月の王様、エウラシオンは遥か神代から繋がるプレアデス系王朝の嫡男であった。しかし、生まれた頃より国内は衰え、領土も度重なる戦乱によって縮小の一途を辿っていた。才能ある将軍はおらずこれと言って目立つ家臣もいなかった。力のある文人などは既に国外へ食客として出て行ってしまったので、人々の習慣や文化は崩壊しつつあった。国としては今わの際に置かれる中、王族の面々はなす術が無いどころか享楽に耽っていたため、いつ何時クーデターや大国に滅ぼされるかどうかおかしくはない状況だった。
先王は美しい女性で、すずしろを思わせるがごとく白い柔肌に豊満な体躯と優し気な顔が男を魅了した。おまけに甘ったるく少女の様な声色、否定せず良い反応で答えるのが常だったので、どこまでも大方の男にとって「可愛い女」であった。当然、男性遍歴は多彩で数多の愛人やジゴロを抱えていたが、初めに結婚した夫は愛想尽かし遠い星へ蒸発して既にいない。エウラシオンの父親はいずれの誰かだが、もしかしたらこの夫がそうなのかもしれない。それを確かめるには遅すぎるし藪蛇だが。
この男好きで性欲の強い王は最早、位だけが与えられた紙面上だけの存在にしか過ぎなくなっていた。嫡男である我が子を抱いても、どこの馬の骨か分からず一寸先の見えない世情と現実が迫ってくるような気がして愛情など湧かなかった。
王が母としてやったことと言えば、エウラシオンの養育を傍系の家臣や乳兄弟の侍女に任せ、教育をインテリの愛人に押し付けたことである(と、同時に適当な慰謝料をよこして異性関係としては終わりを迎え、エウラシオン一派を離宮へ追いやった)
この判断は後に王朝の滅亡を決定付け、月面の派閥を一変させるものへと繋がってしまった。
エウラシオン
動物型ヒューマノイドと地球人型ヒューマノイドの混血児。この特徴からクーデターを目論む一部の家臣に利用され、幼少期は傀儡の君主として御輿に担がれた。学校には行っておらず、家庭教師のラプソラやコルテオに師事する。しかし、彼らだけでは不充分になるほど頭脳明晰であったエウラシオンはより一層、帝王学や武術を習得しなければならなくなり、家臣らは途方に暮れ東奔西走する。
結果として、今の財力や兵力では問題が解決しないことが分かり、別の大国から多大な支援を受ける寺院に出家して学問と武術を修めることとした(だいたい彼が14歳ぐらいになるか第二次性徴が始まるぐらいまで)
月の辺境にある弱小国に嫡男として誕生。誰が父親か分からず、しばらくはまともな愛情を受けられなかったが、見かねた乳母に育てられる。親戚筋の家臣や乳母(母の乳姉妹で侍女。彼女は女王に直接意見できる貴重な存在だった)、エウラシオンの派閥になることを選んだ家臣や、母のかつての愛人であった若い貧乏学者と共に離宮へ追いやられてからの方が幸せになったと言う、皮肉な結果となった。
8歳ぐらいで出家してからは学業と武術に勤しみ、心身ともに修行する日々を送る。男だらけの険しい世界で孤独を埋めようとして家臣らとは文通を交わしていたが、精神的に辛いのは変わらなかった。また、14、15歳ごろに第二次性徴の最も高い時期を迎え「大人」になったら、真っ先に電報を打つようにと家庭教師兼家臣のコルテオから命令される(⁼還俗して家に帰れる)
13歳になって、この一文に訝しみながらも電報を打つとしばらくして、更に14歳になるまで待機せよとの通告が来る。
さすがに怪しいと思い、寺院の一番偉い僧侶(主に資産家の子息を監督する役職に就いていた厳しい教育者)に尋ねてはみるが、「良いから修行しろ」の一点張りで暖簾に腕押しとなった。
実際は返信の電報を預かったコルテオやその他の家臣達がエウラシオンの御妃を探したり、宇宙の高次元意識を天の川から召喚して一から御妃を作ったりするかどうか決定する最終会議に入っていたので、極秘にされていた。件の御妃は結局一から作ることになり、肉体を宇宙から生み出し(簡単)、天の川に存在する女性的な意識の魂をかなり高次元から呼び出す荘厳で高度な儀式をすれば完成となる段階に入っていた。この儀式には王となるエウラシオンが精通して成人の禊を済ませる必要がある。
結局エウラシオンが帰れたのはあと数か月で15歳になる頃になってからっだったが、そこで初めて御妃となる女の体を目にすることとなる。
→イオ(妻)
実は何度か過去世でエウラシオンとの(腐れ)縁が深かった女性。膨大な転生を経て、一旦天の川の意識として身を落ち着かせていたところをコルテオらによって召喚される。
名もなき田舎の豪族と見なされ、花嫁候補が見つからなかったエウラシオンのために一から作って誕生したオキサキさま。
かと言って受肉した経験の無い魂では意味が無いので、熟練の魂を探して空っぽの肉体に入れるまでに時間がかかってしまった。
熟練の魂は体を持って何万回も転生した上で輪廻を終わらせ高次元に帰還していること。なおかつ女性的な性格であることを条件に選定された。
なぜここまで花嫁候補が見つからなかったのかと言えば、メウロピシスがせっかく貴族出身の子息を婿入りさせることに成功したのにも関わらず、度重なる不品行によって逃げられてしまい悪評が根深く残っていたからである。その時、夫に逃げられていなければ、おそらくエウラシオンも似たような地位の令嬢と見合いできたかもしれない。
→エウラシオンの過去世
元ははるか昔から月にいた道祖神のような魂が肉体を持ってうまれた存在。悪霊の様な側面も持つ。
高次元意識の魂を持つイオと結婚して子孫を残す運命を作るためにかなり昔から計画していた。
まず、一旦チャラバンサーと言う分身の男性を作り、ロキア(イオが最後に転生した過去世)と一目惚れさせ悲運の最期を遂げさせて大きな因縁を発生させる。ロキアからイオに転生する間、繋ぎとして地球人と物理的な取引をする悪霊のような存在(産業神に近い)として近づき、キツネの様な動物の形をとって互いに遊び耽る(楽しく幸福な思い出を作る)
イオに「私とあなたは二人で一つ」と言わせて、魂に刻み付けられるぐらいの距離を縮めていった。
母王(メロピシス、ミウローピー)
地球人型ヒューマノイド、プラチナブロンド。
(大方の)男の理想を詰めたようなプロポーションの女性でファムファタルのような存在。
性欲旺盛で奔放な性格をしており、何人もの愛人やジゴロを抱え、わざわざ婿入りした初めの夫からは逃げられてしまった。
当の本人はちゃんとした躾や教育を受けられず、愛情を知らないで育ったのと、性格も相まってか息子のエウラシオンのことは邪魔者としか考えていなかった。
乳姉妹のラトゥンとは家族同然に育ち友情もあったが、大人になるにつれ意見の食い違いが生じるように。自分は大人になれない親としての責任を全うできないと考えたメロピシスはエウラシオンの世話をラトナーに任せる。
ラトナー(エウラシオンの乳母)
エウラシオンの誕生に立ち会い、手塩にかけて育てた。メロピシスの乳姉妹で生活のほとんどを共にしていたが、対照的な性格で常識人。メロピシスと違い巌の様ながっしりとした体格で背も高い。外見は巨大な狼と言った方が早い。
国境線沿いにある田舎の使い古された離宮(と言う名の要塞)にエウラシオンやその他の家臣と共に追いやられ共同生活する。
母親も乳母だったが娘とは対照的に風見鶏で軽薄なタイプ、娘が成人してからは折り合いが悪くなり音信不通に。
ラプソラ
才色兼備な優男だが、性格はわりとドライで活発なタイプ。
現代地球人で言う所の院卒貧乏研究者。理系の神童だったのでもてはやされていたが、ありとあらゆる研究がシリウス人に占有されていたので、生活が苦しく途方に暮れていた。紆余曲折を経て腹を括り、(一研究者に金を出せるほどには財産があった)エウラシオンの母王の愛人になった。しかし、わずらわしい息子を隅にやろうと考えた母王から「養育費と給料は払うから家庭教師になれ」と言われ、更に辺境に位置する要塞に体よく追い出される。
踏んだり蹴ったりな結果となったが、好きな研究にありつけ大きな部屋も手に入ったので不満はちょっとしか無かった。
一応エウラシオンには教師としての愛情はあり、後に出家する際は叱咤激励して僧院へ送り出し、文通を交わした。
地球人型ヒューマノイド、黒髪。
コルテオ卿(家臣兼家庭教師)
元々は二代前の時代より使えていた古株の家臣で、エウラシオンが離宮に追いやられた時に一緒に付いていった。
古株と言ってもまだまだ中年盛りで、辺境を治めると言う野心も持ち合わせており、早めにエウラシオンの才能に目を付けていた。やる気はあり、自ら士気を高めて鼓舞することもありカリスマ性はある様子。
辺境の離宮に移ってからは近隣の住宅地に家族と一緒に転居して通勤生活を送っているマイホームパパ(ただ寝泊りが多い)
陰で海千山千の狸おやじと囁かれていたが、元々歩兵からの叩き上げで戦場で重ねた功績によって爵位をゲットした苦労人。
エウラシオンにはもっぱら武術と読み書きを教えていたが、猛スピードで学習していく様子を見て高等教育を受けさせたいと考えるようになった。
動物型ヒューマノイドと地球人型との混血児、プレアデス兵士の落とし種。
シドリ
10代の頃のメロピシスが目を付けていたページボーイ。ただし、後に彼が悪い噂の絶えない男色家の貴族(シドリの叔父)に囲われいていたことが分かり眼中から消える。貴族の次男か三男でふらふらしており、胡散臭いパーティーを出入りするような生活を送り、心身ともに荒みきっていた。全ては妻子持ちでありながら、そしらぬ顔で自分に関係を強要してくる叔父を忘れるためだった。従妹にすすめられた同年代の少女と付き合うことになってからは一変して真面目になったが、彼女に別の好きな男性がいることが分かり身を引く。
破局した後は叔父の娘と結婚して、間もなく第一子を授かる。妻は不良として悪名をたれ、父との噂が絶えないシドリに対して良い印象を持っていなかったが、勝気で頭の回転が速く、根は優しい部分もある彼を信用するように。
その前後、一族内の長老達の間で不祥事が続き、叔父が変死体で発見され、シドリにも疑いの目がかけられるが真相は藪の中である。