side Y

 

 

 

 

 

 

 

『実は、、ゆうちゃんのこと、調べてたんだ』

 

 




 

…はい?

 

 

 

「え、っと、調べてた?」

 

 

 

『うん、調べてた。

 私の仕事、私立探偵で、』




「た、探偵、?!」




『そう。

 で、ゆうちゃんの恋人、あ、元恋人の彼から、

 素行調査の依頼を受けて、

 ゆうちゃんのこと、調査した』

 

 

 

探偵? 調査? 恋人、元恋人、彼…。

 

 

思ってもないワードの並びに、

私の思考回路は一度動きを止める。


 

 

『だから、

 前の家とかは本当は知ってて、

 この前会ったのはただの偶然ではないんだよね。

 

 あっ、でも、

 ここに引越したのは知らなかったんだよ?

 今日会ったのは完全な予想外というか…』

 

 

 

「ちょ、ちょっと、待って、?

 ごめん、全然意味が分からない、」

 


 

展開がまるで

漫画とかドラマみたいな内容で、

私にはうまく飲み込めないし、混乱してる。

 

 

 

『あ、えっと、ごめん、、、

 じゃあ、、一から話すね?』

 

 

 

「うん、お願いします?」

 



兎にも角にも、説明してもらおうと

首を傾げてお願いする私に、

 

 

ハの字眉毛のままのなぁちゃんは、

申し訳なさそうに少し視線を下げて、

ポツリ、ポツリと順を追って話し始めた。

 

 

 




「つまり、」

 

 

 

なぁちゃんの話を整理すると、

 

 

 

彼が依頼した素行調査の対象が私で、

 

"私だったから"

なぁちゃんは仕事を受けてしまった。

 

 

 

調査したのは、私の日々の行動観察で、

期間は一ヶ月間。

 

 

 

どこへ行って、誰と会って、

何をしたかを見ていたけど、

"盗聴"とか"友人への接触"とかは断じてしてない。

 

 

 

その過程で、なぁちゃんの個人的関心から、

彼のことも調べたら、

とんでもない人だと分かってしまった。

 

 

 

彼に私の調査報告をした後も、

何も知らないだろう"私のことが心配"で、

遠くから様子を伺ったりしてた。

 

 

 

それでも、

調査をしてしまった罪悪感から、

これで最後と、

私の姿を見に行ったのが、あの日で。

 


 

だが、

その時の私の様子が変だと思って、

たまたま跡を追ったら、再会してしまった。

 

 

 

私のことを調査していた手前、

あの時は何も言えなかったし、申し訳なくて、

その翌日からはキッパリと追うのはやめた。

 

 


今日は事務所に忘れられた山根さんのスマホを

持ってきただけで、

まさか私に出会うとは思いもよらず、

とにかく驚いた。



 

 

 

 

「…ってこと?」

 

 

 

『うん、そう…。

 ホント、ごめんなさいっ』

 

 

 

ガバッと頭を下げるなぁちゃんは

何度も申し訳ないと、謝ってくれる。


 


『あの日も、何も知らないフリをして、

 ごめんなさい』



 

「めちゃくちゃびっくりしてるんだけど、

 その、もう謝らないで?」

 

 

 

『ううん、

 私の仕事って

 ただのプライバシーの侵害だし…』

 

 

 

「まぁ、知らない人なら怖いけど、ね」

 

 

 

『だよね、ごめんね、本当に。

 あの、信じてもらえるかは分からないけど、

 関連するデータとかは全部消したから。』

 



なぁちゃんが消したというなら、そうなのだろうし、

そこはあまり気にしていない私。




茂木先生も素行調査の件は

心配しないでいいと言ってくれてた、し…?




おや?




「…ねぇ、もしかしなくても、

 茂木先生のこと知ってる、よね?」




『っ、うん、、はい、』




「そ、っかぁ」




『知ってる…というか、

 仕事の繋がりがあって、

 プラベートでの付き合いもそれなりに』

 



普通なら結び付かないものも、

ぴたっとピースがハマって繋がっていく。




「茂木先生は、

 私となぁちゃんの、その、関係を知ってるの?」




『んー苦笑

 明確に言ったわけじゃないけど、

 気付いてるとは、思う…。


 私がゆうちゃんと彼との揉め事の解決を

 茂木さんに依頼したから』

 



「え、依頼したって、

 弁護料とか払ったってこと?!」




『うーん、正確には、

 茂木さんが私に依頼した仕事を

 無料に変えたというか。』




「一緒だよ?それ。」




『でも私の自己満足的な依頼で…


 あっ、茂木さんには私のこと黙っててって

 お願いしてたし、

 向井地さんも何も知らないと思う。


 だから、あの、気にしないで、』




「いやいや、気にするよ!

 …でも、なんで、なぁちゃんが?」




『それは、色々知ってしまってたから

 なんか腹が立っちゃって、苦笑

 あと、少しくらい、

 ゆうちゃんの役に立ったらいいなって』





そんなこと言われたら…




「そう、なんだ、、その、ありがと」




しか、出てこなかった。

 



それにしても、

まさか、ここ最近のほとんどに、

なぁちゃんとの関わりがしっかりとあったなんて。




信じられないような話ではあるけど、

なぁちゃんの言葉に嘘はないと思う。




彼とのことが早期解決したのも、

何となく感じていた違和感の正体も、

掴めたような気がしてきた。




それに、いつかの茂木先生の言葉、


茂「…運というか、さだめというか…」

それはこのことを言ってたのかも、なんて。






「ふぅ…」




『っ、』




ちょっと消化不良を起こしそうな情報量に

思わず出たため息。




なぁちゃんはそれに敏感に反応して

シュンとしてる。




『…怒ってる?幻滅した、よね?』

 

 

 

「え?怒ってないし、幻滅もしてないよ?

 知らなかったことが多すぎて、

 ちょっと混乱してるだけ、だよ?」


 

 

『だよね、ごめん』

 



「ううん、私の方こそ、ごめんね」




『え、なんでっ?

 ゆうちゃんが謝ることないよ??』




「ううん、私が悪いよ。」




そもそも、

持て余す想いを紛らわそうとして、

素行調査を頼むような彼を選んだのが原因で。




ことの始まりを探れば、

なぁちゃんの元から立ち去った自分が発端で。




なぁちゃんが今回の件をどう思って、

何の為に行動したかは明確には分からなくても、



最終的には、

私の知らないところで、

私の為に動いてくれていたという結果があって。




「心配と迷惑かけて、ごめんね」




『そんなっ、

 私は自分がしたいことをしちゃって、

 その、コソコソしてて、ごめんなさい。』




お互いにペコリと頭を下げる私達。




「なぁちゃん。」




『っ、はい、』




「色々、動いてくれてありがと」




私は申し訳なさと同時に、

なぁちゃんに大切にされている自分がいることが

嬉しいと思っていた。




なぁちゃんがどんな優秀な探偵さんだとしても、

きっと知らないだろう、私の心。




この気持ちを正直に話したい、伝えたい。




目の前で

ずっと小さくなってるなぁちゃんの手を取って、

キュッと握る。




「私も、」




『??』




「なぁちゃんに、話したいことがあるの」




なぁちゃんに別れを告げたあの時にも、

再会したあの日にも、戻れないけど、


私にはまだ、

今から変えられる未来へのチャンスが、ある。




どんなに時が経っても、

どんなに環境が変わっても、

私の中の変わらない気持ち。




ううん、どんどん愛しさが募っていく気持ち。




それがちゃんと伝わってほしい。




願いを込めて、祈りを込めて、

なぁちゃんを見つめた。























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