コンサートの第1曲目やアルバムの第1曲目というのは,全体を印象づける大切な要素ですが,もっと言えば,第1曲目の「出だし」によって聴衆(聴き手)のハートを掴むことができるかがポイントだと思います。服部克久先生の『音楽畑』シリーズでも『音楽畑5』《銀河伝承》,『音楽畑7』《虹》,『音楽畑8』《喜望峰への道》,『音楽畑9』《オリンポスの神々へ》と「ドーン」と始まるアルバムが続いたので,初めて『音楽畑10』のアルバムを聴いた時は「アレッ!?」と思いました。それでなくても第1曲目のタイトルが《母なる地球》なので,さぞや壮大に始まると思っていたのですが,いい意味で予想を裏切られました。

 楽曲はシンセサイザーの弱音(E♭sus4)の下行アルべジオから始まりますが,まだキーは定まっていません。やがてメロディが順次進行しながら上昇し,少しずつDマイナーに近づいていくのですが,ここが3和音のコードの次にその和音に6度を加えたコードが交代で現れるので,非常に滑らかに上昇していきます。この手法は流石としかいいようがありません。そしてDのメジャー・コードで頂点を築き,そのコードのアルペジオの後,突然同主調転調して主部のDマイナーの部分に入ります。

 主部に入ってもほぼ同じ音価のシンプルなメロディが繰り返され,声高には決してなりません。最後にB♭のコードになってメジャー・キーへの転調を予期させて,Dメジャーの中間部に入ります。ここではストリングスの低音のメロディがじわりじわりと上昇していきますが,それも長く続かずマイナー・キーのストリングスによる技巧的なパッセージ(音楽畑シリーズでも最難度の1つ)からの,服部先生お得意のメロディとベースが反進行しながら順次進行し,D♭で頂点を迎えます。そして遠隔調のDマイナーの主部に戻りますが,2回目なのでストリングスのオブリガードを伴います。そしてそのままコーダに突入し,最後にDメジャーの強奏で楽曲が終わります。まるで「地球もまだまだ捨てたものじゃない」と仰っておられるかのようです。

 さてこの《母なる地球》が収録されている『音楽畑10』ですが,他にもコンサートでよく演奏された《淡紅色の夢》《伝説の黒い森》,吹奏楽に編曲され『バンド維新2014』にも収録されている《マット・グロッソ》,ピアノ・ソロ版もある《パープル・ファンタジー》,個人的に大好きな《マーメイド》《桜草の詩》《キャメル・ウォーク》,サーカスがヴォーカルを務める《パンテーラ》と名曲揃い!「ド-ン」とは始まりませんが,『音楽畑10』に相応しい第1曲目です。