side Y









ボフッ




『たべたぁーーーー』




ソファに倒れ込んだなぁちゃん。




茂「ぐふふーなんとぉ!!

  デザートにケーキがあります!

  食べる人ー!」




バサッ!




『ハイ!!!』




威勢良く挙手して、

チゲ鍋をたらふく食べたというのに

それからさらにデザートを食べ始める

もぎとなぁちゃん。




お「えぇーなら言っといてよー

  もう食べらんないし」




「私も、無理ダァ」




茂「まぁまぁー!

  ちゃんと残しておくからさ♪」




『ゆうちゃんの好きそうなのあるよ!

 冷蔵庫に入れとくね!』




ニッコニコの二人に

私とおんちゃんは顔を見合わせ苦笑い。




茂「あ、お風呂沸いてるよー」




お「アタシ、まだ動けない」




じゃあ、と

私はお風呂を済ませることにした。




「私、お風呂先もらうねー!」




お「どうぞー」




『いってらっしゃい♪』




茂「シャンプー詰め替え置いてるよー」




「はぁい」




リビングでワイワイしてる皆から離れ、

心の奥底で燻ってるものを

私はお風呂で洗い流そうと思っている。




ガララ




パサパサ




ガチャ




キュ。




なぁちゃんのあの様子からして、

何かを抱えているのは間違いない。




でも、

今それを口にするつもりがないと

分かっちゃうのは、

長年の付き合いの賜物。




こういう時は、彼女から言ってくるのを

待つのが一番良い。




何も言わずに、側にいること。




いつだって

安心できる場所であること。




それが、

学生のときから、

付き合う前から、の私のスタンス。




なんだけど。




ザー




バシャバシャッ




シャワーを頭から浴びて、

流れ落ちていく水を見つめる。




「はぁ、なんか、やだ」




でも、口から溢れちゃうのは

そんなため息混じりの言葉。




だって、

黙って側にいる、

気付かないフリをする、のには、

それなりに我慢が必要で。




少し前までは

なぁちゃんが毎晩遊び回っても、

その遊びの内容が私に語られることはなくても、


何かに疲れれば、

いや、そうでなくても、

最終的に、

羽を休めてくれるのは私の隣だって、

変な自信があったのに。




二人の関係が恋人に変わっただけで、

些細な変化にも、

大きな不安が付き纏ってくるのは

何故なんだろう。




「疲れてただけ、そう、きっと」




何もないと彼女は言った。




本当に何もないのかもしれない、


ただの思い過ごしの可能性も大いにある。




ドライブして、

疲れて、眠たい日。




ましてや

なぁちゃんが私に隠し事なんて…。




勝手に不安になってるだけ。




騒ぎ立てるほどのことも起きてはいない。




「でも、な…」




きっといつもなら、

日常の、些細なことでも、

ドライブして見つけた、小さな発見でも、

何気ない話くらいしてくれるはず。




それなのに、

今日の外出のことは、

何一つ語ろうとしないなぁちゃんが

言ってしまえば、怪しい…。




「怪しい?…なにが?」




ちゃぷん。




「…ブクブク」




ザバッ!




「やっぱ、良くないっ

 お話ししよう。」




気付かないフリをしたところで、

好転するとはどうにも思えない。




思い過ごしならそれでいいし、

心配症だと言われたら、

なぁちゃんのことが好きだからと伝えて

謝ろう。




私は素早く浴室から出ると、

バスタオルを首に掛けて急いで

リビングへ戻った。






ガチャッ




「上がったよー!」




敢えて元気にリビングのドアを開ける。




お「あら、早かったね??」




「あれ?なぁちゃんは??」




けれど、なぁちゃんだけ、いない。




お「眠いって部屋に戻ったよ?」




茂「今にも目が潰れそうだった 笑」




「あ、、そうなんだ」




(やっぱ疲れてるのかな…)




運転に?




何に?







茂「今日△△辺りまで行ってたらしいし、

  ホントドライブ好きだよね、なぁちゃん」




「え、そんなとこまで??」




茂「ボーッと走らせてたら

  そこまで行ってたんだって。

  せっかくなら

  〇〇のパン買ってきて貰えば良かった」




お「ぶーちゃんはすぐ食べ物なんだから笑

  ってかさ、

  ゆうちゃん達喧嘩でもしてるの?」




「え、?してない、よ??」




お「だよね?」




「なんで??」




お「いや、何となく?」




茂「あれじゃない?

  ゆうちゃんの居る時に

  なぁちゃんが先に部屋に戻るなんて珍しいから」




お「んー、確かに。

  まっ、ただの思い過ごしだね!

  ごめんね、変なこと言って」




「ううん、全然 笑

 じゃあ、、私も明日の為に寝ようかな?」




茂「あ、私明日も早出じゃん!」




お「私はドラマ見て寝るー」




茂「え、いいな!」




お「寝なさいよ、あなたは」




「ふふ、じゃ、おやすみ!」




茂お「「おやすみー」」




相変わらず仲の良い二人。




言わなくても、好き同士の二人。




でも、

まだ一番の親友のままで居たいらしい二人。




そんな関係性は、

ただ"恋人"という名前がついていないだけで、

私となぁちゃんとのそれと

変わりはない。




一方で、

その名前が付いた私達は、どうだろう?




パタ、パタ、




「ふぅー」




普段よりもゆっくりと

階段を上がりながら考える。




恋人同士になって良かったことは

勿論沢山ある。




むしろ私達の場合は、

友達のまま、では居られなかった二人なんだと

多分私もなぁちゃんも理解してること。




だけど、

付き合い始めてから、

関わり合う人間を極端に減らした彼女に、

無理をさせてるのではないだろうか?




私と居ることで、

沢山の我慢をさせてるのかもしれない。




こんな些細なきっかけで、

不安になる私はやっぱり重い女だと思った。







好きで、好きすぎて、

気持ちをぶつけるしかなかったあの日。




離れかけていた二人の未来が

しっかりと繋がれて。




愛し合って、

ずっと一緒に居よう、と約束した。




ハッピーエンドを迎えたはずなのに、

恋人になったらなったで、

不意に訪れる不安。




いつか嫌われるじゃないか、

いつか離れていってしまうんじゃないか、

そんなことを思ってしまうのは、

何故だろう。




なぁちゃんを信じてないのかと言えば、

信じていると答えられるけれど、




信じられないのは、きっと自分自身で。




もう何も心配いらないと思えるのは、

もしかしたら、

この世を去る時くらいかもしれない。




パタ、パタパタ。




(話すのは、週末にしよう)




なぁちゃんの異変に気付かないフリをするのは、

自分自身の弱さに

目を瞑りたいからだ。




カチャッ




当たり前のように、

静かになぁちゃんの部屋のドアを開ける。




私の為に、間接照明が灯された部屋。




ギシ。




ベッドの上で小さく丸くなっている彼女の横に

お邪魔すれば、

寝ぼけながらも私の為にスペースを空けてくれる。




「おやすみ、なぁちゃん」




『ん、ゅぅ、おやすみ…』




小さくも、応えてくれた彼女の横で、

今日も何事もなく

いつもと変わらない、

一日だったと心の中で嘘をついて、

私はそっと目をとじた。