side Y

 

 

 

 

 

 

 

『ぁ、』

 

 

 

夜道といっても、

目的地に近づけば、

地図が頭に入ってるなぁちゃんには、

何処に向かっているのか予想できたのだろう。

 

 

 

「分かっちゃった?」

 

 

 

『分かっちゃったー』

 

 

 

なんて言いつつも、

ニコニコしてるなぁちゃん。

 

 

 

『置いてかないでよ?』

 

 

 

「それは、こっちの台詞でーす」

 

 

 

そんな冗談を言い合えるくらいの

信頼関係が心地良い。

 

 

 

 

 

ブーン…。

 

 

 

「よし!到着!」

 

 

 

『運転、お疲れ様』

 

 

 

「ありがと。少し降りてみる?」

 

 

 

『うんっ』

 

 

 

「あっ、後ろにコートあるから」

 

 

 

『えっ、ありがと!』




「でも着替えはないからねー?」




『フフッ、はぁい。』

 

 

 

 

 

ザザーン…。

 

 

 

打ち寄せる波音と、少し肌寒い潮風。

 

 

 

打ち上げ終わりの上機嫌な彼女を連れて

やって来たのは、

私達が仲を深めるきっかけとなったあの海。

 

 

 

「何も見えないね 苦笑」

 

 

 

『ふふ。だね』

 

 

 

お互いにスマホで足元を照らしながら、

私の手を引いてくれるなぁちゃんの後ろを

ゆっくりとついていく。

 

 

 

波打ち際まで歩いていけば、

辺りは本当に真っ暗な世界で。

 

 


二人で居なければ、

ちょっと怖いと思うほど。




繋いだ手をキュッと強く握ると、

クスッと小さな笑い声が聞こえて、

背後から包み込むように

優しくハグしてくれるなぁちゃん。

 



『怖いの?』




「こんなに暗いと思わなかった」




『連れて来たのに?笑』



 

「だって来たかったんだもん」




この到着時間は予定外なことだけど、

どうしても、今日、

二人でここに来たいと思ったのだから、

仕方ない。




『私も来たかったから、嬉しい。』




「なら、良かった。」




ザザー、ザザーン。

 



真っ暗闇の中、ギュッと抱き合って、

波の打ち寄せる音に耳を澄ませる二人。




あれからまだ年月は経っていないけれど、

寄せては返す波のように、

私達の関係も、周りの環境も、

ゆっくりと確実に変化している。

 



あの日、

海に重ねていたなぁちゃんの想いも、

良い方向に向かってくれていたら良いな。




ザザーン…。


 


私はクルリと身体を反転して、

なぁちゃんと向き合う。


 

 

「なぁちゃん、卒業おめでとう」

 

 

 

『ありがとう、ゆうちゃん』

 

 

 

暗くて表情は読み取れないけれど、

きっとクシャクシャな笑みを浮かべてる。




ギュウっと抱き締められれば、

同じ柔軟剤の匂いがして

何だか凄く嬉しくなった。

 

 

 

『あの時は、高校卒業したらさ、』

 

 


「ん?」



 

ここで出会った時のことだろうか?

 

 

 

懐かしく思い出すように、

言葉を紡いでいくなぁちゃんの声に耳を傾ける。

 

 

 

『卒業したら、家も、友達も、過去も、

 何もかも捨てて、

 再スタートするしかないと思ってた。』

 

 

 

「うん、そっか。」

 

 

 

『でも、今は、これまでのことも、

 全部引っくるめての自分で、生きていきたい。

 

 これが私の人生だって。

 

 私だからできること、

 私にしか開けることができない

 未来があるんだって。

 

 そう思えるようになったのは、

 ゆうちゃんのおかげだよ。』

 

 

 

「ふふ、私は自分がしたいことをしてるだけ。

 でも

 今までのなぁちゃんも、

 これからのなぁちゃんも、

 ずっと大好きでいるよ。」

 

 

 

素直な気持ちを言葉をにすれば、

さらにギュッと強く抱き締められる。

 

 

 

『ありがとう、ゆうちゃん。

 ずっとずっと大好きです。』

 

 


「ありがと。

  でも、ちょっとくるしいよ?」

 

 

 

『あっ、ごめん』

 

 

 

クスクスと笑い合って、

互いの表情が見えるくらいに顔を寄せる。

 

 

 

二人一緒に夜空を見上げれば、

満天の星空と綺麗な月が

私達を祝福してくれているよう。

 

 

 

『月が綺麗、ですね』

 

 

 

その言葉に、

彼女が読んだ答辞がすぐに頭に浮かぶ。

 

 

 

「ふふふ」

 

 

 

『ぁ、///』

 

 

 

「ねえ」

 

 

 

『なぁに?』

 

 

 

「もう一回、言って?」

 

 

 

『? ふふっ』

 

 

 

一瞬、不思議そうな顔をした後、

ちょっと微笑んで、エヘンッとわざと咳払い。

 

 

 

そして、

少し言い方を変えて、なぁちゃんが囁いた。

 

 

 

『ゆうちゃん、月が、綺麗ですね。』

 

 

 

"愛してます"

 

 

 

その気持ちがちゃんと届いて、心に響く。

 

 

 

だから、

私も想いを乗せて、返し言葉を送る。

 

 

 

「手を伸ばせば、届きますよ」

 

 

 

月のように憧れで終わらせないで?

 

 

 

その手を伸ばして、離さないでほしい。

 

 

 

そんな気持ちを込めて。

 

 

 

賢い貴方なら、

分かってくれるでしょ?

 

 

 

『もちろん』

 

 

 

「ふふ、」

 

 

 

『一生、この手を離しません』

 

 


そうして、


 

優しい声色と、

 

 

優しい優しい口付けが、私の元に届いた。

 

 

 

 




いつだって貴方に寄り添って、

 


どんな時も貴方のことを想ってる。

 



それでも、



貴方に求めてほしい。



 

「もう一回…」

 

 

 

愛しいが溢れて、呟くと、

クイッと上がる彼女の口角。

 

 

 

『何度だって、』

 



 

これからもずっと、

手を伸ばせば、届く距離に居ようね?


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


手を伸ばせば 完