監督 朝原雄三 出演 上戸彩、高良健吾、西田敏行
 第37回日本アカデミー賞優秀主演女優賞、他受賞
「加賀藩台所料理担当の武士に嫁いだ女性(上戸彩)の夫への料理指南とその深い愛情の物語」

 「武士の献立」というタイトルから喜劇を想像しました。あまり正統派時代劇を想像しませんでした。劇場にはポスターがありますからそのイメージを受けるでしょうが、どうも正統派時代劇をイメージできませんでした。外国映画はよく主人公の名前がそのまま映画のタイトルになりますが、日本では「宮本武蔵」くらいじゃないでしょうか。タイトルは難しいのです。

 しかし映画は武士道、内助の功、加賀藩御家騒動、幕府と地方の藩の関係等を描き、従来ある時代劇と同じ素晴らしいものでした。カメラワーク、衣装、大道具、小道具、日本の時代劇制作陣の凄さに舌を巻きます。これは伝統です。最近はテレビでも時代劇は減り、映画も少なくなっていますが、まだ昔の40年前の時代劇の風格は維持しています。この映画では料理の道具、膳、椀、台所の様子等、今までの映画ではあまり見せていなかった場所がよく映されていました。このような時代劇の裏の立役者の後継者は育っているのだろうかと心配しています。

 上戸彩演じる舟木春が素晴らしいです。春は天性の料理の才能と味を見分ける舌の持ち主です。それを見込まれて加賀藩台所方・舟木伝内(西田敏行)から息子・安信(高良健吾)の嫁にと頼まれ加賀へやってきます。台所を預かり、おいしい料理を作るのが藩への務めである安信ですが、この仕事をあまり高く評価していません。武士として格下の仕事だと思って自分を「包丁侍」などと呼んでいます。しかし、春が来て春の指導に従うようになってから料理の腕も抜群に上がります。見ていて楽しい場面です。

 しかし、どの藩にも保守派と改革派はいるものです。加賀藩もそうでした。春の夫・安信の親友に定之進と言う改革派に傾倒している人物がいて、定之進に促されて安信は改革派の中心人物に会います。いつの時代も改革派は勇ましいものです。すっかり安信も改革派になびきます。いつも「包丁侍」などと一段下に自分の役目を思っているものですから、本当の武士の仕事、本当の武士になりたいと考えており、改革派に入るのはその第一歩と考えます。

 改革派を重んじていた藩主が急死して情勢は一変します。そういう時、保守派は時を逃しません。改革派の中心人物は失脚、改革派についていた主だった武士は改易と言って役目を取りあげられて、今で言うなら失業してしまいます。しかし、安信は身分が一段下でしたので改易にはなりませんでした。それは喜ぶべきことなのに、もっと武士らしくありたいと思っている安信は面白くありませんでした。

 加賀騒動も収まって、新しい藩主が徳川幕府や近隣の諸藩を挨拶のために宴を開きます。料理番の腕の見せ所です。藩主が代わり加賀藩は一つになったと言うところを、おいしい料理を提供するおもてなしで見せ、お客様にわかっていただくという大切な宴です。安信の父はその総責任者です。それは頑張ります。頑張り、張切り過ぎがたたって心臓発作で倒れてしまいます。その後を安信が引き継ぎます。

 しかし、加賀騒動も収まったとはいっても不満分子は残っています。その不満分子の中に安信の友人・定之進がいます。保守派の中心人物の暗殺計画を安信に持ち掛け、安信は暗殺計画に加わってしまいます。それが武士らしい、たとえそれで死ぬことになり、お家断絶となったとしても悔いはないと思っています。

 その計画に参加するために刀を研いでいる安信を見た春はいてもたってもいられません。何がこれから起こるのか、いつ起こるのか、どうやって止めたらいいのか、必死に考えます。安信も良い夫で、そういう計画があることを春に話し、離縁状までもう書いたと言うのです。

 その時、春は何を一番大事に考えたのでしょうか。春は安信が好きなのです。春は元々前の急死した藩主の側室の下で女中として仕えていました。武家がどのように行動するのかはわかっていますし、当時は武士が全盛ですから、本当の武士がどういう行動をし、どういう結果が待っているかはわかっていました。

 そして、春は命がけの決断をします。それは思いもつかない決断で、現代から見ればたいしたことではないかも知れませんが、でも江戸時代の女性にとってはすごいことのように思います。春はそれをしたのです。女として命を賭けた決断で、それでご主人に殺されてもかまわないというものでした。春の望みはただ、安信に生きていて欲しい、死なないで欲しい、それだけでした。自分の命はどうでもよいのです。

 

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