『ゆうちゃん、朝ご飯食べました?』


ちょこんと助手席に座る彼女に

声を掛ける。


「起きるの遅くてね、まだ食べてない。」


『それはいけませんね!

 帰ったらまず腹ごしらえしないとだね』




(寄り道してきて、ちょうど良かった!)


ご機嫌に運転していると、


「ふふ。

 なぁちゃん、何か企んでる?」


『え?』


「顔、にやけてる 笑」


『そ、そんなことないですよー?』



確かに企んでいる。

しかしながら、

速攻で見破るとは…ゆうちゃん侮りがたし。



それでも、ポーカーフェイスを装って

ハンドルを握る私。



「なぁちゃんは、、

 隠し事できないタイプなんだね」


凄く小さな声で、つぶやいたゆうちゃん。


チラッと彼女を盗み見ると、

彼女は前を向いたまま、少し微笑んでいる。





何だか初めて聞いた声のトーン。

呟いた言葉にも、何故か引っかかりを覚えた。




その、本当に些細な違和感の正体を

探ろうか、どうしようか、

考えているうちに、家に到着してしまう。




ひとまず考えるのをやめて、

これまで通り、

助手席のドアを開ける。



「ありがとう、なぁちゃん。」


『夜降った雪が凍ってるから、

 気をつけてね?』


「うん。」



ヒョコヒョコと、歩いていくゆうちゃんが

転けないように支えながら、

玄関まで行くと、鍵を開け、

彼女を中に通す。


そのあと、急いで車の荷物を取って、

私も後に続いた。



『ソファで待ってて?』


「手伝うよ?」


『もちろん!

 いいから、座って待っててください。』



私の言葉に?を浮かべた表情のゆうちゃんは

言われた通り、ソファに腰掛ける。



私はキッチンに行くと、

先ほど仕入れたものをペットボトルに入れ、

ゆうちゃんのところへ軽快に戻った。



『ゆうちゃん、体力に自信は?』


「え?ある方だと思う、よ?」


『じゃあ、これ10分くらい振ってください』


「これ?牛乳?」


『へへへ、良いから良いから、

 頑張ってください!』



ゆうちゃんはキョトンとしながらも、

シャカシャカと振り始める。


私はその間に、と

サラダとトースト、スープの支度に取りかかった。





シャカシャカ…

シャカシャカ…


「なぁちゃん、まだー?」


『まだでーす。』


シャカシャカ…

シャカシャカ…


「これ結構キツーい 笑」


『頑張ってー!』



そんなやりとりを繰り返す間に

私はテーブルに作ったものを並べていく。




『よし!

 ゆうちゃんどんな感じですか?』


「なんか、固まった?」


『んーと、オッケーです!』


私はゆうちゃんを食卓テーブルに連れて行くと、

ペットボトルをキッチンバサミで

カットする。


「わぁーやっぱり固まってる!

 なにこれ?!え?なに?」


『ゆうちゃんが頑張った、

 特製バターです』


目を輝かすゆうちゃんと、

作戦大成功でしてやったり顔の私。



「うわ!美味しい!

 凄いね!なぁちゃん!」


素直に喜んでくれ、

予想以上の笑顔を向けてくれ、

とても嬉しい。



『山のちょっと行ったところに、

 牧場があるんですよ。

 朝一にそこで生クリーム貰ってきたんです。

 喜んでもらえました?』


「うん!凄く面白い!!

 ありがとね?なぁちゃん」


『いえいえ』






それから、私達は朝食を終え、

また外で雪遊びをすることにした。


そしてまたもや、

時間を忘れて楽しんでしまって、

気付いた時にはおやつの時間すら

過ぎていた。 



部屋の中に戻ると

2人とも頬を真っ赤にしてて、

顔を見合わせて笑う。



「あー楽しかった!

 もうこんな時間なの?」


『うん!楽しかった!

 ありゃ、お昼食べ損ねちゃいましたね。

 お腹空きました?』


「私はまだ大丈夫だけど、

 なぁちゃんは?」


『私もまだ大丈夫です。

 じゃあ少し休憩して、あったまってから

 早めの夕食にしましょ?』


「うん、あ、私が飲み物淹れる!」


『ふふ、じゃあお願いします。』



私は言葉に甘えて、

暖炉に薪を追加した後、

ソファに腰掛けた。



キッチンでは、ゆうちゃんが

鼻歌を歌いながら、

ココアを作ってくれているようだ。



その様子を見て、

何だかすごくすごく、

幸せな気持ちを感じた。