side Y

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゆうちゃん』

 

 

 

「なぁに?なぁちゃん」

 

 

 

『へへ、ゆうちゃんっ』

 

 

 

私の名前を呼ぶだけで、

自分の名前を呼ばれるだけで、

幸せそうななぁちゃんが可愛い。

 

 


いま、のことではなく、

この先、どうしたいのかを

なぁちゃん自身の言葉で聞けたこと。

 

 

 

その"未来"に、

私を選んでくれて、

私を好きだと言ってくれたこと。

 

 

 

それが、凄く凄く嬉しい。

 

 

 

曖昧だった関係が、

愛の告白によって整理されていくように、

本当の意味で、

私達はやっと"結ばれた"気がした。

 

 

 

 

 

 

 

『あ、ねぇ、ゆうちゃん』

 

 

 

「ん?」

 

 

 

『今更だけど、

 なんであの部屋の場所、分かったの?』

 

 

 

「向井地さんがね、教えてくれたから」

 

 

 

『おんちゃん??

 

 って、まぁ、おんちゃんしか知らないから、

 そりゃそうだ、』

 

 

 

「あの、一応、念の為、なんだけどさ、

 なぁちゃん、

 海外、とか行っちゃわないよね?」

 

 

 

『へ?海外!?旅行??』

 

 

 

今の甘い雰囲気を壊したいわけじゃないけど、

どうしても確認しておきたくて、

我慢できなかった。

 

 

 

それに、どうであれ、

ちゃんと話をしておかないといけないこともある。

 

 

 

私は学校での話をする中で、

向井地さんや茂木のこと、

あの家に行った経緯も、なぁちゃんに説明する。

 

 

 

『そんなことになってんだ、学校。

 あ、海外なんて勿論行かないよ?』

 

 

 

「だよね。でも、、良かった。」

 

 

 

『ゆうちゃんに黙って、消えたりしないから』

 

 

 

「ん?言ったとしても消えないで?」

 

 

 

『!、うん、はい//』

 

 

 

なぁちゃんは何だか嬉しそう微笑んだ後、

学校で起きたことと、

自身は退学だと思っていたことを教えてくれる。

 

 

 

茂木からの情報で聞いていたとは言え、

やはり憤りしか感じない事実に

胸が締め付けられる私。

 

 

 

『…で、あの部屋に荷物を取り行って、

 そこからは、

 ゆうちゃんも知っての通り、かな。』

 

 

 

「ごめんね、近くにいたのに

 何も出来なくて…」

 

 

 

『そんなことない!

 ゆうちゃんはいっぱい助けてくれてるし、

 支えてくれてるもん!

 

 それに、今日だって、

 迎えに来てくれて凄く嬉しかったから!』

 

 

 

「…うん、そっか。ありがとう」

 

 

 

『私の方こそ!

 ありがとう、ゆうちゃん』

 

 

 

必死に気持ちを伝えてくれるなぁちゃん。

 

 

 

そのおかげで心が軽くなるのを感じる。

 

 

 

だけど、寂しさは残るもの。

 

 

 

「でも、学校、あと少し、なのに、ね」

 

 

 

『んー、学校は卒業できるみたいだし、

 もういい、よ。

 

 あ、でも、ゆうちゃんの授業は

 もっと受けたかったかなー』

 

 

 

「私も、最後は100点とってほしかった」

 

 

 

『満点取ったら、コメントなくなるじゃん』

 

 

 

「え、まさか、それが理由、なの??」

 

 

 

『っ、そう、///』

 

 

 

「!

 

 、そっか、そうなんだ、、ふふふ」

 

 

 

そんな理由だったなんて思わなくて、


そんな理由だったから愛おしくて、


恥ずかしそうにしているなぁちゃんを

堪らず、抱き締めた。

 

 

 

『なんか、恥ずかしい』

 

 

 

「そう?私は嬉しい」

 

 

 

『// なら、いっか笑』

 

 

 

ベッドの上で、

抱きしめあって、ケラケラと笑い合う私達。

 

 

 

色々とあったけど、

今楽しくしていられる、

これからもきっとそうだと思える、

それがとても幸せだ。

 

 

 

 

 

ぐるる〜

 

 

 

『!』「!」

 

 

 

『エへへッ』

 

 

 

「ふふふ」

 

 

 

『お腹すいちゃったみたい』

 

 

 

「じゃあご飯用意してくるね?

 

 あ、そうだ!

 向井地さんに連絡してあげて?」

 

 

 

『あ、そうだね、そうする!

 

 でも…不思議だなー』

 

 

 

「ん?何が?」

 

 

 

『ゆうちゃんとのこと、話してないんだよ?

 なんでおんちゃんは、

 ゆうちゃんを頼ってくれたのかなーって』

 

 

 

「私は何となく理由わかる、かも」

 

 

 

『え?ホント??』

 

 

 

何で?どうして?

 

 

目を大きく開いて、

理由を知りたがるなぁちゃん。

 

 

 

「ふふ、なんでだろうね?」

 

 

 

『えー!よし、今すぐ連絡する!』

 

 

 

「心配してると思うから、それがいいね。

 その間にご飯の用意してくるよ」

 

 

 

『終わったら、すぐ行くね!』

 

 

 

そう言って、

スマホを手に取ったなぁちゃんに、

私は微笑むとキッチンへ向かった。

 

 

 

 

 

 

パタパタ。

 

 

 

「さぁて。何が作れるかな?」

 

 

 

最近はなぁちゃんの手料理を

食べさせてもらっていたから、

買い出しには行っているとはいえ、

冷蔵庫事情が分からない。

 

 

 

その上に、

なぁちゃんほど、色々と作れるスキルもない。

 

 

 

この際、出前でも、と一瞬考えたけど、

フルフルと首を振る私。

 

 

 

やっぱり

今日という記念には、手料理が良い、なんて。

 

 

 

(記念、か、笑)

 

 

 

「なぁちゃんといると、

 何でも記念になっちゃうね」

 

 

 

そんな

"らしくない自分"を見つける度に、

私自身も変わっているんだと感じる。

 

 

 

まるで私達の新しい色に

お互いを染め合ってるみたいで、

何だか心地良い。

 

 

 

私はクスッと笑みを溢すと、

冷蔵庫の中身と、スマホを睨めっこして、

記念日の夕食作りに励むことにした。

 

 

 

 

 

トントントントン。

 

 

 

メニューが決まり、

リズム良くまな板を叩いて、

野菜を刻んでいると…

 

 

 

"え!何で分かるの!?なんで???"

 

 

 

寝室から聞こえる楽しげな声。

 

 

 

「声おっきぃなー笑」

 

 

 

だけど、

今日の出来事を思えば、

楽しそうに話をしている様子に安心する。

 

 

 

そういえば、

さっきなぁちゃんが言ってた疑問。

 

 

 

どうして、向井地さんが

他の誰でもなく、私を頼ったのか。

 

 

 

それは、

 

 

 

"私を見てればわかる?!うそだぁー"

 

 

 

「ふふふ、」

 

 

 

会話を聴いちゃ悪いと思いつつも

聞こえてしまうそれに、

笑いが止まらなくて。

 

 

 

「やっぱり、ね笑」

 

 

 

私の中で答え合わせが完了して、

一人で満足感に浸る。

 

 

 

確かになぁちゃんのことを

上辺だけ見てる人には無理だろうけど、

彼女はとっても分かりやすい。

 

 

 

食べ物の好き嫌いも、

興味のあるないも、

顔を見たらすぐ分かる。

 

 

 

私に対してのなぁちゃんは、

とても顕著な変化を見せたんじゃないかと

想像できるわけで。

 

 

 

向井地さんなら、

向井地さんだけは、

簡単にそれを見抜いたんだと思う。

 

 

 

なぁちゃんの性格からして、

親の繋がりがある幼馴染の向井地さんとは、

基本的に建前だけの関係を望むはず。

 

 

 

それでも、

特別仲が良いということは、

利害なんか超えるほどの人間性を

向井地さんが持っているんだろう。

 

 

 

つまり、

それくらいなぁちゃんが気を許せる存在で、

向井地さんは

ちゃんとありのままのなぁちゃんを

受け止められる人ということだ。

 

 

 

そんな二人の関係に、

私は恋や愛とはまた違う、

羨ましすぎるほどの確かな友情を感じている。

 

 

 

なんで、友情、と言い切れるかは

不思議で分からない。




でも、

そもそも早い段階で、私に、

なぁちゃんと話せば印象が変わると助言したのは

向井地さんだ。

 

 

 

思い返せば、それ以外にも

私になぁちゃんとの接点を持ってほしいような

言動がいくつもあった。

 

 

 

テストの件といい、

なぁちゃん本人でさえ気付いていないタイミングですでに、

向井地さんは多くのことを

分かっていたんじゃないかな?

 

 

そう考えれば、色々と合点がいくし、

それだけ見守ってくれていて、

応援してくれていたんだろうなと納得できる。

 

 

 

それにしても、

緊急事態を察して最善の方法を導いた、

確証がない中で、

私を動かすところまで行動できるのは

本当に凄いと思う。

 

 

 

「私達の中で

 向井地さんが一番大人、だな」

 

 

 

なぁちゃんは一人じゃない。




本当はずっと一人ではなかったと

今のなぁちゃんなら分かるはず。




すぐに、とはいかなくても、

私も向井地さんと色々と話をしたいな。

 





ガチャ!




バタバタ!!




『ゆうちゃん!きいてきいて!』




嬉しそうに尻尾を振って、

キッチンへ走ってくるなぁちゃん。




その様子に頬を緩ませながら、

これから二人だけの世界が広がっていく展望に

私は胸を躍らせている。