side Y









シャワーを浴びて

幾分スッキリした私は

冷蔵庫からお茶を取り出して

コップに注ぐ。




一人暮らしを始めてから

この1Kの部屋が私の城だ。




私は髪を乾かすのも面倒で、

バスタオルを首にかけたまま、

ベッドに腰掛ける。



それから、

半分ほど飲み干したコップを

テーブルに置くと、

スマホを手に取った。






あの日から

度々開いている、あのグループライン。



いつのまにか出来ていたアルバムを覗いては

長年恋焦がれていた茂木ではなく、

その中から

なぁちゃんを探すようになったのは

いつからだろう。




多くの

はしゃぐ茂木とおんちゃんをスルーして、


ベンチでなぁちゃんが撮った写真と

観覧車で

私を守るように抱き締めてくれたときの写真を

見つけるのも容易い。




アルバムの中のなぁちゃんは

どれも"誰か"を安心させるための笑顔。



それは私に向けられたものではないけれど、

写真には写っていない優しさを

思い起こしてくれる。




「ふー…。」




ホントはずっと気になっていた。



ホントは、ずっと、

連絡したいなって思ってる。




でも、

あの日までは確実に茂木が好きだった私が

まだおんちゃんを想っているであろう

なぁちゃんに、

なんて言えばいいのか分からなくて。




だけど、

今日おんちゃんから連絡を頼まれた時、

未だになぁちゃんのことを

一番心配しているのがおんちゃんだ

という事実に

少しだけヤキモチを妬いた自分がいた。



そのヤキモチが

茂木の友達としてなのか

なぁちゃんの気持ちを知る人間としてなのか、

はたまた自分のためなのか。






「んー、

 モヤモヤしてても仕方ないよね」




私は濡れたままの毛先から

落ちる水滴を気にすることなく、

グループラインから

なぁちゃんのマークをタップした。



(今連絡しないと、

 きっともう、チャンスはない)



そんな気がしてならない。




画面には、

友達追加のプラスマーク。




「返事はないだろうけど…」




タンッ。


"追加"



タタタタッ


"久しぶり"



タンッ。


"送信"




「送っちゃった」




流れるように操作した後、

ちょっとだけ後悔して、

届かないかもしれないと不安で

スマホを伏せた。









とりあえず、

夕飯の支度をしようと

ようやくバスタオルで髪の毛を拭きつつ

立ち上がる。





ピコン♪




「え?!」



予想外のスマホの反応に

すぐにそれを捕まえる。




"久しぶり。

 なにかあった?大丈夫?"




突然の連絡にも関わらず、

真っ先に私の心配をしてくれる彼女は

やはり優しい人だ。



私は思わず、

"通話"をタップする。




〜♪〜♪




『…もしもし?ゆうちゃん、?』



少し掠れた、でも優しいなぁちゃんの声。



「なぁちゃん、ごめんね?いきなり。」



『いいよ?

 どうかしたの?』



「あ、んー用事はないんだけど、、」



『…ふふ。

 おんちゃんに頼まれた?』



「…うん」



『そう。心配かけてごめんね。


 …大丈夫だから』




なぁちゃんが言った"大丈夫"


それがとても悲しい響きを届けた。



あ、遊園地の時と同じだ…




「なぁちゃん、」



『ん?』



「頼まれなくても、

 私、連絡したいと思ってたよ」



『そっか、ありがと』



「心配だから、じゃない」



『え?』



「なぁちゃん、今何してる?」



『え、っと? 今は家にいるけど。』



「会いに、行ってもいい?」



『へ?…うん、良いけど、

 どうしたの?

 やっぱなんかあったの?』



「理由は会って話す」




急すぎる私の申し出に、

なぁちゃんは苦笑いを返した後、

最寄駅を教えてくれて、

駅まで迎えに来てくれると言う。




電話を一旦切って

私は濡れた髪をさっと束ねる。



そして、

服を着替えると、

メイクをすることもなく

鞄だけ持って、外に飛び出した。