいかも」




茂「グフフ、それが狙い」




「え、茂木ってそんなに…だったの?笑」




茂「なっ!冗談だって!」




「ふふふっでしょうねー」




居酒屋メニューをつまみながら

茂木と話していると学生時代に戻った気がして

凄く楽しい。




仕事の付き合いで行く飲み会よりも、

こうやって数ヶ月に一度訪れるこの時間が

とても有意義に感じる。




茂「卒業式、来るんでしょ?」




「行きたいっ!


 でも、仕事が忙しい時期なんだよねー」




茂「そうなんだーショボーン」




「でも、なぁの振袖は私が選んだんだぁ」




茂「えぇ!楽しみ!

  ゆうちゃんが来られなかったら

  めっちゃ写真撮っておくね!


  むしろ、動画にする??」




「アハハッどっちでもいいけど、宜しくね?」




茂「モチ!任せといて♪」




茂木は相変わらず豪快に笑うと

何杯目か分からないお酒を注文した。




「あんまり飲み過ぎたら怒られない??」




茂「今アタシ実家に帰ってるから平気ー」




「やっぱ、おんちゃんも大変そう?」




茂「うん、追い込みだからねー

  私がいると良くないかなって思って

  今は見守り隊に徹してる。」




「そっか。」




茂「ゆうちゃんは半同棲継続してんでしょ?」




「うちの場合、放っておくとご飯食べないから」




茂「ぁー、分かる。

  おんちゃんも最近はそんな感じだから

  私めっちゃご飯だけ作りに行ってるもん」




「お互い大変だね」




私達の恋人であるなぁちゃんとおんちゃんは

医学部生で、

この最終年度に最も重要な試験がある。




二人ともその為に昼夜問わず勉強していて、

私と茂木には陰ながら応援するしかない。




茂「とりあえず、試験終わったら

  お疲れ様会しようよ」




「そうだね!」




合格発表は卒業式の後。




それまでドキドキは継続するけど、

今の頑張りを讃えてあげたい。




私と茂木は、

大切な二人が喜ぶプランを考えながら

食事を楽しんだ。




















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