デルトラクエスト 感想① あらましとヒロイン・ジャスミンについて(ネタバレなし)

 

第一弾の本の感想・紹介として何を書くか、決めかねていましたが、今、心の中で書きたいものとして真っ先に思いついたものから書こうと思います。

本当は1部の感想をまとめて書こうとしましたが、書きたいことがとても多く、とても長くなりそうなので、何回か分けて書いていこうと予定しています。


デルトラ・クエスト エミリー・ロッダ作


巻数は全15巻で三部作構成となっており、1部のデルトラのベルト編が8巻、2部のピラの笛編が3巻、3部の四人の歌姫編が4巻となっております。アニメやそれに伴うコミックもあります。全部話すと長くなるので、今回は1部の簡単なあらすじと力強いヒロイン・ジャスミンについてを中心に語っていきます。

 

あらすじ

デルトラ王国の王家に伝わる七つの宝石がはめられたデルトラのベルトが、長年の策略により破壊され、影の大王によって支配された。序盤の主人公で王家の家臣の息子のジャードは親友であるエンドン国王を救い出し、国を取り戻すため長い年月をかけたある作戦をたて、友と別れる。16年後、主人公がジャードの息子のリーフと交代。16歳の誕生日にリーフは父の秘密を聞き、元デル城の衛兵でジャードとエンドンの乳母だった人の息子・バルダと沈黙の森で出会った野育ちの娘・ジャスミンと彼女の友達のカラスのクリーと毛むくじゃらなネズミのような動物フィリと共に、各魔境に散らばった七つの宝石を集め、姿をくらました王の世継ぎを探し出す冒険の旅に出るという物語です。

 


はじめに見たきっかけは当時のアニメの宣伝が面白そうなことと、元々が冒険ファンタジーものが好きだったのと、父が面白いと薦めてくれたのがきっかけで、日本ではもちろん、アメリカやイギリスでも見かけない独創的な発想の展開やモンスターやキャラクターが魅力的でどんでん返しの連続とその伏線張りの丁寧さ。登場人物が多いにも関わらず無駄な人物や道具が一切ない話の作り方がとても見事で、どんどん引き込まれていきました。伏線張りの教科書と言っても過言ではないほど、そこまでの経緯がお見事なのです。

その伏線張りと大どんでん返しの内容は本当に素晴らしく、この作品かつロッダ先生に引き込まれたきっかけとなった部分でもあり、長くなりますので、別の機会に話したいと思います。


作者のエミリー・ロッダ先生がオーストラリア出身の方なだけあって、物語に出てくる原生生物や植物たちが異様に強く、とてもリアルに表現されています。とにかくまともに戦っちゃダメ、やり過ごすのか得策と言わんばかりの強敵ばかりで、影の大王が送り込んだ手先の魔物や怪人よりも遥かに強い生き物もチラホラいます。また、上記の強敵とは異なりますが、キンという子供や人をお腹の袋の中に入れて空を飛ぶカンガルーみたいな動物も出てきて、オーストラリア人ならではの発想だなと思いました。

 

 

力強く魅力的なヒロインジャスミン

 

デルトラクエストの登場人物で特に印象的なのがヒロインで、一番最初の魔境・沈黙の森にクリーとフィリと一緒に住んでいる少女・ジャスミンです。

彼女は、とても危険な森で育ち、9年前に両親が影の憲兵団に連れ去られ、そこからずっと森で一人で生きていくしか道がなかったという生い立ちから、人並外れた運動神経はもちろん、芯と自立心がとても強いヒロインです。

生きることに対することを常に冷静かつ優先的に選び、時に残酷なまでにシビアな性格で、媚びない、ブレない、デレない(原作小説では)キャラクター像は日本作品にはあまり見ないタイプのヒロインで、読んでた当初とても斬新でとても印象に残る女性キャラクターでデルトラクエストの中心格とも言える存在です。

 

彼女との出会いは、宝石探しの旅に出たリーフとバルダが一番最初に沈黙の森にあるトパーズを探しにいくのですが、入っていきなりウェンという魔物に襲われて毒に侵されて身体が動かず、ウェンバーという凶悪な魔物の餌にされそうになります。

冒険が始まってたった1時間です。最初の冒険でいきなりです。ちなみにまだこれでも序の口と言える事態です。もっとひどい受難がたくさん待ち受けています……本当に。

 

そんなところにジャスミンが現れて捕まって毒に侵された二人を助け………ずに出会ってすぐに追い剥ぎをします。初登場が追い剥ぎです。出会い頭に追い剥ぎするヒロインです。この時点でかなり斬新です。

一応、フォローしておくと、この危険な森をわざわざ訪れる人間は影の憲兵団などの悪事を散々働いてきた悪党ばかりで、リーフ達も同じ穴のムジナと思っていました。その後で、植物と話す能力でリーフ達が悪人でないと知って助け、警告しながらも協力して、最終的に番人を大木の枝を落として下敷きにすることで倒し、トパーズを入手します。

トパーズには現世と霊界と結ぶ力があり、それに触れたジャスミンは母親の霊と再会し、リーフ達の宝石探しの旅の手伝いへと導かれ、まだ生きているかも知れない父親を探すため、リーフ達に同行します。

と、ここまで読むと、一見成り行きで旅に同行したようにも見えるジャスミンですが、実は彼女にも宝石探しをする宿命があり、1部8巻の『帰還』にて判明します。

 


幼い頃から魔境の森で育ったゆえに、勘がとても鋭く、クリーやフィリを中心とした動物や植物と心を通わせることができるため、危機回避能力が非常に強いのです。なんでも自分で考えて、自分で決めて、自分で行動するということが当たり前と考えていて、誰かに自由を縛られたり、命令されたりするのを嫌います。
上記の通り、人間社会と隔絶した人生を送っており集団行動と無縁な生活を送ってきたため、当初は協調性が無く、一般常識も乏しく、いわゆる読み書きそろばんが苦手で、お金(影の憲兵団から盗んだ金貨銀貨を綺麗だとコレクションしてた)の使い方やお店での売り買いを知らないなど乏しい面もあります。しかし、だからこそのジャスミンならではの強みは類まれなるもので、常識が無いからこその、まっさらな目で見たこだわりすぎない柔軟さゆえの非常に現実的かつ合理的な思考で、リーフ達や読者が当たり前だと思っていたことに対して不思議がったりして、盲点を指摘して我々を考えさせるのです。
物語の中でそんな世間一般から離れた環境で育ったジャスミンだからこそ、見えるもの聞こえるもの、気づくものがあり、その能力で何度もリーフ達の危機を救い、実際に宝石の番人や強敵を倒したりしています。というか、彼女がいないとリーフ達は詰んだ状態に陥って、生きて帰ってこれなかったでしょう。

 

ちなみに、こちらも8巻以降で察しがつきますが、父似です。女性的な見た目や性質の部分を除けば九割は父似です。髪の色と質、目の印象は少なくともお父さんに似たのかなぁとなんと無く想像してます。短気かつとても行動的で頭の回転が早いところ、掟や狭い空間など自分の自由を縛られることを嫌う性質はあの人の娘だもんなぁ〜と思うと納得してしまうくらい、父親の性質を受け継いでいます。

 

リーフやバルダと比べると、3人組の中では特に目立つ特徴(黒い鳥を連れた野育の少女)なので、場合によっては変装してやり過ごす場合も多く、6巻では帽子とドレスで上品に着飾った令嬢に扮したり、7巻では毛糸の帽子で長い髪を隠して男装したり(アニメ版では原作と違い男の子っぽくない格好のせいかカットされてます)と色々な姿が見られるのも魅力です。

 

そんなジャスミンにリーフは心惹かれていき、少ないながらも結構大きな感情を表したり伝えたりするシーンもあり、ジャスミンも2部に登場するリーフの婚約者の噂に心乱されます。基本的に仲間と恋愛の間で調整をとっていて、どちらとも取れる絶妙な塩梅での表現が多いのもロッダ先生のうまいところです。

 

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さて、ジャスミンについて熱く語ってしまいましたが、ジャスミンのキャラクターといい、リアルかつ迫力満載の魔物達やオリジナリティあふれる動植物達、時にこれでもかというシビアな描写や独特な発想力と物語構成や伏線のうまさなど、日本ではなかなか描けない世界観とストーリー、キャラクターがとても魅力的かつ斬新な作風は児童書とは侮れない面白さを秘めています。

まだまだ、感想が書ききれませんのでポツポツ色々と書き綴っていく予定です。