原題 The War of the Worlds  監督 バイロン・ハスキン

出演 ジーン・バリー アン・ロビンソン    アカデミー特殊効果賞 

「核爆弾でも死なない火星人が地球侵略、人類絶滅、地球移住を目指してやってきた」

 文句なく名作です。初期のカラーSF映画としてはストーリー、映像、あらゆる点で圧倒的に優れていて、今から67年前の映画とは思えません。

 H・G・ウエルズの1898年に発表されたこの小説を読んだ時は興奮しました。当時はまだ「火星人が存在し、地球を攻めてくる」などと言うことがそれほど非現実的ではなく、あり得ることだったのです。オーソン・ウエルズと言う大俳優がいますが、彼がプロデュースした「火星人襲来」のラジオドラマは、それが放送された時あまりの緊迫感で人々にパニックを起こさせたのは有名な話です。本当に火星人が攻めてきたと思った人がたくさんいたのです。

 この映画では、最初に隕石が地球に降り注ぎます。真っ赤に燃えた岩石で、大きさは日本の一軒家が入る位のもので、それが地球に落ちてきました。放射線の知識もない住民がその岩石を取り囲みます。科学者のフォレスター博士がその場にいましたが、大きな隕石の割にできたクレーターが小さいので不思議に思っていました。岩石の割れ目からは内部が赤くなっていて高温なのがわかります。その岩石の表面の岩の一部が丸く小さく回り始めます。岩石の丸い蓋がとれて中から大きな内視鏡のようなアームがすーっと伸びてきます。アームの先は蛇の頭のようになっていて3つ光る大きな眼のようなものがついています。その眼は点滅してあたりを見まわすようにぐるぐるとゆっくり動きます。

 興味深々の住民3人が白旗を掲げて戦う意志のないことを示しながら近づきます。するとその眼からいきなり光線が出ます。光線で住民3人は一瞬で消え、地面に白い人間の形をした灰が3つ残っていました。眼から出た光線はあたり構わず照射し始めます。光線に当たった人間は皆死んで、光線が当たった場所は火が燃え上がります。人々は逃げ惑います。

 この岩石の中には宇宙船が入っていて岩石から飛び立ちます。それは宙に浮かび、空中で停止できます。とても綺麗な宇宙船で小さい空飛ぶ円盤ですが、形は完全な丸いものではなく、スマートな「アラビアンナイト物語」に出てくるアラジンの魔法のランプ、そんな美術工芸品のような形です。それは空を飛びます。地上すれすれを這うように進みます。

 フォレスター博士と教師のシルビアは一緒に火星人によって壊された民家に隠れていますが、シルビアの肩に火星人が手を置きます。彼女は悲鳴をあげます。その手は皮膚が干からびていてとても細いものでした。その手の向こうには火星人の姿が見えますが、それは頭でっかちのタコのような体型の生物でした。

 軍隊が出動し完全に火星人対地球人の戦争です。火星人には地球人と話し合うなどと言う意志は微塵も感じられません。破壊あるのみです。それが全世界に広がり、全滅した都市もあります。軍隊はあらゆる兵器を動員しますが、宇宙船はシールドのような透明の防御壁があって弾は全てはじき返されてしまいます。通常の核弾頭の10倍も強力な核も使いますが、びくともしません。地球はあとどのくらいもつのかとフォレスター博士は軍の指揮官にたずねると、あと6日だと言われてしまいます。人類滅亡まであと6日です。

 火星人は組織的に地球を侵略する恐ろしい知的生命体です。弱点はないのかと探りますが、ここを攻撃すれば必ずやっつけることができるというものはありません。人間に残された手段はもうありません。さて、どういう展開になるのでしょうか。意外な結末ですが、小説を読んだ時はこの解決に感心しました。

 この映画は現在のSF映画の映像の原点と言えます。宇宙船からの光線、地球人焼殺、火事、ビルの破壊、あらゆるSF映像の原点がここにあります。テレビの特撮物の光線はこの映画から始まっています。東宝の1957年公開の「地球防衛軍」は大好きな映画で、宇宙人が宇宙船から発する光線の映像が綺麗でどうやって作るのか疑問でしたが、どうやらこの映画のファンが作った東宝映画だったと推測できます。

 リアルではありませんが夢があり、HG.ウエルズの原作を忠実に映像化しています。今は恐竜も人間とまるで一緒に生きて、隣で走ります。SFの中の宇宙船も現実にありそうですし、「ターミネーター」は指先だけになってもまるで意志があるように動きます。

 この映画の科学者は「光線は中間子を無効にして物質を分解する」と解説し、火星人の武器を分析しています。当時の人はこの映画を見て、びっくりしたと思います。