side N








モノクロームの濃淡でしかない世界で

どれだけ苦しみ、

どれほど涙を流したのだろう。




歌が歌えない未来を憂い眠れなかった夜



変わらない目覚めに落胆する朝



そんな私に寄り添って



「大丈夫。一緒にいるから。」



幾度となく、伝えてくれた言葉は



きっと

ゆうちゃん自身にも言い聞かせていたんだね。







隠し事はもうしたくない。




その言葉が、

ゆうちゃんの本音だろう。




彼女の抱えていた真実は、

全て私の為に厚いベールに包まれていたわけで、

それをやはりまた

私の為に

凄く凄く言葉を選びながら話してくれる。




そして、

ようやく重い荷物を降ろすことが出来たのか、

しばらくすると

彼女は泣き疲れて眠ってしまった。




そんな彼女をベッドに運ぶと、




「…、なぁ…」




小さく私の名前を寝言で呼んでくれる。




(ゆうちゃん、ごめんね)




起こしてしまわないように気を付けつつ、

私はベッドサイドに腰掛けて、

その綺麗な髪をそっと撫でた。




スヤスヤと眠る愛しい彼女は

色のある夢を見れているだろうか…。






お布団を掛け直して寝室を離れ、

リビングへ戻ると

PCで検索エンジンを起動する。




カタカタ…


"色覚障害"




病院では身体的な問題は

全く見つからなかったと言っていた彼女。




心因性の色覚障害も

珍しいことではないらしい。




検索を進めると

心因性の場合、

一般的には原因を取り除けば、

数年で回復することが多いと書いてある。




ただ、ゆうちゃんのように

白黒の世界まで徐々に色を失うのは

稀なことみたいだ。




"全色覚異常 見え方"




(ゆうちゃんには今こう見えるんだ…)




赤も、緑も、青も、無い世界。




少しずつ色を失う恐怖の中で

私の支えとなってくれていたんだ、

そう思うと苦しくなるほど

胸が締め付けられる。




ゆうちゃんの話では、

色だけでなく、

視力もかなり落ちてるそう。




良く考えてみれば

目元を押さえていたり、

眼鏡をかけるようになったりと

多くを思い出さなくても、

その異変は生活の所々にあった。




それを都合の良い形で

気付かないフリをしていたのだ。




(心理的問題の排除…)




きっと、負担をかけてるのは、私。




私が彼女から離れれば、

ゆうちゃんの世界は色づくのだろうか。




そんな考えが浮かんだけれど、

そう考えるのは止めようと

頭をブンブンと振る。




夢を諦めても、

色のない世界でも、

私を選んでくれたゆうちゃん。




私が逃げたら、

絶対に、ゆうちゃんを苦しめてしまう。




それだけは

ちゃんと分かってる。




今は、

これから出来ることを考えていくしかない。




『…はぁ、、、』




時間が経つにつれ

声が出やすくなっている。




私の声は

多分、いや間違いなく

ゆうちゃんが取り戻してくれたものだ。




自己犠牲を顧みることなく

私を助け支えてくれた彼女。




(私には何ができるだろう)




シャットダウンしたデスクトップを見つめて

反射して映る自分のシルエットに

私は問いかけ続けた。