1963年日本東宝 監督・脚本 黒沢明 英題 High and Low 
脚本 菊島隆三 久坂栄二郎 小国英雄 出演 三船敏郎 仲代達也 
「観客でしかなかった私の推薦する100本の名画」の一つ
毎日映画コンクール・日本映画大賞・脚本賞 シナリオ作家協会・シナリオ賞他多数受賞
「幼児誘拐事件を息詰まる展開の中、犯人逮捕までを描いた名匠・黒沢明監督の傑作中の傑作」

 

 一度見ただけですべてのシーンを暗記できるくらいで、研ぎ澄まされた映像と出演者全員の演技に圧倒されました。映画館は満員でした。最後の留置場で被害者・三船敏郎演じる権藤さんの面会を受ける山﨑努の竹内銀次郎の演技に驚愕しました。当時のテレビでは「撮影快調」の文字が現金受け渡し現場の新幹線の陸橋のたもとの映像にのってニュース映像として流されました。「用心棒」「椿三十郎」に続くこの映画の公開を待ちわびました。

 原作はエド・マクベインの「キングの身代金」と書いてあり、この小説家はすごい人だなと思ったものです。しかし凄いのは黒澤明監督だと後でわかりました。

 横浜が出てきますが、映画の中の横浜を探し歩きました。きっとあるのでしょうが、私には見つけられませんでした。黄金町と聞いて、黄金町も随分と歩きましたが、映画のシーンと同じ場所はありませんでした。犯人・銀次郎が純度の高い麻薬を仕入れるダンスホール、あの密集して人間が踊るそんなホールが本当にあるのだろうか。権藤さんの邸宅がある高台の家、高台の家から見下ろすと「高台の家は天国で、密集した下のせせこましく並んだアパート街や商店街は地獄だ」と銀次郎が言う場所も探しました。見つけることはできませんでした。でも、そういう場所に憧れました。

 映画は権藤邸の応接室での株式会社「ナショナル・シューズ」の株とか経営権の話で始まります。会社の取締役レベルの会議で会社の中の今後の経営の話でした。どうやら権藤さんは大変重要な時を生きていることだけはわかります。経営を巡る役員たちとの戦いにお金も必要でした。そこへ子供を誘拐したという電話が入ります。権藤さんはあわてます。でもすぐに自分の息子が現れて、いたずらかと一同胸をなでおろします。しかし、誘拐されたのは権藤さんのお抱え運転手の子どもでした。刑事たちが見守る中、犯人への電話に「俺は、金は出さない」と強く言います。もうお金の使い道は決まっていて、権藤さんは会社のことで使わなければならなかったのです。「金は出さない」とみんなの前で言った時のお抱え運転手の今にも泣き出しそうな顔が目に浮かんできます。

 このやり取りの少し前に刑事たちがデパートの配送員に扮して到着しました。あっと言う間に電話機に録音用のテープを仕掛け、部屋での待機の仕方も俊敏でピンと張りつめた空気になります。そこへ犯人から電話がかかってきたのです。

「子どもを間違えた。でも、そんなことはどうでも良い。身代金を3000万円用意しろ」です。犯人は電話の最後に必ず「権藤さん」と呼び掛けます。そして、しゃべり方、指示の出し方が知的なのです。一方、仲代達也率いる捜査員もきびきびしていて、特に仲代がとても頭がよさそうに見えるのです。すごい戦いだな、と思いました。

 全編を通してこの緊張感で映画は進みます。この犯人は人質を殺しません。営利目的の誘拐事件は成功率0%で犯人は全員逮捕されていると聞いています。ものすごく割に合わない犯罪なのです。そしてほとんど全ての営利目的の誘拐事件で人質は殺害されています。殺害されていないケースは誘拐事件が最後まで完遂できなかった場合だけのように思います。しかし、この映画の犯人はお金を奪って。人質を返しているのです。こんな犯人は現実にはいません。顔を見られ、捕まっていた場所も記憶している人質を返すなど手掛かりを警察に渡すようなものです。だから竹内銀次郎は尊敬できる誘拐犯でした。

 人質が戻って捜査会議が開かれます。凄い人数の刑事が手分けして捜査に当たり、その会議で自分の捜査の報告をします。今でこそ当たり前のシーンですが、今までに見たことのないシーンで、警察の捜査の大変さ、共同作業だということがよくわかりました。でも、この捜査会議も映像が綺麗で警察の捜査の緻密さを感じました。黒沢監督の演出が優れているのだと思います。

 誘拐犯はこの人質の子供の証言も手伝って逮捕されますが、この犯人役の山崎努の魅力的なことと言ったらありませんでした。顔もスタイルも犯罪の手際もダンスホールでの麻薬の受け渡しもすべてが格好いいのです。すごい俳優を発掘したなと感心しました。

 誘拐を扱った映画、ドラマは数えきれないほど作られていますが、この作品を抜く映画はありません。断言します。

 

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