監督・脚本 黒沢明 出演 志村喬 三船敏郎 脚本 橋本忍 小国英雄 
「7人の侍が寝る場所と食べるものだけを褒美に、村と村人を夜盗から守るために戦う物語」
映画の教科書と言われ、未だに全世界の人々や映画人から絶賛されている傑作中の傑作。映画の歴史の中で全世界で100本の名画の中に入る作品と言ってよいです。

 東映の豪華絢爛な時代劇ばかりを見ていたのですが、この映画を見た時は全く違うものを見た感じでした。きれいでなく、揃っていず、雑然とした中に怒鳴り合う民衆と武士がいて、しかも白黒でとても違和感がありました。それは最初の10分くらいです。農民が村を助けてくれる侍を探しに出るところからストーリーがわかり、映画に引き込まれ後は時間を忘れました。志村喬演じる勘兵衛の侍を識別する鋭さに感心するとともに、人柄の柔らかさに魅せられました。勘兵衛と若い勝四郎が見守る中で、宮口精二演じる久蔵が食い詰め浪人と喧嘩になり決闘をします。その一瞬で生死が決まる決闘シーンに目を見張りました。リアルなのです。

 戦国時代も終わりの頃、収穫期を迎えてたくさんの米などを貯蔵するたった30から40家族の村を襲撃して、野武士たちが収穫したものを奪い去ります。そういう襲撃が米の収穫が終わるころになると毎年起こります。村人はどうしたらよいか話し合います。そして、村を守ってくれる食い詰め浪人を探そうということになります。

 そんな人の良い食い詰め侍が7人集められました。褒美は「飯が腹いっぱい食べられる」それだけです。その7人の侍と村人たちが一緒になって野武士と戦う攻防戦が描かれます。野武士は総勢40人位です。

 すごい着想でびっくりしました。そんな浪人がいるのかなと思いましたが、黒沢監督は嘘は書きません。よく調べてそういう話を聞いてきたのです。映画は3時間を超す長いもので途中休憩が入ります。ですが飽きるどころではありません。見入ってしまう面白さで、息もつかせません。

 巨大エンターテインメントです。戦後9年で、それまでGHQに禁止されていた時代劇を作って良いという許可が出るのを待って、長い間構想を練りに練って作った映画です。黒沢明監督は当時の名脚本家の伊丹万作が若い彼の台本を読んで、「将来が嘱望される才能の持ち主」だと大絶賛しています。黒沢監督は監督として有名ですが、「荒木又右エ門 決闘鍵屋の辻」と言う映画は彼の台本で作った映画ですが、とてもリアルで他の荒木又右エ門とは異なる印象でした。台本を書くのもうまいのです。だから、優秀な脚本家を束ねることができたのです。

 7人の侍が村にやってきて野武士との攻防戦になります。7人の一人一人に個性があり物語があります。野武士との攻防戦も一方的ではなく、作戦もあり、失敗もあります。ストーリー展開も一つ一つのエピソードも優れています。ユーモアもあるし、恋愛もあるし、撮影がまた、すさまじいのです。

 一つだけエピソードを披露して紹介に代えます。

 7人の侍の長は志村喬演じる勘兵衛です。村人を集めて作戦を伝えるシーンです。その作戦でないと村を守れません。しかし、村は皆1か所に寄り集まって住んではいる訳ではありません。村を守るためには、集落から外れた2軒は捨てる、と伝えます。その2軒の住民が「守ってくれないなら、おら、やめるだ」と、その話合いから抜けて、自分の家へ帰ろうとします。すると、勘兵衛はいきなり刀を抜いて、その住民を追いかけます。その勢いにその戻ろうとした住民は顔を引きつらせて、集団の中に戻って来ます。

 その勘兵衛の刀を抜いた時の様がかっこよく、剣を振りかざして、去り行く住民を追いかけるシーンが大好きです。顔がよいのです。意志を感じます。住民はこの勘兵衛を見て、結束して野武士に向かってゆく以外に道はないと悟るのです。攻防戦が野武士全員を殺すまであります。村人と侍の犠牲もいかばかりかと思います。