しかしながら、

子育て未経験者が、いきなり、

4歳と2歳と暮らすというのは、

想像を遥かに上回るものだ。



まずは、仕事と子育ての両立。



金銭的には、

姉達が保険にしっかり入っていたおかげもあり、

問題はない。

ただ、

それ、は出来る限り二人の将来の為に、

取っておくべきだと考える私に、

仕事を変えるという選択肢は浮かばない。



幸いにも

有り難いことに、仕事については、

上司も同僚も、会社としても、

事情を理解してくれて、

今日みたいに多少の残業はあるものの、

全面的にフォローしてくれている。





だが、しかし、

問題なのは、間違いなく子育ての方で。


運良く、元々通っていた保育園が

職場の近くで、かつ、

長時間保育に対応していたことは

良かったものの、

家に帰ってからは、大変な状態だった。



元々、一人暮らしを謳歌していた私。


食事に気を遣うこともなく、

毎日同じような適当なものを食べてきたから、

料理なんてちゃんと出来ない。



洗濯や掃除だって、

サボるわけにいかないし、

お風呂だって、

シャワーで済ますこともできない。



そもそもの生活を見直す必要と、

お弁当に、お裁縫にと、

未経験の出来事の大渋滞で、

毎日がパニック状態である。



私の場合は、その上で、さらに、

子供達の体の健康だけでなく、

心の調子を保ってあげる必要がある。



両親が突然居なくなったのだから、

言葉に出来ない心の穴があるのは当たり前で、

二人とも、

保育園から帰ったあとは、

完全に眠ってしまうまで、

私から離れようとしない。



上手く言葉に出来ない分、

私の想像以上のものを抱えているんだろう。



眠った後も、

突然起きたり、泣き出したり…


少しでも安心させてあげたいのに、

何をどうしてあげればいいか分からない。

そんな、

自分の無力さをひたすらに痛感する日々が

続いていた。



そんな中で、


とにかく、

二人の前では笑っていよう。

元気でいよう。


弱った自分に、そう、毎日言い聞かせては、

何とか日々を乗り越える。









『いただきます…』


今日も何とか二人を寝かしつけ、

やっと自分の食事を摂る。


パクパクと、余り物を口に運びながら、

保育園の連絡ノートを読むのが日課だ。



それには、連絡事項だけでなく、

丁寧に、綺麗な字で、

ももとずんちゃんのことが綴られていて、

今日は何をしたのか、

どんなことを楽しんでいたのか、

こと細かく書いてある。



『ふふっ、ももが言ってたのは、

 これだな』


『ずんちゃんはお昼寝いっぱい出来たんだ』


それを読んで、

子供達の様子を思い浮かべては、微笑む。




保育園でも、

子供達の心のケアを一緒にしてくれていて、

私が行き届かない部分を

見ていてもらえて凄く助けられていた。


特に、

元々ももの担任だった村山先生は、

私が残業で遅くなるときなどは、

夜間保育の時間になっても、

そのまま残っていてくれている。



きっとこの連絡ノートも、

何もかも、私達3人への配慮なんだろう。

そうと思うと、

感謝しかない。







『…ん?


 …っ…』


有り難いなぁ、

そう思いながら、ノートを読み進めていると…


1番最後に書いてあった言葉に

グッと何かが込み上がった。






"岡田さん、困っていることはありませんか?

 抱え込まずに、何でも相談してください。

 一人じゃないですからね?"



その優しい文体は、

自然と、

村山先生の優しい声に変換される。


そして、

ツーっと私の頬を伝ったそれは、

ノートに、ぽたっと落ちた。