1995年日本 原作・脚本・編集・監督 岩井俊二  出演 中山美穂 豊川悦司 

「知らない女性からの手紙で同性同名の異性、中学校時代の同級生の自分への思いを知る奇跡のラブ・ストーリー」

日本アカデミー賞優秀作品賞、報知映画賞監督賞、その他各賞受賞

(配信されています.DVDは販売されています。値段はご自分でお調べ下さい)

(2020年12月20日のものを再度掲載します)

 

 同姓同名の異性がいたことがありますか?同姓同名の同性の人ならいたことはあるだろうし、会わないまでもそういう人がいることを知った人は多く、また会った経験もある方もいらっしゃると思います。今はインターネットで名前を検索すると同姓同名の人を発見するのは簡単なはずです。でも、同姓同名って嫌じゃありませんか。同姓同名の人とは会う気になれません。自分と違うのに、名前が同じって変です。名前は自分のIDです。同じIDの人がいるのは変ですし、おかしいです。自分は世界で一人が一番良いと思います。

 でも、この物語は「藤井樹」という同じ名前の男女が中学校の3年間同じクラスに在籍していました。とても違和感のある設定でついていけませんでした。学校と言うところはクラス分けにとても気を使います。沢山のクラスがある中で特定のクラスに何等かの偏りがあってはいけません。だから、3月のクラス編成は3日も4日もかけて生徒の割り振りをします。成績、スポーツ能力、地域、家庭環境、友達関係、リーダー候補、などいろいろな条件を考えてクラスが平均的なクラスになるように作るのです。でも、その期待通りにクラスはならなくて失敗することは多々あります。だから、毎年クラス替えをする学校もあります。

 名前はクラス編成の大きな要素で、同姓同名の人間が同じクラスにいるということは考えられません。クラス編成の失敗です。第一間違いを起こしやすいし、出席を取る時も教科担当が気を使ってしまいます。同じ苗字が二人続くのはしょうがないとしても3人続く場合はクラスを別々にします。だからこの映画の設定はあり得ないか、あるいは、どうしてもそうしなければならない作劇上の都合があったと考えられます。

 ともかくこの中学校のあるクラスには男の藤井樹と女の藤井樹がいました。物語は男の藤井樹が冬山で遭難して亡くなってその3回忌の日から始まります。藤井樹の婚約者は渡辺博子と言って年齢は25,6歳か、もう少し上かもしれません。中山美穂が演じています。博子は樹のことが忘れられません。樹の家で中学校の卒業アルバムを見つけます。そこに樹の小樽の住所が書いてありました。樹は中学時代は小樽、中学3年の卒業一週間前に神戸に引っ越してきていたのです。博子は神戸に住んで樹とつきあっていました。

 博子はその住所へ手紙を書くのです。届かなくてもいい、今、自分は元気にやっていると天国の樹に手紙を出したつもりでした。返事がきました。「私は元気です」と書いてあります。しかも差出人は藤井樹です。読者はこのからくりがわかりましたよね。

 卒業アルバムに博子が見つけた藤井樹は女の樹でその住所へ手紙を出したので、手紙は届いて返事が来たのです。

 卒業アルバムのクラス名簿に二人の藤井樹の名前が並んで載っていないのもおかしいのですが、これも作劇上のことだから仕方ないと許容することにします。男女別で掲載されていて気がつかなかったのかもしれません。今、住所は個人情報ですから絶対に卒業アルバムには載せません。でも、以前はアルバムの巻末に必ず「卒業に当たっての一言」と住所録があったのです。博子の手紙は女の藤井樹へ届きました。

 女の藤井樹を演じているのも中山美穂です。現在の藤井樹も渡辺博子も中山美穂が演じていてとても綺麗で初々しいのです。この二人が男の藤井樹についての文通を始めるのです。

 どう考えても設定に無理があり私としては受け入れがたかったのですが、それを差し引いても余りある感動がラストへ行くにつれて盛り上がってくるのです。この映画はヒットしました。賞もたくさん取りました。この映画で新しく名の知られる俳優になった人がたくさんいます。それだけ印象に残る役を与えられた、また映画が観客の心に響いたということです。

 渡辺博子は新しい男性の恋人・秋葉茂と一緒に小樽へ行きます。すでに自分の犯したミスに気がついて、女の藤井樹の家の前まで行きますが、会わないで帰ります。そして文通で女の樹が知っている中学時代の男の樹の思い出を聞き出していきます。博子はまだ亡くなった樹を忘れられないでいます。手紙を交換しているうちにどんどん博子の知らない樹を知るようになります。と、同時に女の樹も昔の思い出を語るうちに自分の男の樹への思いがどんなもので、男の樹が自分にとってどんな存在であったかを考えるようになります。男の樹が何を考えて生きていたのかも知るようになります。

 ラストは秀逸です。こんなあり得ない設定、しかしこのあり得ない設定の中でしか起こりえない奇跡のような恋愛感情が女の樹にわかります。これほどピュアな恋愛感情を描いた映画はないかもしれません。この純粋さはあり得ない設定の中でしか起こりえないものなのだと思います。

 

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「小樽恋ひ恋ひ」 3月11日 日本映画専門チャンネル 7:00-8:00 2021/3/8再掲
「Love Letter」 3月12日 NHKBSプレミアム 13:00-14:58 2020/12/20
「[用心棒」 3月13日 時代劇専門チャンネル 22:00ー0:00 未定
「砂の器」 3月13日 日本映画専門チャンネル 23:20-1:50 未定
「白い巨塔」12-21話 3月14日 NECO-HD 15:00-24:00 未定
「襲われた幌馬車」 3月14日 NHKBSプレミアム 13:00-14:59 未定
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