〜🎶



カタカタ…。



今やパソコンとネット環境さえあれば
世界中の人に歌を聞いてもらえる時代。



楽器が弾けなくても音は作れて、
正解なんて分からないけれど
自分の気持ちを言葉にしてハメることも出来る。



(便利な時代になったもんだ)



そんな時代を喜びつつも、
自作の歌を動画にしてアップするのが
私のルーティンである。





小さい頃から
歌を歌うことが大好きで、
それがお仕事に出来たら、
そう、ずっと願ってきた。



中高生の時は
色んなオーディションを受けに行ったりと
冒険心を胸に頑張ってみたものの
チャンスを掴むことはなく。



甘い世界じゃないよと言う親との約束を守るため、
現実的に堅実に、
大学進学をした私。



歌手になって生きていく、
そんな儚い夢はどんどんと小さくなっていた。



それでも、
やっぱり歌うことが大好きで。



世の中で一人でも聞いてくれる人がいるならと、
大学と動画の更新で
私の生活は成り立っている。





カタカタ。



『よしっ、でーきた!』



顔を出さない分、
最後まで聞いてもらえるように、
試行錯誤しながらの動画作成。



その甲斐あってか
動画のクオリティも
それなりに上がってきた最近は
少しずつだけど再生回数を伸ばしている。



『一人でも多くの人に聞いてもらえますように』



パチンと手を合わせると動画を投稿した。



「なぁちゃん、終わったー?」



手をスリスリしている私の後ろから
柔らかい声が聞こえて
クルリと椅子を回す私。



『うんっ!お待たせ!
 お腹すいた??』



「すいたー!
 何食べ行くのー??」



『何にしようか??』



ソファで寛ぐその人の元へ
テケテケと歩いていくと、



「んー、ニク!」



端的にそう言う彼女に私は頬を緩ませた。





私には、
歌と同じくらい大切なものがある。



それは、この笑顔が最高に可愛い、
村山彩希ちゃんだ。



大学の入学式で、一目惚れ?して以来、
積極的な声掛けが功を奏し、
仲良しのお友達となった私達。



この大学三年間は
彼女無しでは語れないくらい、
私の隣にはいつもゆうちゃんがいる。



一緒に居すぎて
彼女のことをどう想っているの?なんて
よくそういう質問をされるほど。



私としては
そこに恋とか愛とかが無いとは
決して言えないけれど…



歌を歌うことが私の生き甲斐だとしたら、
私にとって
ゆうちゃんは生きる意味
そのものみたいな存在で。



いつまでも
ずっとずっと
一緒に居れたら幸せだろうな。



そういう儚い夢を見ているわけだ。





「なぁー、早くしてよー
 お腹くっついちゃう」



『そりゃ、大変だっ』



外では人見知り全開で頑なな彼女が
私に見せるちょっとバブちゃんなところも
可愛くてたまらない。



彼女を恋人に出来る人は
この世で最高の幸せ者に違いない。



「もう、置いてくよ?」



いつの間にか、お出掛け準備万端整えた
ゆうちゃんは
立ち上がって玄関に向かい始めている。



『待って待って!』



私は上着を慌てて手に取ると、
吹き始めている心の隙間風から
目を背けて彼女の背中を
追うのだった。





『で、何食べるの?』



「ニクでしょ?」



『焼肉?』



「いいねー♪」



『ご飯食べたら、カラオケ行かない?』



「うん!
 今日はなぁちゃんちにお泊まり決定」



『いつも泊まってるじゃん?』



「あれー?そうだっけ??笑」



『笑』